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「フェルマ公爵になられるのですね。おめでとうございます」
イザベルに供の打診をするため僕は両親と別れた後自室にイザベルを呼んだ。
イザベルは僕の乳兄弟なのだが、成人してからは僕の要望に応えて僕付きの侍女になってくれた。
長男は王太子、次男は子供の血筋が高貴過ぎて継ぐことができない。わかっていたこととはいえイザベルにお祝いの言葉を告げられるとむず痒い。
「ありがとう。それでね、イザベルには引き続き僕の従者をお願いしたいんだ。王弟付きから一代限りの公爵付きだと主の身分がちょっと下がっちゃうんだけど……」
僕は言っていてしょんぼりしてしまった。王弟は王族だが、公爵は言ってしまえば臣籍降下するという事になる。つまりは王族から貴族に変わるということだ。
「マーク様。イザベルを必要としてくださり光栄でございます」
僕の様子に気付いたんだろうイザベルが控えめに笑ってくれた。
「じゃあ、フェルマ領に移るための荷造り手伝って。僕は研究途中の書類と重要書類をまとめてくから」
「はい。かしこまりました」
僕たちはせっせと自室という名の薬学研究室の片付けを始めた。
◆◆◆
部屋にあった物を先にフェルマ領に運んでしまってがらんとした自室。
僕はそこにある机に座りうんうん唸っていた。
数日前、王太子である長兄に言われたのだ。
―――マーク、礼服は作ったのか?
―――礼服、ですか?
―――王族と貴族だと意匠が違うだろう? お前は公爵になるのだから用意しないと。
―――はっ! そうでした。すぐ用意します。
これが数日前の会話である。
そして、マークは思い出したのだ。イザベルの今の仕事着は王城での物。フェルマ公爵家用の仕事着が必要なのだという事を。
自分の礼服は適当にカタログから形を選んで色は自分の色である緑色を基調にした物を頼むことにした。
王族にはそれぞれ生まれた時に自分の色を与えられる。
父は鮮やかな青、長兄のカインは緋色、次男のサンテは水色、そして僕は緑色である。
緑色は薬草と似通っていて自分の色を僕は密かに気に入っていた。
と、そこまで考えて色々な緑色が浮かんだ。
「そうだ。緑色のドレスが良いね。イザベルには薬草の研究の助手もしてもらうし、緑色だったらもし薬草が服にかかっても目立たないね」
それに、仲良しの人とお揃いの色の服というのは考えただけでわくわくする。
色を決めたらイザベルに似合いそうなデザインのメイド服とドレスを選んでいった。