3rdステージ
初投稿。
あぁ、死ぬんだ。こんな感想しか浮かばない。
2浪してやっと受かったクソ大学を卒業したはいいものの、先輩のコネで入った会社は昭和気質のジジイどもがのさばる最悪のクソ企業で、昔のダチに誘われて始めたFXの自動売買ソフトは借金を増やすだけのクソだった。
6000万の借金もこれで俺が持ち逃げだ。毎晩、俺んちのドアを殴ってへこませてた借金取りともこれでおさらばだ。ざまあみろ、今度はお前らが上司にぶん殴られる番だ。
吹いている風が気持ちいい。このタワーマンションには案外簡単に入れた。48階の非常階段に辿り着くまでに3人の住民とすれ違ったが、揃いも揃って高そうな服を着てやがった。ガキにまでブランドの服を着せてやがる。クソむかつくゴミ共だ。
欄干に手をかけてみる。冷たい。なんて冷たいんだ。思わず体が固まる。だがしかし、俺はもう元には戻れない。あんなクソみたいな生活を続けるくらいなら、もう何も考えられなくなった方がよっぽどマシなんだ。この非常階段に来るのも3回目だ。飛ぶぞ。俺は飛ぶぞ。
左手に力を込めて、右膝を欄干に掛けた。そのまま欄干にまたがるような格好になる。このまま右に倒れれば――
死ぬ。
下は見ない。
欄干と吹き付ける風の冷たさで体がこわばる。息が荒くなる。胃の中から何かが喉を押し上げて出てこようとする。
上半身を右に傾ける。途端に重力を感じ、ゾッとする。
殺される。
普段は全く気にも留めないその力は、今、明確な殺意を持って、残忍に肉体を破壊せんと加速度的にかかり始める。
徐々に欄干を掴む手が辛くなってきた。あぁ。もうダメだ。死がそこまで迎えに来ている。
手を離せば、もう―――
この世におさらばだ。
左手を離し、そして、右手を離した。
心底嬉しかった。思わず口角が上がった。今までこんな嬉しいことは無かった気がする。
あぁ、地面が近づいている。もう終わりだ、この幸福な時間も終わりだ。借金取りから逃げ回るのも終わりだ。クソみたいな人生も終わりだ。すべてが終わりだ。
痛い。
固いところに寝ている。背中が痛い。
そして狭い。何かの音楽が流れている。
クソ、俺はまだ―――
何もかも思い出した。まだ3rdステージ。3つ目だ。
頭が痛い。
体を起こす。俺は変わらず第百十三閤実験場にいるようだ。ポッドから足を出す。探るようにして、床に足をつける。久しぶりのような感じもするが、そうではないことは分かっている。あたりには消毒液の匂いが漂い、あの不愉快な騒々しい音楽が流れている。
次のステージへ行かなければ。
実験場中央にある「4thステージ行き」と看板が付いたリフトに乗り込む。座ったとたんに、下の階へと動き出した。
3rdステージはまだマシだった。クリア方法が少々トリッキーだったが、早めに見つけることが出来て運が良かった。他の奴らはどれくらい進んでいるだろうか。俺より先に進んでいる奴はいるだろうか。恐らく、あの―――
クソが。
あのクソ忌々しい2ndステージのことなんて思い出したくもない。あれに比べれば今回はまだ良かった。思い出しただけで震えが止まらなくなる。あんな、あんな見たこともない、恐ろしい―――
いや、もういい。俺は2ndステージをクリアした。忘れよう。まだ大勢の奴が2ndステージで足を止めている。俺はラッキーだった。
しばらく真っ暗だったリフトの中に、白い光が差し込んできた。4thステージへ向かうための実験場に着いたようだ。正面には「百十七閤」と大きく書いてある。第百十七閤実験場だ。第百十三閤実験場と同様に、ざっと数十個のポッドが置いてある。
リフトから降り、一番近いポッドに腰掛ける。
休んでいる暇などない。次のステージへ向かおう。
ポッドに横たわり、目を瞑りながら、改めて思う。
今回のステージはまだ良かった、と。




