どんな色が好き
電話が鳴った。画面を見ると、幼馴染からだった。
電話なんて珍しい、何かあったのだろうか。
「もしもし、わざわざ電話なんてどうした?」
「いやちょっとね……、元気してる?」
「いや、元気だけど…大丈夫か?相談でもあるのか?」
「相談というか……ちょっと話さない?」
「いや別に時間あるし大丈夫だけど……」
「ふふっ、ありがと…昔さ、クレヨンの歌ってあったよね。どんな色が好きって」
「幼稚園の頃かー、いやぁ懐かしいな。おまえが似顔絵ばっか描いて肌色と黄色がなくなって、勝手に俺のクレヨン使ってたやつな」
「そう、それ。お歌の時間に私は肌色と黄色が好きなんじゃない。お母さんとお父さんが好きなだけだって泣きじゃくったの」
「そうだっけか?好きだからなくなったわけじゃない!って怒ってなかったか?」
「えぇー、そんなふうに怒ったんだっけ?忘れちゃった」
「いやそうだよ。さんざん暴れて、先生と俺が慰めたあと、じゃあ何色が好きなんだって聞いたら、むくれたまま一回も使ってないピンク無言で指差してただろ」
「えぇー記憶にございません。ふふっ」
「説明責任を果たせー!ふっ」
「「あはは」」
「結局ピンクのクレヨンも使ってないんだろ?」
「そう……ね…。多分新品のまま、どこかにやっちゃったんじゃないかなぁ。ピンクのクレヨンは結局なくなっちゃった」
「まあ、クレヨン使い切ることなんてそうそうないからな。俺は弟にやったからどうなったのかわからないなぁ」
「ねえ、あんたは何色のクレヨンが一番最初になくなった?」
「いやぁ、覚えてねぇな。うん?うん。肌色と黄色じゃないか?」
「私が盗ったって言いたいの?」
「違う…そう、じゃなくて、俺あんまりお絵描きしなかったからな。多分どれも使い切ってないよ」
「ふぅん。じゃあ一番最初になくなったのは肌色と黄色か」
「不服そうだな」
「そうでもないけど…」
「そういえばさ、給食で好きなおかず残して全部食べてお腹いっぱいになっちゃったり、駅ビルのアイス制覇するっていって二人で二つずつ食べてたときも、後回しにしてたイチゴが期間限定で食べられなかったりしてたよな」
「ふぐぅ、思い出しちゃった。本当にイチゴ…食べたかった…」
「お前は昔から好きなもん取っといて無駄にしがちだったよなぁ」
「あんたは好きなおかずから食べて、好きなアイスから選んでたくせに」
「俺はその辺素直だったからな」
「おバカだっただけでしょ?」
「そうともいうな」
「でも…そういうところちょっと羨ましかったな」
「はぁ、そんなこと言われましても…」
「いやいや、熱でた弟のために勝てば全国って行けてた試合棄権して看病しに帰ったりしてたでしょ。当時の私だったらそんなふうにすぐに選べない、どっちも中途半端だったと思うよ…」
「なんだ……なんだ、その、やっぱり悩みでもあるのか」
「うっ。その、あの、け………」
「ゆっくりでいいぞ」
「ふぅーー……昔さ、日本語がうまく使えない、髪の色も目の色も違う私と仲良くしてくれて、友達ができて、あんたがいたから私がいるんだなって」
「ちっちゃい頃はな。俺は父さんのおかげで通訳できたからな。まあなんだ小学校じゃむしろ俺より友達多かっただろ」
「うん」
「否定はしないのな」
「……悩みもね…ある。ある、けどね。とりあえず大丈夫。声を聞いて元気をもらえたから」
「……いつでもさ、頼ってくれ、俺たち…親友だろ?」
「うん、ありがと」
「まあ、なんだ。その、いつでも連絡してこい。俺からも、また電話するよ」
「うん。ありがと。あとね、今日電話したのは、結婚のこと聞いたから。おめでとう、お幸せに」
「おう、ありがとう!また機会があれば紹介するよ」
「うん」
「…あの、さ。最後に教えて、昔はさ、どんな色が好きだった?」
「あー、強いて言えば黄色だったかな。お前は?」
「んー……全部…かな」
「そっ…か。じゃあ、またな」
「また、ね」
通話を切ると、妻が声をかけてきた。
「随分楽しそうだったじゃない、前言ってた振られちゃった幼馴染?」
「振られたんじゃなくて、引っ越したんだ」
「はいはい、そうね」
「いやなんか、向こうから急に電話がきて軽く昔話したよ。結婚おめでとうって、機会があったら紹介するよって話したよ」
「会えたらいいなぁ、あなたの初恋の人」
読了ありがとうございました。
他にもすぐに読める短編を投稿しているので、よければ見てみてください。