表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北畠生存戦略  作者: 親交の日
第十二章
167/226

岐阜会議 前編


【お願い】感想について


 読者の皆様、拙作『北畠生存戦略』をお読みくださりありがとうございます。今回は感想のことについてお願いがあってこのようなスペースを設けました。飛ばさず読んでいただけるとありがたいです。


 結論から申し上げれば、モラルを守ってくださいというお願いです。感想をいただけると作者はとても嬉しいです。それが否定的なものであっても、そういう受け止め方もあるんだな、と勉強になりますから。しかし、攻撃的な口調で感想を書くのは止めていただきたい。失礼ながら、読んでいて気分が悪くなります。作者もプロではありませんから、至らない点はあると思います。そこは遠慮なくご指摘ください。ですが、「最悪だ」みたいな表現をされるとモチベーションが下がります。もう少し表現には気をつけていただきたいです。


 いくら匿名性が高いとはいえ、モラルは守ってください。送った側は気持ちいいかもしれませんが、受け手は不快です。もし深刻な事態に陥って更新が滞れば、楽しみに待っている他の読者様にも迷惑がかかります。特に近年はSNSなどインターネットでの規制強化が進んでいるので、下手をすると裁判沙汰になる可能性もあります。相手を「批判」することは許されますが、「貶す」ことは許されません(線引きは難しいですけどね)。少なくとも作者はそう思っています。


 今後、もし所謂「誹謗中傷」と思われる感想が送られた場合、申し訳ありませんが作者の方で削除させていただきますので悪しからず。もちろん、普通のコメントは批判も含めありがたく頂戴しますので、どしどし送っていただければと思います。

 

 



 ーーーーーー




 具房は京での後始末を終えると、三旗衆を除いて国元へ帰国させた。かれこれ一年ほど出征しているため、早く休みをあげたかった。なお、大和割譲については棚上げとなっている。信長、房信とトップが蒸発してしまったため大混乱に陥っていた。そんな状態で渡されても……ということなので、北畠家がしばらく統治を続けることになった。


 なお、具房は京に滞在を続ける。軍を使う事後処理は終わったが、まだやるべきことが残っているためだ。大きなところでいえば戦犯の処分である。戦いに参加していた明智一族や重臣は軒並み戦死あるいは自害しているものの、斎藤利三など捕虜になった家臣、光秀の遺児・光慶など裁かなければならない人物が残っていた。大体方針は前者が極刑、後者は無罪となる。調査して何らかの関与が明らかになれば無罪を見直されることになるが。


「なぜあなた様がこんなことを?」


「後継者が決まってないのだから仕方がない」


 秘書のように侍っていた敦子は不満そうだが、具房は気にしていない。トップが不在なので、ナンバー2である自分が代行するのは当然だと思っているからだ。もちろん、さっさとトップを決めて領地に引っ込みたいという気持ちはあるが。


 そんな具房の願いも虚しく、後継者争いは揉める。原因は信雄と信孝の対立だ。実は信長たちが死んでいたと聞かされた信雄は、織田家の当主は自分だと主張し始めた。これに信孝が反論。敵を討った自分こそが相応しいと言い始める。


 事態をさらにややこしくしたのが、北陸から舞い戻ってきた柴田勝家の加入だ。家中では当初、信孝の方がマシということで信孝支持が優勢だった。ところが勝家は長幼の順で信雄が後継者となるべき、と主張。彼の影響力もあり、少なくない数が信雄側に靡いて数が拮抗した。


「……すごい買収合戦」


「今後の家運を占うことだからな。必死にもなるさ」


 情報収集にあたっていた蒔は、秀吉と勝家の陣営が凄まじい買収を行っていると報告した。所領安堵は無論のこと、加増や金品などで味方になるよう工作しているという。別にそういうことをやってはいけないと言うつもりはないが、限度があるだろうと具房。相手陣営にいる者も同じ織田家臣。冷や飯を食うのは仕方がないとはいえ、その分の領地は残っているのか少し疑問に思う。


(案外、考えてなかったり……)


 それはそれで地獄になる。混乱が少ないように決着することを祈るばかりだ。しかし、具房の思いとは裏腹に対立は収まる気配がないどころか、日に日に深刻になっていった。一応の落ち着きを見せたのは、北陸から長秀が戻ってきてからだ。重臣の彼を取り込もうと両陣営が懐柔に注力。長秀はそれをのらりくらりと躱し、結果として落ち着きを見せた。どちらかに傾けばまた激化するだろうがそれはないだろう。


 当事者たちは必死だが、側から見れば醜い争いだった。そんな彼らに大号令が下る。つまらないことやってないで、話し合いをするから岐阜に集まれというのだ。発令者は雪。具房が買収合戦を垂れ込むと、何やってんのよ! と怒りのボルテージが振り切れる。


 雪は房信の正室であり、具房の妹だ。その発言力は無視できない。さらに事情を知る常識人である信包が、房信は事前に後継者として三法師を指名していると伝える。


「それは本当ですか!?」


「ああ。とにかく、確認のためにも岐阜に向かわねばならぬな」


「そうですね」


 信孝をはじめとした一門衆、秀吉や勝家などの重臣は揃って岐阜へ向かう。京は具房に任された。


「帰りたい……」


 思わずそんな呟きが漏れる具房。敦子がいる京ももちろんいいが、伊勢にいるお市たちの顔もみたい。かれこれ一年以上も空けているのだ。いい加減、伊勢に戻りたかった。


 とはいえ、京に誰もいないというのは拙い。一応、毛利には備前に宇喜多、播磨に羽柴(秀長)がいて警戒している。上杉にも北近江の浅井長政が備えていた。


 とりあえず怪しいところは警戒させていたが、事件とは予想外の場所で起こるものだ。今回は甲信地方で騒ぎが起きた。信長の横死が伝わると、下火になっていた抵抗運動が俄かに活性化。甲斐を押さえていた河尻秀隆は一揆衆に殺害され、森長可も信濃を追われたのだ。


 さらに中央の混乱、権力の空白を見た北条家も動く。滝川一益が支配する上野へと攻め込んだのだ。一益に味方する者は少なかったが、第一波を退ける。だが、北条軍は圧倒的な数で迫り、一益は逃亡を余儀なくされた。勢いに乗った北条軍はさらに混乱する甲信へと向かおうとしている。


「駿河殿(家康)に甲信の鎮定を依頼せよ」


 具房は家康に甲信の治安維持を求めた言い換えれば、北条家が彼の地の支配を固める前に騒ぎを収めろということだ。いざとなったら交戦も認めるという強硬な内容だった。


「……伊勢の律から」


「北条関連か?」


「……多分」


 蒔が律から届いた書状を渡す。そこには予想通り、実家(北条)の動きに関する弁解が書かれていた。


「『上野は北条のもの。それを奪回することは当然』か……」


「たしか、織田様(信長)の強い希望で上野は滝川様に与えられたとか」


「借りている、という形だがな。しかし、義兄殿(信長)亡き今はそんな約束はないも同然、というわけだ」


「間違ってはいないのですね?」


 敦子の言葉の裏には、北条家の動きは問題ない。翻って、徳川家に軍を出してもらう必要はないのではないか? という意味が込められていた。


「そうだな。……だが、上野はともかく甲信にまで手を伸ばすのはやり過ぎだ」


 実効支配される前に行動を起こさなければならない。具房は家康に対して出兵を求め、自身も志摩の留守部隊を駿河へ派遣し、北条家の動きを牽制することにした。さらに律と彼女を使嗾したであろう北条家には、上野の領有を認める代わりに甲信からは手を引くよう求める書状を出す。


 本来、こういうことは織田家がすべきものだが、今は機能不全に陥っている。後継者は房信の遺志で三法師に決まったものの、赤ん坊が政治判断を下せるはずもない。では後見をとなるのだが、それで揉めに揉めていた。信雄、信孝という対立軸がそのまま引き継がれた形だ。このように織田家が機能していないため、具房が権力を代行していた。


 そんな感じでしばらくドタバタしていた具房だったが、諸案件を処理した結果、情勢が落ち着く。そのタイミングでささやかな宴会を開く。内輪のもので、メインゲストは松永父子。今回の明智討伐に無理して参加してくれたお礼だ。


「ご苦労だったな、弾正(久秀)」


「勿体ないお言葉」


 具房の労いに恭しく応じる久秀。盃になみなみと注がれた酒をグイッと飲む。褒美には金品もあるが、とりあえず一杯、と具房が手ずから酒を注いだわけだ。それをひと口で飲み干した久秀は具房をじっと見る。


「まだいけるか?」


「いえ。酒は一杯までと決めておりますゆえ」


 久秀は健康マニアとして有名であり、健康に悪いとされることはしない。酒の追加は断った。では何か用かと訊ねると、ふふっと笑いを漏らす。


「用があるのはむしろ殿の方ではありませんか?」


「むっ、わかるか?」


「ええ。長い付き合いですから。……して、この老骨に何用ですかな?」


「うむ。そなたの知謀を見込んで頼みがある。留守部隊を率いて東国へ行ってほしいのだ」


 先だって、具房は徳川家への援軍として志摩兵団の留守部隊を派遣した。だが、後になって上杉家も信濃へ出兵しようとしているとの情報が入る。上杉、北条を相手にするのに志摩兵団だけでは兵力不足。そこで留守兵団を追加で派遣し、これを率いる久秀を東国軍の司令官にする。北畠軍の有力武将は四国へ出払っている。そのため年齢的に心配だが、久秀を使うしかなかった。


「とにかく、北条と上杉が甲信に勢力を伸ばさなければそれでいい」


 北条は関東、上杉は越後に。とにかく現状維持が大事だと具房は出兵の目的を話す。


「精一杯、勤めを果たしましょう」


 松永一族は東国への出向が決まった。時間がないため、彼らはすぐに出発する。それを見送った具房だったが、彼に休みはなかった。数日と経たないうちに、今度は岐阜の雪からSOSが届く。内容を端的にいうと、


『会議まとまらない。たすけて』


 というものだった。房信の遺志により、織田家の新たな当主は三法師ということは全会一致で可決された。ここまではいい。問題はそこからだ。相変わらず、信雄と信孝が後見人の座を巡って争っている。家臣たちは家臣たちで所領の分配をめぐって揉めていた。最早、収拾がつかないという。そこで雪は兄の具房に助けを求めた。妹のためならばと具房は岐阜行きを決め、久秀たちの後を追うように出発。岐阜に向かった。


「雪、お前の気持ちがわかった」


「うん」


 岐阜で行われている会議をひと言で表すならカオス。


「年長のオレが後見だ!」


「自分の方が適任です!」


 とお互いに譲らない。家臣も、


「三七様(信孝)は思慮深く、後見人に相応しい」


「いやいや、三介様(信雄)もなかなかのもの」


「だがーー」


「しかしーー」


 と相手が言ったことに主語を入れ換えて応じるだけの堂々巡り。それは違うと否定しないのは、自分が推していない方が当主となったときのダメージを少なくしようという魂胆からだ。おかげでちっとも話が進まず、生産性がない。これなら「会議は踊る。されど決まらず」のウィーン会議の方がまだマシだった。


 具房は悟りを開いた高僧のような目でこれを見る。一日で諦観を覚えた。これを円満にまとめるなんて無理。京で前哨戦を見ていたときもそう思ったが、急転直下で妥結するのではという淡い期待もあった。だが、今となってはそれが幻想であったと気づかされる。


「お兄様、どうしましょう?」


「う〜ん」


 具房は考える。話し合いで何とかできるという、ミュンヘン協定を結んだチェンバレンなみに生温い希望は最早持っていなかった。


(ここは強硬手段だな)


 北畠家の力を使って強引にでも話をまとめる。具房はそう決意し、


「任せろ」


 と笑みを向けて雪を安心させる。彼女は兄に全幅の信頼を置いており、一瞬の躊躇もなくすべてを任せた。


 その夜、具房は秀吉の許を訪ねる。いくら強硬手段を用いるとはいえ、味方は多いに越したことはない。いわば多数派工作だ。


「困りましたな」


 秀吉は話がなかなかまとまらない、と暗に勝家を非難する。彼は信孝を推しているのに対して、勝家はそれに対抗するという理由で信雄を推している。具房としてもそれはどうよ? と思わなくもないが、そんなことを言っても勝家は聞かないから言わない。


「それなんだが、わたしからひとつ提案がある」


「気になりますな」


 興味津々といった様子の秀吉。掴みは上々だ。こほん、と咳払いすると具房は先に結論を述べた。


「どちらか決まらないなら、どちらも後見人にするのはどうだろう?」


 そのマリーさんな提案に秀吉がコメントする前に、具房は捲し立てる。


「岐阜に集まって話し合いをしているが、皆それなりに多忙な身だ。いつまでもここにいるわけにはいくまい。忙しいからな。早く決めてしまうに限る。だが、どちらも譲るつもりはない。ならばここは、二人とも立てておけばひとまずは収まるだろう」


 殊更「忙しい」を強調しながら話す具房。さっさと帰りたいという本音が透けて見えていた。具房に言わせれば「見えている」のではなく「見せている」のだが、男のその言葉に需要はない。


「それならば納得するとは思いますが……」


 しかし、それは問題の棚上げでは? と言いたそうだ。たしかにそうだが、ここで永遠に会議をしているわけにもいかないのだ。ウィーン会議はナポレオンがエルバ島を脱出したということでまとまったが、今の混迷ぶりからすれば武田信玄と上杉謙信が黄泉がえりし、連合を組んで攻めてきているくらいのインパクトがなければまとまらないだろう。


「多少、柴田の言い分を聞いてやればいいだろう。それでも難色を示すなら、わたしが出る」


 いざとなったら北畠家の威光で黙らせるというのだ。必要ならば実力行使も厭わない。対信長を想定して整備してきた軍は、勝家とそのシンパを相手にしたくらいで負けるほど柔ではないのだ。もちろん戦に絶対はないが、具房はよほどのことがなければ負けることはないという自信があった。


「それほどのお覚悟……わかりました」


 秀吉は具房の思いを知り、提案を呑む。彼も不戦を約束したとはいえ毛利がどう動くか心配だった。それに、中国から舞い戻ってきた秀吉に、具房が大量の物資を供与してくれた恩もあった。


 二人はさらなる味方を探すことにした。それで目をつけたのは、話がわかる長秀。今回の会議でも特に主張はせず静観していた。彼の許を訪ね、合意事項を伝えた上で協力を求めた。


「承知した」


 長秀は快諾。それどころか、所領である若狭を長政に譲ると言い出した。


「いざというときの敵味方はきっちり分けておいた方がいい」


 長政は越中が飛び地となっているが、これを勝家に与えて代わりに若狭を領有。長秀は和泉に入るという。


「これで三介様に尾張を持ってもらえば……」


「相手は分断されるわけですね?」


 頷く長秀。そうなると徳川と信雄が組まないか心配になる具房。だからいっそのこと、甲斐と信濃の領有を認めてしまおう、ということになった。


「北条と上杉、いずれ劣らぬ難敵と戦っているのだ。それくらいは与えないと」


 徳川家臣団、特に本多正信が悲鳴を上げそうだが、具房は知らんぷりをする。今度贈る贈答品を少し豪華にして労おうと思いました、まる。


 そんなこんなで話がまとまったーーと思った段階で具房はふと気づく。


「そういえば、滝川殿(一益)はどこに入れよう?」


「「あ……」」


 完全に忘れていた。ついでにいうと森長可たち信濃に入っていた家臣たちもだ。最後に何とも締まらない。色々と考えた結果、一益には大和を、長可には蘭丸に与えられていた金山(長可の旧領)を与えることに決する。


 三人は熟考したこの案を携えて、翌日の会議に臨んだ。








【補足】


 今回の話は清洲会議に相当するものです。清洲会議では羽柴秀吉、柴田勝家、池田恒興、丹羽長秀の四人が話し合い、その議決に信雄、信孝、家康が従うという形式がとられました。しかし、本作の会議は信雄、信孝や家臣など参加できる関係者全員が参加しています。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 織田さん家はやっぱりこうなる運命なのか。。。 しかし、だんだん溝ができてしまっていたので、 信長と争う前にこうなったのは良かったかもしれないです。
[一言] 著者さんも大変なんですね。 私も光秀謀反の件には全く納得出来ずに批判のレビュー投稿をしたけれど、著者個人への人格攻撃や罵詈雑言となると論外だと言わざるを得ない。 そこまで言う輩は自分で好きに…
[良い点] 歴史小説というなろうのマイナージャンルで100話かけるのは才能がある証拠です。 書き続けられておもしろいというは、本当にレアです。 更新いつも楽しみにしています。 [気になる点] ない 本…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ