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109話


 それから数日後、毎日の日課となった学び舎での特訓は、意外と順調だった。騎士候補たちは手加減したカルミア相手に数分持ちこたえることができるようになったし、冒険者候補たちは少なくとも訓練には参加してくれるようにはなった。


 ギルドから受けた依頼…スタージ討伐の依頼内容を、学び舎の皆へ伝えたことは効果的だったかもしれない。被害対象は家畜ではあるが、実際に被害が出ていて困っている人たちがいること、そしてそれを解決できるのは自分たちにかかっていることを自覚したというのもあるのだろう。丁度良いタイミングで丁度良い依頼を持ってきてくれたあのおじさんには感謝だな。


 特訓の最中、それぞれが持つスキルについて、いくつか分かったこともあった。


 まずはロマネ。クラスの名称に地名がついている点からして、スターフィールド設定上には存在しないクラスだ。色々と未知数だったが[ダメージディバイド]という固有スキルがあることが分かった。これは味方のダメージを肩代わりするスキルで、範囲が広く、パーティーが少し離れた場所にいてもダメージを肩代わりできるようだ。汎用性に優れているスキルだな。


 アンセが獲得したクラスは仲間を守るスキルを得意とするクラスだ。順当に育てばロマネと同一系統のスキルを会得していくはずなのだが、そうはならなかった。蓋を開けると、なぜだかアンセも固有スキルを持っていたのだ。しかもそれ以外のスキルを持っていないというイレギュラーっぷり。その肝心のスキルも[ロマネを絶対に守る]という意味不明スキルで、ロマネのみを対象に、彼女のダメージを肩代わりするというひどく限定的なものだった。当然スターフィールドで獲得できるスキルに準拠しない。ロマネに対する思いが強すぎたんだろうか?このままだと、ロマネが仲間を守ったら、アンセに全てのダメージが行くというポンコツな結果になるぞ。それでいいのかアンセ


 ピュリニーは[マジック・ミサイル]という汎用型の無属性攻撃魔法を覚えていた。エルドリッチナイトは防御も高いが魔法もできるという、ちょっと欲張った性能になっている。[マジック・ミサイル]自体はそこまで高い威力は無いが、見習いであれば魔法が出来る時点で上出来だろう。スタージ相手には遅れを取らないはずだ。


 ニエールのエコーナイトはトリッキーなナイト。短い時間ではあるが、自身の分身を作り出すことができる。これは自信の能力に等しい力を持つ、エコーナイト専用の強力なスキルだ。レベルが上がっていけば時間と分身の数を増やすことはできるはずだが、見習いでは一体をわずかな時間出現させるので精一杯だろう。


 全員がナイトだが、それぞれが役割を分担し、カルミアと特訓を続けている。冒険者候補たちも、騎士候補たちのそんな様子を見て火がついたのか、グランが皆をまとめてサリーとイミス相手に特訓しているところだ。…しかし―


 「くっそう!なんでオレサマの攻撃も戦技も効かねえんだよ!あと6日で一撃でも有効打を入れるなんて無理じゃねえかぁよぉ~!!」


 グランの冒険者候補パーティーは、連携も戦闘も上手くいっていないようだ…


 グランが地団駄を踏む。騎士候補が順調なのも、彼の焦燥感に拍車をかける。スカーレットと合体したフルプレート形態のイミスは、応援しつつもあまり手加減をしていないようだ。今はイミスへ有効打を入れるという目標を立てて訓練しているみたいだ。


 「グラン、頑張って!せっかくクラスチェンジできたんだよ!学び舎の…冒険者候補の皆の代表として諦めないで!ウチも一緒に頑張るから!」


 「うっせえ~!オレサマはバトルマスターになれたんだ!鍛えたら最強だ!お前なんか…。第一、チャーノもロンキも全然役に立ってねぇじゃねぇか!モルモルなんて後ろで草食ってるだけだ!使えねえ。ま、オレサマ一人でもいつかはクリアできるだろうけどな。スタージ?魔物も大したことないだろ」


 「なんでなんで~!チャーノ、ちゃんと頑張ってるよ!そんなこと言わないでよ!」


 「むーん!」


 「むしゃむしゃ…今日の草、美味しくない…」


 グランは反抗的な意見に更に苛立って、近くにあった木のバケツを蹴飛ばす―


 「うるせー!!こうなったらオレサマ一人でも依頼をこなす!お前らは足手まといだあああ!」


 う~ん、まずいな。彼は身体能力に恵まれている。同年代でも能力がずば抜けて高いことは認めるが…だが、これではパーティーの意味がない。連携ができなければ、格上を倒すこともできないだろう。例外を除いては、人より魔物の方が身体能力が高い傾向にあるからだ。戦略は人のアドバンテージで、それを捨てることは慢心に他ならない。


 「グラン、それでもいいのかい?」


 「なんだよ!サトル!いいに決まってるだろ!オレサマが全部ぶっ倒す!そっちの依頼に協力してやるんだから口出しすんじゃねえ!」


 「確かに君は強いと思う。クラスチェンジして更に強くなった。でも、どんな相手にも一人で戦えるほど、人は強くないんだよ。例外はいるけどね。騎士候補のみんなは、ちゃんと連携ができている」


 「じゃあ、その例外にオレサマがなってやるよ!騎士の野郎ばっか贔屓しやがって!気に入らねえ!」


 「君はどうして強くなりたいのかな?」


 「そんなこと!…別にサトルに関係ねぇだろ……」


 「焦るのは分かるよ…でも、自分の姿をありのまま見つめることは弱さじゃない。君には仲間がいる。君はそんな仲間たちのリーダーだ。君の生まれ持った強さは、仲間を蔑むためのものじゃないだろう」


 「…」


 「君の強さは、これから先、たくさんの人を救えるはずだよ。だから、強いことを自慢することや、怖がらせることに使うんじゃなくて、手を差し伸べるために使っていけばいい。君が本当に強いなら、そんなことは簡単だろう?…そのための近道は、君はもう知っているはずだ。みんなで協力すれば、必ず道は開けるはずだよ」


 グランは何も言わず、どこかへ走っていった。


 「ア~ア、サトルのイジワル~!」


 サリーがニタニタして俺の頬をグリグリと人差し指でねじ込んでくる。ちょっと言い過ぎたかな…

 

 「グラン~!待って~!なんでどこかいっちゃうの~!」

 

 「むーん!むーーん!」


 「むしゃむしゃ…追いかけよ」


 グランの後を追って、三人とも続いて走っていった。あんな言葉を吐かれた後なのに、彼らはグランの心配をしている。


 「なんだかんだ言って慕われているんだな。アイツ」



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