8話 ー出会いー
大きなカーペットがある。これは怪しい。思いきり剝ぐ。
「ゴホッ、ゴホゴホ」
屋根とか壁とかが壊れたせいで大量の埃が舞う。ちょい睨みしているがお前のせいでもあるんだぞ。お前が壁をぶっ壊したからそのせいでカーペットに粉が溜まっていたんだ。
「あったぞ」
けがの功名と言うべきか、埃が溝に入り込んでその場所がはっきりと浮かび上がっていた。ギリギリ人が入れそうなくらいの大きさの四角形の溝。どうやって開けるんだ?指を入れるところがーー
「ちょっと待ってろ」
よく見るとほんの小さな隙間が。たぶんここに先端が細いもの、ナイフとかを差し込んでーー
ドコ!
「おい!」
また壊しやがったこいつ全然反省してない。
「見つけた」
見つけたのは俺だ。お前はただ壊しただけ、なんだその勝ち誇った顔は。
「行って」
先の見えない真っ暗闇な穴。
「自分が行け」
「私見つけたから」
だから見つけたのは俺だ。お前は壊しただけだ、まあ行ってやってもいいけど。
木製の梯子に手をかける。ちょっと湿っているな、大丈夫かこれ、もしかして下水道とかにつながってるんじゃ。
「早く」
うるさいな。
下がっていくとあっという間に地面についた。たぶん5段くらいしか降りてない。
「どいて」
梯子から離れると少女も地面に立った。暗い、何も見えない。
「ちょっと待ってろ」
ライトかなんかをーーー光が灯った。
なんだそのドヤ顔は。魔法を使えるからっていい気になるな。
「見て」
そこには横たわった子供の姿があった。
「死んで、はないか」
子供は相当に弱っているらしく、死がすぐそばまで来ている気がした。
「私が治す」
少女は両手の掌を胸くらいの高さまで上げ目を瞑った。
「おう!」
一帯がピンク色の花で埋め尽くされた。思わず視界がバグった、と思ったほどの急激な変化だった。少女の後ろには微笑む女性。どこかで見たことがある上半身だけの女性が、女性の映像が浮かび上がっている。
なんだこれは。
頭上からあらわれた光が子供に降り注いでいく。
「ふぅ…」
少女が一息吐くと、ピンクの花も微笑む女性もすっかり消え失せ、薄暗いだけの地下室に戻ってしまった。
「う、」
子供が弱弱しく目を開けた。
「大丈夫か?」
「は、はい…」
死が遠ざかっていったのを感じた。
「あの、あなた達は」
子供はおびえているように見えた。まあそうだよな、目を覚ましたらいきなり知らない人間が傍に二人もいたら。しかも場所は薄暗い地下室、叫び声をあげてもおかしくない。
「通りがかりの旅人、そんなようなもんだ」
別に旅をしているわけじゃないが他に言葉が出てこなかった。一瞬、ゲームの主人公、と言いそうになったが止めておいた。気が付いたからだ、「君は何してる人なの?」「ゲームの主人公です」あまりにも頭がおかしいやつが言うセリフだということに。
「ボクはええと…」
立ち上がろうとしたがうまくいかず尻もちをついてしまった。どうやら体に力が入らないようだ。無理もない、さっきまで死にそうになっていたわけだから。
「直したはず」
少女は不思議そうだ。
「飯でも食わせてしばらく安静にしておけばいいんじゃないか?」
「飯?」
子供はガリガリに痩せ細っていた。
「腹はすいてるか?」
「はい………」
「魔獣を誅戮してくる」
ちゅうりく?なんだそれ。子供の言葉を聞いた途端、急いで部屋を出ていきそうになっていた少女を引き留める。
「ちょっとまてまて」
「なに?」
「こいつは体が弱っている。だから体に優しい食べ物がいい、たとえばお粥とかだ」
ちゅうりくが何かは知らないが魔獣の肉かなんかを持ってこようとしているに違いない。病人に取れたての肉を食わすな。待ってる間にギャーーーー!っていう叫び声が聞こえて、その後に持ってきた肉は健康な奴でも食欲が出ないだろ。
「おかゆ?」
こんどは向こうが言葉を知らなかったようだ。
呼び出した黒渦から器を取り出す。
「ほら」
子供の前に置く。器からは優しい湯気と香りが立ち上っている。病人でなくともよだれが出てくる。
「いいんですか?食べても」
お粥と俺とに交互に視線を移す子供。
「ああ」
よだれがあふれている病み上がりの子供に、優しくて美味しそうなお粥を見せるだけ見せて取り上げるほど悪党ではない、いくらなんでも。
「ありがとうございます」
レンゲを使って子どもが一気にかきこみ始めた。
「ゆっくり食べろ、ゆっくり」
ゆっくりと余裕をもって少女を見る。いったいどんな顔をしているのだろうか?おお!予想通りだ。悔しそうな顔をしていた。満足、満足だ。しかしすぐに俺が見ているのに気がづいたとたん、表情を消してしまった。
そうか………こいつは画面を使って物を呼び出すこれができないんだ。
「ムカつく顔」
おっと優越感が出てしまっていたようだ。
「ふっ!」
腹の立つ毒舌がいまは負け犬の遠吠えにしか聞こえない。
「腹立つ顔」
「何とでもいいたまえ」
拳を握ったか?すこし言い過ぎたかもしれない、まさかぶん殴るつもりじゃないだろうな?
「ありがとうございました」
子供の皿はきれいに空になっていた。
「泣いているのか?」
「はい…あの、このような料理は初めて食べましたがやさしくて暖かかくてとてもおいしかったです」
「そうかそうか、それはよかった」
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