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妄想が現実になる

――プロローグ――


目を閉じると普通は闇が見えるのだろう。

だけど、僕には違う。

例えばベッドの上。横にあるラックが急に揺れだして、自分の上に物が落ちてくる。

例えば校庭。野球部の打ったボールが顔面に直撃する。


そんな妄想がみえるのだ。


簡単な想像をすることなんて誰にでもあるのだろう。

ただ、僕は違った。


妄想をしたことが現実に起こるのだ。自分ではなく、ほかの誰かに。





――1日目――


朝、僕は学校へ向かっていた。

学校へ行く途中には大通りがある。事故のよくおこる、交通量の多い通りだ。


よく事故が起こる原因は僕にもあると思っている。

学校に行くのが嫌な信号待ちの時、目をつぶって考えてしまうのだ。

『トラック同士がぶつかりそうになる』

『信号無視した老人が轢かれそうになる』


今日もこの信号に捕まってしまった。

「はぁ、この信号微妙に長いんだよな」

ぼそりとつぶやく。目の前には自転車で通勤するサラリーマンが見える。ゆっくりと目を閉じる。


『自転車が車道側に倒れて車と』


キィ―――ドォン


急ブレーキの音と同時に、大きなぶつかった音と、悲鳴が聞こえる。


またやってしまった。

うつむいて溜息。


現場は騒然としているがいつものことだ。

見慣れた景色に立ち止まることなく、僕は学校へ歩みを進めた。




「ねー、今日も事故だってぇ」

「最近多いよね、めっちゃ怖いんだけど」

「うち、もうあそこ通るのやめたわ」

比較的派手なグループの女子たちが騒いでいる。

教室では他の生徒たちもその話題でもちきりのよう。


「おい、お前あの道通ってくるんだろ。事故見たか?」

隣の席のやつが話しかけてきた。こいつは僕のことを『おい』とか『お前』とか呼ぶ。

僕だってお前の名前なんか知らない。

「まあ見たけど」

頬杖をつくのをやめてそいつを見て答える。

適当に返事をしたらめちゃくちゃ怖い目で見られてから、相槌は返すことにしているんだ。

「まじかよ、どんなだった?」

「いつもよりグロくはなかったけど」

「てか何回も事故見るとか疫病神かよ」

そこまで聞くと興味を失ったようで、奴は自分の仲間を集めて昨日見た映画の話を始めた。

なんだよ、興味ないなら最初から話しかけないでくれ。


「おい、ちょっと座らせてな」

仲間の一人が僕の机に腰かけながら言う。

いつも一緒だ、拒否権もなくただ頷く。

こいつらが生きていられるのは僕が悪い妄想をしないでいるからなのを分かっていないのだろうか。




そして今日も何事もなく1日が終わった。

最初はすぐに小さなケガや事件の妄想をしてしまっていたが、最近では妄想をする前に頭の中でかき消すことができるようになってきていた。

おっちょこちょいな幼馴染をケガさせてしまうことも減ってきてほっとしている。



学校を出ると、幼馴染が僕を待っていた。

お願いしていないのにいつも校門の前で待っている律儀な奴だ。クラスも違うのに。

「・・・あ、そらくん。一緒に、帰ってもいいかな」

毎日同じセリフで聞いてくる。

「まあ、いいけど」

毎日同じセリフで返答する。

そうして幼馴染が今日あった出来事を話し始める。


幼馴染と一緒に歩くこの時間は悪くないかなと思っている自分がいてなんかいやだった。

「はぁ―――」

「あ、ごめんね、おもしろくなかった?」

つい深いため息をつくと、幼馴染が慌てて謝ってくる。


なんでもない、と返事をしようとした時、つい目をつぶってしまった。




「はぁ・・・はぁ・・・」

気が付くと自宅の玄関前だった。


最後に見たのは幼馴染の驚いた顔。

それもそうか。隣を歩いていた人間が急に走り出したらビビるよな。

走り出した理由は単純だった。幼馴染の悪い妄想をしてしまったから。

悪いことをしたが、僕にはどうしようもなかった。


息を整えて玄関を開ける。

「おかえり、そら。ご飯できてるわよ。」

母さんがすぐに台所から出てきて声をかけてくれる。

父は幼い頃亡くなったためおらず、女手ひとつで育ててくれた。

過保護なくらい色々と気にかけてくれる。唯一の肉親だ。

「ただいま、すぐ食べるよ」

ひとまず部屋に戻り制服を脱ぐと、走ったからか少し汚れが付いていた。


ふと、窓から隣の家を見てみる。

幼馴染の部屋が窓から見えるという恋愛マンガでよくあるシチュエーションだが、案の定部屋の明かりはついていない。

「まだ帰ってないのか。まあ、俺のせいじゃないよな」

たまたまだろう。と深く考えることをやめ、僕はご飯を食べることにした。

大好物のハンバーグだった。




――2日目――


ドアをたたく音で目が覚めた。

部屋から出ると母さんと隣の家のおばさん、つまり幼馴染のお母さんが立っていた。

「・・・」

寝起きで頭が回らず無言で二人を見つめる僕。

「あ、そら君。朝から悪いわね。緊急でね、うちの子が昨日から帰ってこないのよ。何か知らないかと思って。ほら、いつも一緒に帰っているでしょ?いやね、あの子から毎日一緒に帰ってるって聞いていたものだから」

得意のマシンガントークが始まる。

どうやら幼馴染が昨日、帰宅していないようだ。

偶然だ。そうに違いない。でも、もしも僕のせいだったら・・・?

「いや、わかんないっすね。昨日いなかったんで友達の家にでも行ったんじゃないですか」

頭の中をいろいろな考えが駆け巡っている中で、何とか返事をする。


「家に帰ってないとなるとさらに心配ですね」

「そうなのよ、あの子泊まりに行くような友達いたかしらって考えてみたのだけど、そら君以外の話聞いたことなくて。無断で外泊するような子でもないと思うのよ。本当にどうしちゃったのかしら。私はてっきりそら君のところにでも泊ったのかと思って。ねえ」

そこまで一気に言っておばさんは意味深な目線を僕に向けてくる。

「そんなんじゃないですよ・・・」

そんなんじゃないんだ、そんな関係じゃ・・・。


そのあとおばさんは一旦学校に連絡してみると言って家に帰っていった。

娘と違って本当ににぎやかな人だ。

母さんも心配そうに僕の方をちらりと見て、なにか言いたそうにしていたが遅刻しそうだったので聞かずに家を飛び出した。




幼馴染が発見されたと連絡があったのは帰りのホームルームだった。



「えぇと、みんなに大事な話がある。静かに聞け。」

担任教師が咳払いをして少し緊張をしたように話し始めた。

「今日欠席していた南だが、亡くなったそうだ。」

生徒たちが息をのみざわめく。

「まだ犯人も分からない。帰りはできるだけ複数人で、明日は休みだが自宅にいることをお願いしたい。詳しいことは、俺たちもまだ聞いていない。不審者がいたらすぐ通報するように。」

教師は目を伏せながら一息で説明し、ホームルームの終了を告げた。



放課後は大体グループで集まり雑談しているのだが、今日はみんなそそくさと帰っていく。

いつもちょっかいをかけてくる隣の席の奴も流石にすぐに帰宅したようでもういない。いつもつるんでいる奴らはまだ教室に残っているようだったが、しばらくして帰っていった。



幼馴染が居なくなってしまったという事実に、何とも言えない虚無を感じながら僕も帰路についた。





――3日目――


祝日の水曜日。抜け殻のようだった。

僕は思ったよりも幼馴染の事を特別に感じていたのかもしれない。


夜まで布団にくるまって母さんが持ってくる食事を胃に流し込みトイレに行くだけ。

幼馴染の通夜があったのでシャワーを浴びた。髪の毛も乾かさず脱衣所で鏡を見つめていたら母さんが心配そうに見つめてきたのだけは覚えている。



通夜は何事もなく終わった、クラスの女子数名と担任が来ている以外は知らない人だった。

おばさんと母さんは特に仲が良かったからか手伝いに呼ばれていたようで一人で家に帰る。


布団にもぐって目を閉じると、自分が飛び降り自殺をする妄想をしていた。

もしかすると妄想ではなく夢だったのかもしれない。


今日は一言も発することなく眠りについた。





――4日目――


臨時休校になった。飛び降り自殺をした生徒の遺体が見つかったらしい。

落ちてからしばらく息はあったみたいだが今日まで見つからなかったのだろう。

もともと学校は休む予定だったし何一つ問題ない。


「ご飯置いとくわね」

僕が部屋に引きこもってから母さんがドアの外に食事を置いてくれるようになった。

昨日は食べる気にならなくてそのままにしてしまったけど、少しは食べないと体力が持たないよな。

なんだか不登校の引きこもりのようだ。と思うと鼻からふっと息がもれる。

こんな状態でも笑えるんだと思うとなんだか大丈夫な気がして少し元気が出た。



母さんのハンバーグを食べながら幼馴染について考えた。ご飯があったかい。

幼馴染は僕の事どう思っていたんだろう。

数か月前、僕に好きだって告白してきたことがあった気がする。

付き合い始めて一緒にいることが増えた。

そのあと奴の猛アピールを受けて、恋愛映画のヒロインみたいになってたっけ。

奴と一緒に昼飯を食べていたのを見たときには驚いた。


そのことを問いただすと目をそらされたが奴にかかわらないと約束したっけ。




口に着いた赤いソースをぬぐいスマホを見ると、女子高生暴行殺人という見出しのまとめ記事。

遺体には見えないところに大きな傷があったようで、ネット上では犯人に対する批判が多く書き込まれている。

早く犯人を見つけられないなんて警察は無能だ。


食べ終わった食器をドアの外に置きベッドに寝転がり目を閉じる。



強盗が家に入ってきて母さんが悲鳴を上げようとするが口をふさがれる。そのまま包丁で刺されて、床に伏した。血が広がる。声が出せずにいるがその眼は悲しそうにこちらを見ていた。



いやな妄想をしてしまい変な汗をかいたので風呂に入ることにした。


出かけよう。

どこか遠くへ行ってしまうのもいいかもしれない。


僕はノートとペンとお金を鞄にまとめると、ふらふらとした足取りで駅へと向かった。





――5日目――


知らない土地まで来た。

昨日はこじんまりとした田舎のネットカフェに入ってみた。

ドリンクバーやたくさんのマンガ、そして映画やアニメも好きなだけ見れる、天国のような場所だった。

数時間だけ仮眠をとって外に出る。


どんよりと曇っていて僕の心のようだった。なんて詩人のようなことを考えてみるが今回は笑えなかった。



スマホを見てみるが母さんからは連絡がない。

ニュースサイトには主婦メッタ刺し強盗殺人の見出しが躍る。


なんとなく母さんが心配になってきて一旦家に帰ることにした。




夕方には家に着いた。

刑事ドラマで見るようなテープが張られ人が出入りしていた。

大袈裟なカメラを持った人も数名いるが、どうやら報道陣のようで近づいてくる人にインタビューをしようと待ち構えている。


家には近づけなそうだ、今日もどこか別の場所に泊まろう。

大変な状況のはずなのに、驚くほど冷静な自分がそこにはいた。


ファミレスでハンバーグを食べてみたがあまり味がしなかった。





――6日目――


今日も1日が始まった。

気付けば公園で眠ってしまったようだ。



再び目を閉じると、ホームレスが警官2人に見下ろされ声をかけられている姿が見えた。

目を覚ましたホームレスはポケットに忍ばせたナイフで警官に切りかかり、ナイフが頬をかすめる。



僕は再びナイフを振りかざす。

切りかかられた警官は驚いてしりもちをついていたが、隣にいた警官によって阻まれる。


「おい、ふざけるな、僕の妄想は全部現実に起こるんだ。その気になればお前らなんて簡単に殺せるんだぞ。」


カチャリ


手首に違和感を覚える。

冷たく重い感触。


「公務執行妨で8時39分逮捕」


ものすごい脱力感に襲われ、僕はその場にへたり込んだ。





――7日目――


世間では連続殺人犯の逮捕が話題になっていた。

犯人が現役の高校生であったこともあり、どのチャンネルも朝から晩まで同じニュースを報道し、なんちゃら評論家の方達が大真面目な顔で議論を繰り広げる。



同級生のインタビューでは

「静かな人であまり目立つ方ではなかった」

「亡くなった女の子と幼なじみだった」

など当たり障りのない意見。


「おとなしい子ほどなにか抱えてるものが大きかったりしますね」

と主婦に人気のある教育評論家。


「いじめとかあったんじゃないですか?」

と討論番組によくでる真面目系の芸能人。


みんな的はずれなことばかり言っている。

他人事だからといって無責任すぎやしないか。



どうせこの事件もやがて世間から忘れ去られてしまうのだろう。


そうして僕はゆっくりと目を閉じた。

闇に沈んでいくような感覚だった。




――エピローグ――


結局、僕には特別な力はなかった。


警察の人には全て僕がやったことだといわれた。

全く記憶にないのに、証拠だけはきちんと揃っている。


僕は多重人格かなにかだったのだろうか。

妄想だと思っていたことは全て現実だった。


幼馴染みに日常的な暴力を振るっていたのは僕だし、

学校の屋上から生徒を突き落としたのも僕。

母さんを強盗の仕業に見せかけて殺したのも僕だったのだ。


全ての被害者の服から僕のDNAが検出されたと告げられた。



交通事故も、見たあとに自分が先に想像したと思い込んだと専門家が話す。




僕はいつからおかしくなってしまったのだろう。

考えてもわからない。僕はまた闇に身を任せることにしたのだった。





次話では主人公の持っていたノートの中身が明かされます。

話中であいまいになっていた事が補足される予定・・・です。


最後まで読んでいただきありがとうございました。



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