11話
「お!見たことがない花だ! すごい…っは!いけない、いけない」
稼ぐぞと意気込みつつも、俺はちゃっかり森の散策を楽しんでいた。見たことがない草花や木、鳥に至るまで目に映るもの全てが本当に新鮮だ。可能であればルールブックとにらめっこをして、一つずつ調べていきたいところではあるが、サリーから依頼された草の採取が先決なので断腸の思いで採取を続行する。
しばらく彷徨ったが思っていたより見つからない気がする。いくつか集めることができたがもう少し必要だろうか。森の中だから当然といえば当然だが、土の臭いしかしない…。腐葉土っぽい臭いが辺りを支配しているため、まったくアグレッシブミンティの香りがしないのだ。そして草だらけなので目視でも難しい。何よりの敵は俺自身の好奇心なのだが。サリーは手慣れた動作でどんどんと草を回収している。草以外にも木の実やツルのような物まで刈り取っていた。陽光が強くなってきた時間なのでお昼に誘ってみる。
「サリーさん!休憩にしませんか?弁当作って来たんですよ!」
「さいこう~!ご飯ダイスキ!」
丁度良い水場と切り株が見つかったのでそこで食事休憩を取ることにした。今日の昼ごはんは、なけなしの資金で調達したパンと店で売っていた何かの肉を宿で調理して挟んだ簡易サンドイッチである。大した料理ではないが、サリーは喜んで食べてくれた。とりあえず収穫報告だ。
「これだけしか集まらなくて、サリーさんごめんなさい」
少しだけ収穫できたアグレッシブミンティをサリーに見せる。困らせちゃったかと思ったが、全くそんな気はなくお礼を告げてきた。
「とってもとっても嬉しい。ありがとう!ウン…ご飯もとっても美味しいよォ~!」
サリーは感謝して両手をつかんでブンブンと振って握手してくれる。大したことができなかったが、こんなにも感謝してくれるなんて本当に良い子だ!そしてかわいい!サリーの毒気の無さにほっこりとしていると、近くの茂が怪しくガサつく。
二人が手を取り合ったまま笑顔で硬直してその茂に顔を向けると、そこから大きなウルフの顔が、こんにちは!
「ぎゃあああぁ!」
「アアアアァ!」
仲良く叫び声をあげるとサリーと抱き合い身を寄せる。しかし何の意味もなくウルフは一歩一歩と茂から出てきて餌を見つけたと言いたいのか、おぞましい唸り声をあげた。そしてサリーもよくわからない唸り声をあげた。
良い匂いに釣られたのだろうか?しかし森の浅いところでは魔物は本来出てくるはずがないのだ。しかし目の前にはウルフちゃんが。しかも何だかサイズが犬よりも二回りほど大きく、色は茶色っぽい。背中には立派なトゲのようなものが生えている。咄嗟にサリーを守るように前に出てみたのは良いが、出来ることがほとんど無い。相手の迫力に挫けそうになる。くそう、俺もクラスチェンジできれば良かったのだが。
「ササ、サリーさん!なんとかならないかな? …魔法とか!」
「アタシ、魔法ムリ!アルケミストは調合が得意なの。しかも将来有望な見習いダ~!」
「え…今将来とかどうでも良くないですか!? あと、その魔法使いっぽい格好って何なんですか!?」
「コレは雰囲気!魔法を使うのが夢なのヨ~! 似合ってル~?」
サリーは今日一番の笑顔でウィンクしてみせた。今それどころじゃないところを除けば可愛さ満点をあげたい。
ウルフの魔物は俺たちに向かって飛びかかってきた。先日戦った賊と比べると大したことはないが、かと言って俺たちが持っている装備で対抗できる手段がない。
「仕方がない…。サリーさん、俺が囮になるのでその間に少しでも距離を稼いで逃げてください」
サリーがキョトンとした顔を見せる
「あれ…? アタシを見捨てて逃げないの…?」
「そんな事、できるわけないでしょう」
ウルフが噛みついてくるので、ルールブックを使って防御する。意外とこの本は頑丈にできていて、現時点で持っている物の中では盾として最適だがこんな使い方は非常時でもやりたくないものである。
「一緒に採取を頑張って、一緒にご飯を食べたサリーさんは、もう友達だと思っています。こんな所で逃げたら、カルミアさんにも怒られてしまいますからねっ!とと」
「サトル…」
ウルフの攻撃も激しくなるが、チャンスも訪れた。
*対象 サリーの友好度が一定以上を確認 クラスチェンジが可能になりました。*
何もせず現状を打破する方法が無い以上、あとであやまるしかなさそうだ。
「ごめんなさい!サリーさん。力を貸して! クラスチェンジだ!」
「よく分からないけど、サトルを信じる!」
そう言うとカルミアの時と全く同じように眩しい光が俺とサリーを包み込む。
「ガルルルル…」
「これは一体…サトルの魔法かナ?」
ウルフは見たことがない光に後ずさる。今のうちにサリーのクラスチェンジをやってしまおう!
「さぁ、君の可能性を魅せてくれ!」
俺の合図と共に世界が灰色に一瞬で染まった。