114話
穏やかな日差しを覆うように上空を飛び回る。体はコウモリ、しかし首から上はヘビをくっつけたようなおぞましき姿…舌をチョロチョロと出し、ギョロギョロと大きな目を瞬かせ、今日の犠牲者を悠々と見定めているようだ。奴の名前はスタージ。ゴブリン同様に人々へ害をなす悪しき存在。
「ば、ばかな!もう奴らが!」
村長は表に出ると、空を見上げて狼狽する。スタージの群れは、外に出ていた家畜たちを最初のターゲットにしたようだ。襲撃がここまで早まるのは想定外だったのか、まだ家畜も住民の避難も完了していない。犠牲者が出ることを悟った村長は膝から崩れ落ちる。
村長宅からロマネたちも慌てて出てきた
「す、すぐに住民の避難の手伝いをするであります!」
ロマネが指示を出すがアンセが口を出す
「ちょっと待ってくれ!その間に家畜がやられたら任務失敗だぞ!どのみち食っていけなくなる!この数を四人で全部抑えるのは無理だ!」
「で、ではどうすれば……」
動揺するロマネへ村長がすがりつく
「冒険者さん!はやく、はやく助けてくだされぇ!」
「っち。ロマネ…お前はずっとそうしていろよ、オレサマが助けてやる」
グランだ。目には闘志の炎が灯っており、上空のスタージを見つめる。剣は騎士が持つものよりも、ずっと幅広のブロードソードを装備しており、刀身が数打ちよりも長い。肩当てに乗せるように片手で担いで鼻を人差し指でぬぐった。
この武器は、遠征前にシールドウェストの武器屋で調達したものだ。サトルのオススメ!ということで一人ひとつはクロスボウと小型ナイフを所持させている。しかし、グランは遠距離武器が嫌いなようで、鍛冶屋のドワーフに無理を言って、これを特注してもらったのだ。グランはナイフもクロスボウも捨てて、大きな剣一本で勝負するスタイルを好んでいる。
「デビュー戦…花々しく、いや、泥んこ塗れでスタージの首を飾ってやるよおおお!」
グランの叫びで何匹かのスタージが、グランめがけて襲いかかる。翼を大きく広げて、鋭い爪とヘビの口を剥き出しにして飛びかかる様子は、たとえ体長が小さくても獲物を恐怖させるには十分な迫力だ。
「おらあああ!」
両手でブロードソードで上空を裂くとスタージを一刀両断してみせた。他のスタージは仲間の死を物ともせず続けて飛びかかるが、致命的な攻撃となる吸血攻撃と毒攻撃を[受け流し]で未然に防ぐ。同時に反撃で確実に攻撃を当てる。スタージは得意の牙を肌へ当てることができずに雄叫び。グランの攻防一体を体現した動きは見事という他ない。これがバトルマスターの強い所だろう。心は熱く、しかし戦いは冷静に、防御から攻撃に転じている…初戦とは思えぬほどの動きだった。
襲いかかってきた残りの二体も、グランはかすり傷程度の被害で倒して見せる。最後に飛びかかってきたスタージを一閃すると、それには目もくれずにブロードソードの切っ先をロマネへ向けて宣戦布告
「お前じゃ、サトルから貰った力は使いこなせねぇ。それを証明してやる。オレサマたちとお前たちで、どちらが多くスタージを倒せるか。ロマネ、勝負だ…!まだまだ上にはおかわりがいるからよ」
グランの叫びで襲いかかったスタージは群れの一部にしか過ぎない。まだ上空には獲物を探し回るスタージがわんさかいるのだ。
依頼主の前で恥をかき、ライバルであるグランにここまで言われて冷静になれるほど、お人好しではなかった。
「もう、我慢できないであります。乗ってやる。お前たちは何時もいつも、周りに迷惑をかけるだけって、ここで証明する!!皆、ついてきてほしいであります!」
「へ…そうこなくちゃな。お前らもいくぞお!」
それぞれのパーティーでの役割を決めず、全員で上空のスタージに打って出るようだ。防衛戦としてみれば失格だろうな…。
しかし、防衛対象を放置で討伐を目的とするとは…あの子たちは……
「…サトル」
「カルミアさん、どうしたの?」
「このままじゃ、住民にも家畜にも被害が出る。手を出していい?」
「そうだね。被害が出そうなときは、ごめんだけどお願いする。でも、もう少しだけ彼らにチャンスを与えてほしい。サリー、家畜に向かっていってる魔物を足止めできる?」
「オッケー!まとめて[コンフュージョン]!」
避難中の家畜めがけていたスタージは[コンフュージョン]の効果で混乱。同士討ちを始める。よし、これで時間は稼げる。これくらいの手助けなら、あの子たちにも村の人たちにもバレないだろう。
時間稼ぎも限りがある。彼らには今回の依頼で気がついてほしいところだが……自分たちが何のために力を振るうか。
「何のために…か……フォノス。どこで何しているんだろうな」
この依頼が片付いたらフォノスが帰っていないか、先生のドメーヌに聞いてみようかな
TIPS:スタージのステータス
ヒットポイント:2
筋力:4
敏捷力:6
耐久力:1
知力:2
判断力:2
魅力:0
特技:
[毒攻撃][吸血]
特徴:
群れで生活する。獲物を襲うときも決まって群れだ。一匹だけ現れるのは稀だが、はぐれスタージは強力な個体が多いので注意が必要。吸血と毒を同時に行うことはできない。