1.
マーブル王国は四方を大小の国に囲まれてはいるが、
比較的安定した、平和な国だ。
国王ビネガーは賢王ではないが、
心根はキレイで、争いを好まず、
芸術とりわけ音楽と詩歌を好み
政務を側近たちに任せてサロンに入り浸っては、心から国の安寧を願っている。
政務を任された側近たちは皆が善良というわけではないが、
とてもとても優秀で、
彼らがこの国の政を頑強に支えていた。
さらにいえば、国民の9割が信仰する女神ティラミスは
恒久平和を約束するとはいかないまでも、
どんな小さな町村にも女神を祭る教会が置かれ、人々から深い信仰を捧げられているからこそ
人々に安らぎと豊穣を授けていた。
さて、ボクはそんなマーブル王国の北の端の小さな村に住んでいる。
ボクの村は小さいけれど、とっても強い。
正確に言うと、ものすごーく強い魔女が村はずれの森に住んでいて
国王軍ですら手が出せない。
・・・らしい。
実際攻め込まれたことはないから分からないけど、
とにかくそれくらい、ものすごーく、すごーーーーく強くて、
この森を挟んだ反対側のメルティ公国からの侵略も
過去100年の間に公になっているだけでも3回は1人で防いでいるんだって。
ボクはまだ6歳で、大人の言う難しいことは今いち分からないこともあるけれど、
つまり、この村はこの魔女がいるから国からも一目を置かれて保護されているし、
敵の侵略からも守られている。
魔女様々だ。
もちろん、ボクは魔女様のことが大好きだ。
まずそれだけ強いっていうのが本当に格好良い。
1人で国を守るとか、何それ、憧れる。
っていうか守ってくれる人を嫌いにってどうやってなるんだろうって思う。
でも、大人の人たちはちょっと違うみたいで、
女神様の力が善なら、魔女様の力は悪だっていう。
強すぎる力がいつ自分たちにむかってくるか分からないって、
守ってもらっているのに怖がってる。
魔女様と村はいくつかの約束をしていて、
その約束を守ることがこの村ではとにかく大事なことで、
ぶっちゃけ、みんなその約束を破ったら殺されるって思ってる。
でもさ、それって大した約束じゃないんだよね。
森の奥には勝手に入らないとか、
森の動植物を乱獲しないとかとかとか・・・
別に森に一切入るなってことじゃないし
森の果実や動物を狩ることだって禁止されてる訳じゃない。
他にもいくつかあるけど、
無理難題なんてひとっつもなくて、
魔女様のことを悪く言う理由になんてならないものばかり。
あーほんっとに不思議。
最高じゃん魔女様!
孤高の魔女様は、
みんなから怖がられてもみんなを守り続ける。
誰より強くて、誰より孤独。
・・・やばい。
格好良すぎて鼻血でる。
っと、長々と語っている間に
「やっとついた」
ボクは第一目的地までたどり着いた。
少し乱れた呼吸を整えて、足を止める。
ここは魔女様が住んでいる村はずれの森。
その中の魔女様と取り決めをした、これ以上勝手に入っては行けないっていう、
その境界。
突然だけど、
ボクはこれから魔女様に会いに行こうと思う。
大丈夫。
魔女様は約束を破らなければ危害を加えない。
それはつまり、
ボクが考えるに、
勝手に、じゃなくちゃんと断って森に入れば良いってことだ。
ボクは木々に張られた境界を示す縄のロープを握って
森の奥にむかって叫ぶ。
「魔女様に聞きたいことがあるので中に入りまーす!!」
ざわざわっと木々が揺らいだ。
でもボクは気にせずロープをくぐって森の奥に足を踏み出す。
憧れの最強の魔女様に会うために。