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「マーク、私の実家を継いでくれないかしら?」
「はい。良いですよ」
王である父の呼び出しに応えて出向くと母である王妃に言われた言葉にすぐにマークは了承の返事をした。
いずれ自分が母の実家の名を継ぐのだとわかっていたし、マークにとってはイザベルがそばにいて、薬学の研究が出来さえすればどこにいようが良かった。領主の仕事はあるがこちらでも王子教育に時間が取られていたし、余計な人がいないならむしろ城にいる時よりのびのびと研究が出来るかもしれない。
「イザベルを僕の補佐に連れて行くのと薬学研究に了承いただけるなら問題ありません」
「あ、あぁ。それは問題ないよ。それより君はイザベルのこと…」
父が僕の条件に頷いてくれたが、イザベルのことになんでか歯切れが悪い。なんなんだろうか?僕が首を傾げていると母が口を開いた。
「マークはイザベルのことをどう思っているの?」
「イザベルのことですか? 大好きですよ」
僕が素直な気持ちを告げると父も母もなんとも言えないような表情を浮かべた。そして何やら二人で相談しだす。さすがに本人の前で内緒話はどうかと思う。
「…マーク。あのな。万が一、イザベルに対して欲情を持っても無理強いしてはダメだからね」
父が真剣な面持ちで告げた言葉で二人が何を危惧していたのか把握した。
僕が次男であるサンテ兄上のようにならないか心配だったのだろう。
僕の予想通りならさすがにきちんと把握はしない方が良いかと思っているが、おそらくサンテ兄上はアリーナ義姉上に対して何かしたのだろう。アリーナ義姉上が城に遊びに来なくなった辺りからサンテ兄上は顔色が悪くなりアリーナ義姉上の元に通うようになった。と思ったら1年後に突然サンテ兄上とアリーナ義姉上の子供がおり、その年に結婚してしまった。
サンテ兄上がアリーナ義姉上の事が好きなのは子供ながらに把握していたが、そんな相手と結婚した割にサンテ兄上はアリーナ義姉上を見る目は寂しそうだった。
それは僕だけが気付いているわけではなく、見目の良いそんな兄上に粉をかけようという令嬢や婦人は多々いた。
兄上はそれらに見向きもしなかったが、アリーナ義姉上はサンテ兄上の様子にも回りに女性が近寄っているのにも気付いていたのにそれらを無視していた。
父、母、そしてアリーナ義姉上の生家の当主ブルネイ公爵も気付いているはずなのに無視していた。
そんな周りの様子に気付いていれば自ずと何があったのかは想像がつく。
「…はい。もし、イザベルに対して恋情があった場合は誠意を持って対応します」
僕の宣言にひとまず納得したのか両親は頷いてくれた。