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北畠生存戦略  作者: 親交の日
第十三章
175/226

四国開発計画


 少し短いです

 

 



 ーーーーーー




 具房は拠点を京に移した。これから作る体制には朝廷の協力が欠かせない。連絡を密にするためにも、京に出る必要があったのだ。伊勢はお市たちに任せている。民に教育を受けさせた結果、優秀な官僚が揃っていた。行政能力はかなり向上しており、具房がいちいち介入しなくてもいいようになっている。


 転居についてきたのは蒔と毱亜、そして律。蒔はいつものように護衛。後の二人はよろしくやれということだ。特に律。北条家との関係があり、早く子どもを作らなければならない。


「殿。四国の状況についての報告書です」


「ありがとう」


 権兵衛から四国の状況についての報告が上がってきた。これは具房が軍備に次いで最優先でやるように、と指示していたものだ。


 報告は地理と暮らしについて書かれていた。人を派遣して視察させるとともに、徴兵によって各地から集めた兵士から聴取した内容で構成されている。書いてあること、特に地理に関してはほとんど義務教育で習うようなことだ。


 伊予は南北に長く、沿岸部を除けば山地ばかり。ただ南部の沿岸は入り組んでおり志摩や紀伊に似ているとの報告だった。なるほど、伊予の地形は伊勢志摩や紀伊に似ている。また温泉も湧いている。所謂、道後温泉だ。内陸にあるため白浜のごとく風光明媚とはいえないが、代わりに長く続く歴史がある。


(開発すればいい観光地になりそうだ)


 伊勢観光はリニューアルして飽きさせないよう工夫しているが、選択肢を増やすというのが一番手っ取り早い。


 また、年数が経って日本から大量の真珠が得られると知れ渡ったのか、ヨーロッパからの注文が激増している。おかげで真珠は品不足で、値段が跳ね上がっていた。嬉しいことだが、需要を満たせなければ客が離れてしまう。南予のリアス海岸で早々に真珠養殖も始めたかった。とにかく、せっかく掴んだ客は逃さない、と伊予の開発を急がせることにした。


 讃岐の問題はやはり乾燥だ。瀬戸内にあるため降水量が少ない。大量の水を必要とする稲作にはあまり向いていなかった。そこで具房は麦作やオリーブ生産など、稲作に限らない農業を推進するつもりだ。既に宣教師に依頼し、オリーブを取り寄せている。二、三年もすれば持ち込まれるだろう。製塩業も有望だ。


(うどん県にしないとな)


 無論、讃岐うどんのノウハウは仕込むつもりだ。大学時代にうどんマニアみたいな奴がおり、蘊蓄を聞かされた。覚えないと五月蝿いので、大体の内容は覚えている。大豆を生産して醤油も作らせたい。讃岐うどんのためにやることは色々あるが、何はともあれ溜池を作ることが第一である。


 阿波はすだちやわかめ、椎茸などが名産だ。吉野川など豊富な水資源を使った手延素麺なども産業になるだろう。まあ、豊富な水資源には代償として治水という難題がつきまとうのだが。


(幸い、うちで一円支配するから問題はないだろうけど)


 まず間違いなく、ちょっとした工夫は求められる。幸い、北畠家には信玄堤を築いた武田家の人間がいる。彼らの治水のノウハウや人脈が期待された。


 観光の目玉はなんといっても鳴門の渦潮。淡路島に近く畿内との連絡地になるため、かなりの発展が見込める。具房は陸路は無論のこと、海路も並行して構築するつもりだった。


 織田家と親しい家が増えると、友達の友達は友達理論で友好関係にある大名が増えた。元より伊勢は海運の要衝で、海運業は盛んだった。それが蝦夷地や日本海と航路が拓かれたことで、船舶の需要が爆発的に増加。造船業は空前の活況を呈しており、造船所は次々と船を吐き出している。このままの調子でいくと、需要が満たされた段階で造船業は不況に陥る。それを軟着陸させるため、四国の海運を利用するのだ。


(徳島といえば鳴門金時か。スイートポテトも食べたい……)


 具房の前世における好物のひとつがスイートポテトである。サツマイモは備荒作物として導入を進めているので、早々に栽培を始めさせたい。食糧事情の改善にもつながる。余ればエサに転用して畜産を始めてもいい。


 高知と聞いて第一に思い浮かべるのは坂本龍馬や鰹。だが、他にもある。柚子や生姜などの農産物や土佐打刃物だ。土佐国内には鍛冶屋が多く軒を連ねており、海沿いという立地もあって四国における工業地帯になりそうだった。


(あそこはニラの生産量も日本一だったはず。……餃子が作れるな)


 宇都宮や浜松のように餃子が高知の名物になるかもしれない。具房は史実通りにしようとは欠片も思っていなかった。歴史改編もばっちこいである。


(四万十川……日本最後の清流だが、この時代の人間からすればそれほどインパクトはないな)


 現代では重要な観光資源であるが、戦国時代においてはそれほど意味はない。それよりも仁淀川の方が注目度は高かった。仁淀ブルーといわれる神秘的な光景が見られ、こちらの方が物珍しい。観光の目玉になり得る。


(それから四国遍路の開拓も進めないとな)


 今は修行の一環という扱いを受けているが、そのうち戦乱の世で失われた死者の弔いのため、とか何とか理由をつけて一般の人も巡礼するようにしたい。修行のための険しい旧道、観光のための整備された新道と分ければ高野山も文句は言わないはずだ。


「よし、こんなところだろう」


 具房は大体の計画を書面にまとめると、それを新たに設置された四国開発局へ回す。その名の通り四国の開発を担当する部局で、工部と政部、大蔵、農部奉行所から出向した人材で構成されている。実務は若手が担い、それを伊勢などの開発に携わってきた経験豊かな官僚が統括するという体制だ。将来的にはこの実務を担った若手官僚が四国情勢の専門家となる。


「真珠養殖の養殖は早く始められるな」


「イモの生産も早くに取り掛かれそうだ」


「うむ。飢饉がいつ起こるかわからんからな。イモの栽培は最優先。真珠も生産体制はすぐ整うだろうから、その次にしよう」


「農地の整備も始めなければいけないな」


「早めにやらなければなりません」


「大工事だぞ、これは」


「港湾はとりあえず今あるものを使えばいい」


「それより陸路だ。街道の整備は急務だぞ」


 このようにテキパキと話が決まっていく。工、農、政部の官僚がアイデアを出し、大蔵官僚が予算などの問題でストップをかけるというのがこの手の会議の恒例だった。そうしてブラッシュアップされたものが具房の許に戻ってくる。


「なるほど。金になるもの、実益があるもの優先か」


「はい。その他は道や海路、設備が整っていていないとできませんから」


「そうだな」


 具房は苦笑して紙をペラペラ捲り、いくつか修正を指示した。とにかく四国という地は移動があまり活発ではないため、自立性の高い都市形成が目指される。


 四国開発に余念がない具房だったが、他のことを放置しているわけではない。今日は雪と今後の打ち合わせをしていた。彼女は織田家の実権を握っている。勢力は減退したとはいえ、家臣たちも含めると織田家は依然として大勢力だ。


「畿内については任せたぞ。必要があれば、お市たちに言って助けを求めるといい」


「お兄様は四国へ渡られるのですか?」


「ああ。四国をこの目で見ておきたいんだ」


 雪は行かないでといった様子だが、四国に手を入れたい具房は悪いけどと断る。いずれは九州に乗り出すことになるので、四国はそのための重要な拠点だ。またお宝も眠っており、陣頭指揮をとって本気度を示したい。


「……わかりました」


 残念です、と雪。具房と一緒にいるために色々やったのに、また離れ離れになるのは辛い。


「しかも、今回は敦子さんも連れて行くんでしょう?」


「そうだな」


 女性関係について、具房には各所から色々と圧力がかかっている。特に敦子について、子どもがひとりしかいないのはなぜだ。お市や葵などは複数人いるのに、という批判を耳にしていた。久我本家からは、もっと夫の関心を集めろと敦子に叱責が飛んでいる。なので連れて行くつもりだ。


「まあ、今生の別れというわけではない。一年もしないうちに帰ってくるから。な?」


 そう言って艶やかな彼女の髪を手櫛で梳く。気持ちよさそうに目を細め、仕方ないですね、といった様子で了承する。代わりに埋め合わせをする羽目になりそうだが、それくらいお安い御用だ。


「それで、私は何を?」


「特にやってほしいことがあるわけじゃない。普通に治めてくれればそれでいいんだ」


 北条には徳川家、上杉には佐々成政と浅井長政と東日本には具房と関係が深かったり、恩を売りつけた相手がいる。彼らとの連絡は容易いだろう。兄妹仲がいいことは彼らに知れ渡っているので、雪が声をかければ背後に具房の影を見るに違いない。だから東はあまり気にする必要はなかった。


 逆に西日本は少し不安である。大勢力である毛利家と織田家は和睦し、秀吉がその窓口となった。しかし、国境には依然としてきな臭い雰囲気が漂っている。四国に具房がいるので下手に動くことはできないだろうが、万が一ということもあるかもしれない。


「とにかく、平穏無事であればそれでいいから」


「わかりました」


 小牧、長久手の戦いのような戦闘はどうも起きそうにない。残っている味方は誰もが具房の力を知る人物であり、また賢明な人物だ。正面から逆らうことはないだろう。


「何か土産でも買ってくるよ」


「楽しみにしていますね」


 何だかんだ言いつつも最後は快く送り出してくれるあたり、雪は本当にいい妹だ。


 しかし、このときの具房は、まさかあんなことになるとは想像だにしなかったのである。








 どんなことになったのか? 数話後に明かされます。

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] まとめの回とか作った方がいいと思う。 現状誰がどこを治めてるのか分かりにくい。
[一言] 更新お疲れさまです。 話の流れに意見等言うつもりは全くありませんが、個人的には雪にこれ以上災難が降りかからないように祈ってます!
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