113話
学び舎での喧嘩騒動以降、両派閥の子供たちはそれぞれで特訓を続け、スタージ討伐に備えた。特訓中はグランとロマネは互いに一言も口を聞かない状況が続き、とうとう遠征当日まで仲直りすることはなかった。
そして、シールドウェストの町から出発し、スタージの被害を受けているという村にまでやってきたのだが……
「村に到着したな。想定では明日かその次の日くらいには、例の魔物が群れで襲ってくる周期になるらしいから、各々準備を怠らないように!そして、仲間たちと連携して必ず達成するように!」
俺は後ろに続くメンバーへ号令をかけるが、グランもロマネも『連携』のところで苦い顔を晒す。あれからずっとこんな調子なのだ。二人共、仲良くするのがそんなに嫌なのか…!
当然だが、俺のパーティーは引率として参加。今回は基本的には見ているだけだ。グランパーティー、ロマネパーティーの二部隊編成にて依頼を進め、戦ってもらう。これは、本人たちの問題解決能力を測る目的もある。
「サトルさん!質問よろしいでしょうか!であります!」
「ロマネか、いいぞ」
「何故グランと一緒に任務をこなさねばならないのでしょうか!私達だけでも達成できるように思うのでありますが…!」
グランが歯を剥き出しにしてロマネに威嚇する
「オレサマたちだって、お前らと一緒になんて御免だね!サトルのお願いじゃなきゃ、お前が居るって時点で任務は受けたくなかったんだ!」
また喧嘩が始まりそうだったので、手を合わせて強制的に打ち切る
「はいはい、そこまでだよ。お金が発生している時点で、もう遊びじゃないんだ。君たちの感情は、ひとまず置いておいて、今目の前で困っている人を助けるべきだと思うんだ。違うかな?」
「ッチ…」「…むう」
不満そうではあるが、従ってくれるようで助かった。目的を忘れないように、ちょっとだけヒントをあげてみる
「…まずは、依頼者に挨拶だよ。この場合、依頼者はギルド員の知り合い経由だけど、村全体に危機が及んでいるから、状況確認を含めて村長で良いはずだ。任務を受けに来たことを伝えて、必要な情報を収集する必要があるんじゃないかな?」
ロマネのパーティーにいるニエールは、素早くメモを取りながら、進言する。いつ見ても彼の立ち位置は、宛ら作戦参謀っぽい
「ロマネさん、グランたちは放っておいて、我々で向かいましょう。サトルさんのアドバイスを受け入れるべきです」
「…そうでありますな。全員、行動開始!」
ロマネはグランを睨みつけて、村長宅まで歩いてく
「もしゃもしゃ…感じが悪い奴らだなぁ…」
「えぇ、まったくね!なんで、あんな人たちと協力なんか…」
グランは少し考えて、はっと閃く
「そうだ!良いこと思いついた!スタージは群れで襲ってくるんだろ。なら、たくさん倒して、あいつらより手柄を立ててしまえばいいんだ!絶対に悔しがるぞ」
グランはニヤついた顔で、ロマネたちの後を追っていった。
「もぉ~、あの子たち。本来の目的忘れているんじゃないの!?ウチがビシっと言ってあげようかしら」
イミスが困り顔で両腕を腰にあて、村長宅に向かうグランたちの背中を見つめている。
「二人共、負けず嫌いなんだよネ~!見ててちょっとだけ楽しかったりするかモ、フフ」
サリーはクリュを抱えながらニコニコしている。動物がとっても好きらしいので、クリュをお迎えしてからは笑顔に磨きがかかっている気がする。俺からクリュを奪い取って、毛玉犬をミイラ犬にチェンジさせるのが最近の彼女の日課のようで。まぁ、そのおかげでクリュの怪我はほぼ完治しているのだが。
……
事情聴取はロマネたちの得意分野で、村長から概ね村の状況と敵の数、そして被害状況を聞き出したようだ。敵の数は目測で20程。襲われる周期はギルドの話と一致しており、予定ではそろそろ襲撃があるかもしれないとのこと。そして、家畜を何頭かやられている。討伐よりも家畜の守りを優先してほしいというのが村長の希望だ。
「…という状況であります」
ニエールが自作の地図に、村の情報と守りを固める位置を決め始める
「そうですね。それでしたら、どの方角から来ても対応できるように、家畜を一箇所にまとめてしまいましょう。ピュリニーとアンセは、家畜が居る小屋の防御で北と南側に展開します」
アンセが作戦内容を見て唸る
「うーん、俺っちはそれでいいけどよ。そしたら他の住居はどうするんだ?もし人が襲われたら、動けないと不便だ」
ピュリニーはため息をついた。アンセを見る目とロマネを見る目は温度差が激しい。ロマネをお姉さま呼ばわりしていることからも、ピュリニーはロマネが大好きなのだ。
「はぁ…アンセはバカね。村長の希望は家畜がこれ以上減らないこと。これ以上減ったら冬が越せないって言ってたじゃないの。食いつなぐために、時には人を見捨てる必要もあるのよ。…そうですよね!ロマネお姉さま!」
「…そうでありますな……しかし、できれば人も家畜も被害を出さない方法を探したいでありますが」
「それならよ、グランたちに協力するように言ったらどうだ?俺っち冴えてるな!」
「そ…それは……ダメなのであります。あんなヤツに頼るなんて…」
グランたちは村長の話を最後まで聞いた後は出ていってしまって、皆で内緒話を始めている。これがロマネにとって、更にイライラしてしまう要因にもなっていた。
「グランたちは、サトルさんが与えて下さったお仕事を、ないがしろにしている気がするであります。そんな人たちの手を借りても意味ない…と思うのでありますよ」
襲撃に備えようかという話でまとまり始めたとき――
「スタージが来たぞおおおお!襲撃だああああ!」
想定よりずっと早く、奴らがやってきたのだ!