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小品

胸に咲いた一輪の花

作者: 星野☆明美

ぶくぶく。ぶくぶくぶく……。

酸素の泡が巨大な水槽の中絶え間なく上昇している。

私はひらひらのヒレを優雅に揺らしながら、思うまま漂っていた。

身体中にきらめくウロコが覆っていて、鈍い光を反射する。

長い、長い間。私は誰かを待っている。

以前、老人が私の世話をしていたのだけれど、パタリと彼が来なくなってから私は独りだった。

ギギギィ、ばたん。

日の光!

誰かがやってきた。

それは青年。

白い肌、さらさらの髪。背が高くて、とてもハンサム。

「……これは!?」

明らかに驚いた様子で私を見る。

「おなかすいたの……」

私が頭だけ水から出して訴えると、青年はおっかなびっくりで何が食べたいのか尋ねた。

「サンドイッチ!ハムとたまごのやつ!それからアイスコーヒー!」

「わかった、わかった。……でもほんとにそれが食べられるのかい?」

クスクス、クスクス。私は笑う。

「待ってて、持ってくるから」

いくらだって待つわ!

やがて青年が食べ物を持ってきてくれた。

「君は、きれいだねぇ」

「本当?」

「でもそのぅ、なんていうか……」

「この姿でしょう?」

「うん」

「『じっけん』って言ってた」

「なんてことを!!!」

青年は心から私に同情していた。

私は波打つ長い髪を手櫛でととのえながら、青年を見ていた。

私の胸の中に何かが息づいた。

「世間に公表して犯人を捕まえて罰せないと!」

「それは無理ね。マッドサイエンティストはもう亡くなったみたいだから」

「誰か、君を元の姿に戻せる人を探さなくちゃ」

元の姿に、戻れるの?

淡い期待を抱く。


やがて、テレビというものが放送された。

現代の人魚姫!!

人間と魚類のキメラ!!

静けさは破られて、私は見世物になった。

青年は甲斐甲斐しく私の世話を焼いてくれた。私は彼としか話さなかった。

やがて数日、彼が来なくなった。

やっと姿を現した青年は人間の彼女を連れていた。

私の胸の中で花開いた恋心は終止符を打たれた。


「あなただけだったのに」

悲しみは強く、私の心臓を止めるのに充分だった。

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