表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/478

10話


「これは一体…どういうコト?」


人差し指を顎に当てて首をかしげている。かわいい!狙っているとしたら相当な策士である。俺の眼の前で空中浮遊するルールブックの周りをくるくると回るエルフ。やっぱり本物のファンタジっ子はかわいいな!


「転移を備える魔道具なんて聞いたことない!スゴ~イ!」


感動したのか、スゴ~イ!の後にも何か言っていたが、聞き取れない言語で喋っており、感動したようなジェスチャーをしている。感情が高ぶるとエルフの言語が自然と出てしまうのだろう。


「えっと、俺にもまだよくわかっていないことが多くて…ははは。ただ、本については大切な物なので、差し上げることができないのです。申し訳ございません。ただ、他に手伝えることがあれば何でもやりますよ!今日一日は空いてますし」


空中浮遊して自己主張する本を手にとって後ろに隠す。するとエルフはそのまま後ろに回り込んだ。本が気になって仕方がないらしい。


「ふぅん、わかった~…残念だけど、仕方ないかァ~。あっアタシはハーフエルフのサリエル・ジロスキエントっていうの。専ら家名はあってないようなものだから、サリーって呼んでネ~!ッフフ」


「よ、よろしくお願いしますサリーさん。俺はサトルです。店の手伝い等なんでもこなしますよ!ほ、本は無理ですけど!」


お互いに握手を交わすが、サリーの目は本に釘付けされており、握手するまでその手は無意識に本へと伸びていた。本を取られないようにする熱い攻防が始まる…! 気がする!


 少し落ち着いて話を聞いてみると、意外とサリーはしっかり者だった。魔道具屋さんでも薬の調合やアイテムの簡単な鑑定、民間療法的な治療を受け持ったり持病の相談も受けたりしていて、割とマルチに活躍しているよう。今日も嗅覚に優れた獣人へ鼻水に効果がある調合薬を届けるところだったが、調合室が先日何者かに荒らされたとのこと。納品予定だった薬の材料も無くなってしまったらしい。


「なるほど…それは災難でしたね。代わりの薬草なんかは無いのですか?」


「オォ…それも検討してみましたガ、あの獣人さんは特製のじゃなきゃダメなんデース…」


「特製の? 必要なものは何ですか?」


「ここ、シールドウェストの町から北に自生しているアグレッシブミンティという薬草が必要ヨ。この薬草があれば年中鼻詰まりでお悩みのアナタもビックリ?スカッと完璧!」


元気よくサリーが説明してくれた。


「人助けが必要であれば、ぜひ協力させて下さい。水晶玉を割ってしまった弁償になるかはわかりませんが、精一杯頑張ります!」


「オォ~、とってもとっても優しいネ!じゃあよろしくお願いするヨ」


 こうしてサリーと二人で、シールドウェストの北に自生しているという草を求めに出かけることになった。場所はそこまで深くない森だということだったので、お散歩気分である。森の奥深くまでいくと魔物が出たりするらしいので、森の浅いところで採取して帰るつもりだ。最低限の装備だけ整えて、店を閉めてから二人で北門から森に向かう。半日で戻れるらしいのでカルミアに心配をかけることもないだろう。


歩いている間は案外暇だったりするので、この機会にハーフエルフの特徴について確認してみる。歩きながら俺はルールブックを開いてハーフエルフの項目を確認する。どれどれ…ハーフエルフはエルフと人間のハーフである。人間の忍耐力や適応力とエルフの長寿美貌、魔力をどちらも良いとこ取りで引き継いでおり戦闘能力は高い。ただし純血のエルフからは疎外されることが多く、人間の町で暮らしている場合や流浪の旅をしている者が多く、エルフの里に住み続けるケースは非常に稀であると書かれている。


「ふぅん…、サリーさんはどうしてシールドウェストで魔道具を売ったり薬を販売したりしているのですか?」


ルールブックを閉じてそれとなく聞いてみる。


「アタシ?う~ん、色々あるけどやっぱり人の役にたちたいって思ったからかナ~?私の才能はアルケミストだけだったし、まだクラスに目覚めていないから見習いってところだけド…訓練しながら人の役になったらオトクでしょウ!そのうち立派なアルケミストになれるかもしれないシ!」


やっぱりしっかり者である。…弁償のこともあるし、俺の本でクラスチェンジさせてあげれば喜んでくれるかもしれない。しかし仲良くなることが条件のひとつだったはずだ。それに、簡単にこの力を使って良いのだろうか。コツコツ努力してきたであろう状況を、一瞬で変えてしまうというのはどうなんだろうか?とちょっとした抵抗感がある。考えを断ち切るようにサリーの元気な声が聞こえる。


「ついタ~!それじゃあアグレッシブミンティを採取するよォ! サンプルはコレ!」


彼女のポシェットから取り出された瑞々しい緑色の細長い草。うん、ただの雑草にしか見えない。しかし香りが非常にツンとするので、頑張って鼻を使って探すしかなさそうだ。


「よし、金貨一枚分は探して見せるぞ!」


* * *


 …… 男女二人が仲良く薬草採取している姿を遠くの草陰から見つめる二つの怪しい目がギラリと光る…。 そう、この男タルッコである。領主のアイリスからサトルが持つ謎の力について調べるよう監視を行っており、ここまで追跡をしてきたのだ!


「ウヒョヒョ… 手っ取り早く能力を調べるには、やっぱりこれが一番…」


タルッコの横には丈夫な檻が手押し台車の上に乗っており、その檻の中には凶暴なフォレストウルフという魔物が牙をのぞかせていた!もちろんサトルもサリーも魔物がいることを知る由もなく薬草採取を続けている…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ