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100話

いつも応援ありがとうございます。画面の前の貴方様の応援で、どうにか100話を迎えて、乗り越えることが出来ました。この場を借りて、改めてお礼申し上げます。


 灰の世界が崩れ去ると同時に、止まっていた時間も動き出す。従来通りであれば、クラスチェンジ完了と同時に黄金に輝く光の奔流がフォノスを包み込むはずだ。だが、そこには美しい光など無かった。


 一寸先も見えないほどの漆黒の闇を纏った姿がそこにあったのだ。これも、混沌のクラスチェンジによる影響なのだろうか。


 闇の奔流は静かに霧散し、フォノスの姿が顕現する。優しい表情は抜け落ち、闇に染まった紫色の瞳が鋭く獲物を捉えている。瞳の奥からは燃えるような怒りを感じる。両手にはそれぞれ見覚えの無い剣を持っていた。


 フォノスの右手には刃渡りの短い剣。ごくシンプルな形で、柄から剣の先に向かうにつれて光輝く極光の剣だ。まるで全てを洗い流すような神々しさを感じる。


 左手には対局にあるような禍々しい刀。柄は人の腕のようなデザインで、もがき苦しむような手の平の先からは刃が伸びている。地獄から手を伸ばすような…見ているだけで息が詰まる刀だ。


 チンピラは目の前に起きた不穏な事象を理解するのに必死なのか、毛玉犬のクリュを持って、ナイフを振り上げた手は止まったままだ。


 「いい加減、その汚い手を離しなよ」


 瞬きの間でチンピラの背後に回ったフォノスは、クリュの足を掴んでいるチンピラの腕に光の剣を突き刺す。


 「ぐぎゃああああああ!?」


 チンピラの叫びが響く。目の前にいたと思ったら、いつの間にか後ろにいただけでも混乱するが、気がついたら自分の腕から剣が生えていたら誰だってこうなるか。


 チンピラはたまらず手を離し、クリュが落ちる。しかし、フォノスはすかさずにクリュをキャッチして俺の元に戻ってくる。フォノスの移動した軌跡は、影が通ったように幻影が走る。速さだけで言えば、レベル1当時のカルミアと並ぶだろう。


 「お兄さん、クリュをお願い」


 「あ、あぁ…」


 クリュは俺の腕の中でブルブル震えて怯えていた。とっても怖い思いをさせてしまったんだ。未然に防げなかった罪悪感が俺自身にのしかかってくる気持ちだ。


 「ねぇ、活人剣の威力はどうかな?気に入ってくれたかな?」


 先程、フォノスがチンピラの腕に刺した場所は、傷ひとつ無かった。俺の見間違いでなければ、確かに刺さっていたはずだ。チンピラは痛みで叫んでいたよな…。


 「今、僕が何ができるか、この剣が何なのか、何となく分かっているんだ。この白い剣で、お前らを傷つけることは出来ない。でも、痛みだけは何十倍も大きく感じるはずだよ。あまりの痛みのショックで死んでしまうかもしれないね…クク」


 どうりでチンピラの叫びが尋常ではなかった。きっと実際に刺された何十倍もの痛みを感じたはずだ。でも、体は無事と。


 「でもね、安心して良いよ。きっとこの剣は…この剣で、結果的にお前たちを死の淵に運ぶことになっても、お前たちが気持ちを改めることができれば、そこで息を吹き返すはずだから。そういう剣なんだ」


 気持ちを改めることが出来なければ、痛みに苛まれ死に至るというのか…なんと残酷な剣なのだろうか。名前詐欺も良い所だな…


 「僕の持っているもう一つのこの刀…殺人刀せつにんとうは、その逆だ。お前たちが痛みを感じることは無いだろう。気がつく前に死んでいるはずだからね。斬れ味が良くて、全くの救いも慈悲もない刀だ」


 「ひ、ひいいいい…」


 「化物…化物!」


 チンピラたちは互いに抱き合い、自分たちにどんな沙汰が下されるか固唾を呑んで見守るしかない。あまりのフォノスの気迫に、強がることも、イキることもできずに怯えることしかできないのか。


 「さて、特別に選ばせてあげる。死ぬよりも辛い痛みの先、自身の善性にかけるか?それもと…痛みなく今すぐに死ぬか…?どっちがいい?」


 チンピラは必死の抵抗を見せる


 「ど、どちらもゴメンだ!なな…何が起きたか分からんが、お~おお、お前なんかガキに良いようにされてた、たまるかよおおお!」


 チンピラの一人がナイフを振り上げてフォノスへ向かって走ってくる。フォノスは冷静に、チンピラへ指を指して発言した。


 「そっか…『宿敵』を決めたよ。僕の宿敵は今日から……」


 ま~ずい!ディストピア改めて、チンピラスレイヤーが誕生してしまう!スレイヤーは『宿敵』に対しては大きな力を持つが、一度『宿敵』を決めると変更ができないんだ!


 「僕の宿敵は『お兄さんの敵』に決めたよ」


 *フォノスの『宿敵』は『サトルの敵』となりました*


 「…え?」


 俺の…敵?いや、まぁチンピラも俺の敵だけど…そこで何故、俺の敵になるんだ?全く意味が分からん。フォノスをぽかんと見つめていると、フォノスは振り返って、イタズラが成功したような、年相応の少年の笑顔で笑いかけてきた。そして、すぐチンピラへ振り向き返す。


 「フフ…さて、お兄さん、どうか見ていてね。僕の一番最初の、初めてを」


 「なによそ見してやがんだよおお!調子に乗ってんじゃ、ねぇぇぇ!!」


 「フォノス、危ない!」


 チンピラはフォノスのすぐそばまで迫っている。フォノスは一歩引いて、殺人刀をクルクルと回して懐に仕舞う。前に構えたのは活人剣だった。フォノスは剣を敵に向けて一言。


 「[宣告]する。お前は僕の獲物になった!」


 ドクン…という大きな音と衝撃が周りに響くような感じがした。チンピラは冷や汗をかいて動きを止めている。どうやら[宣告]を使用したようだ。[宣告]はスレイヤーの『宿敵』に使える特別なデバフだ。敵が限定的なほど効力は高い。この場合は…おしはかっても知ることができるな……。


 「生きて帰ってくることを期待しているよ。フフ…」


 フォノスは動きを止めているチンピラへ近づいて、そのまま活人剣を構え


 「活殺自在の剣・アンジュ エ ディアーブル!」


 チンピラの体中へ、無数の突きを繰り出した。一撃であの叫ぶほどの痛みだったはずだ。更に[宣告]によりダメージが上昇、そして有利をとった状況での攻撃は、アサシンの能力によって[急所攻撃]となり、追加攻撃を与える…となると……


 数十の刺し傷や打撃痕は、次の瞬間、数百に膨れ上がった。


 「か…か……は…」


 チンピラは、白目をむいたまま、そのままの姿勢で倒れた。


 「おや…?あまりの痛みで、死の淵から帰ってこれなかったようだね。呼吸が止まっているようだ。せっかくチャンスを与えてあげたのにさ。傷ひとつない綺麗な死体の完成だよ!醜いお前にはお似合いの結末だ…ククク、アハハ…アハハハハハ!!」


 「ぴいいいい!?」


 もう一人のチンピラはあまりの光景におかしな叫びをあげた。


 や、やっぱりこの子をクラスチェンジさせたのは、ま、間違いだったのかなぁ!?なんか怖いよ!?


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