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北畠生存戦略  作者: 親交の日
第十二章
165/226

山崎の戦い


 一話に収めようとしたら長くなってしまった……


 



 ーーーーーー




 具房たちが懸念したように、明智軍は雨天に乗じた奇襲を考えていた。標的となったのは天王山方面に陣取る織田軍。織田軍は北畠軍より弱いというのもあるが、大きな理由は奇襲が成功しそうな場所がそこしかないからだ。


 山崎には沼地が広がっており、京へ入るにしても出るにしても、街道を除けば沼地を通るか天王山を回るしかない。川を渡るという手もあるが、どう頑張ってもジャブジャブと音がする。北畠軍は川に向けて煌々と篝火を焚いており、これを掻い潜ることは難しい。街道を進むなど論外である。


 沼地も川と同様に篝火で照らされて厳重な警戒網が敷かれていた。一度、威力偵察として近づいてみたものの、すぐさま発見されて防衛体制が築かれている。北畠軍は使わない大八車に土を詰めた木箱などを載せたものを置き、即席のバリケードを作って待っていた。これを突破するのはなかなか骨だ。


 一方、天王山は篝火を焚いて警戒しているものの、山地であるため遮蔽物が多い。なので他よりはマシだった。明智軍は伊勢貞興を先鋒に右翼部隊を天王山に向かわせた。


「……ん?」


 異変に気づいたのは天王山周辺に散っていた北畠軍の斥候部隊。タコツボを掘って待機し、味方(織田軍)に奇異の目で見られていた彼らだったが、その甲斐あって明智軍の動きを早期に掴むことに成功した。


「旗は……むかい蝶。伊勢氏か」


 ならば敵である、と警報を発すべくタコツボにある紐を引く。紐は山の下草に紛れて張られており、別のタコツボに繋がっている。引っ張ると繋がった先のタコツボにある鈴が鳴り、敵軍の接近を告げるという仕組みだ。リレー形式で通報が飛ぶ。終着点はもちろん北畠軍の本陣だ。


「来たか。反撃していいが、前に出過ぎないよう注意しろ」


 具房は織田軍に対して注意喚起する。現時点では砲撃に続いて正面突破という作戦計画に変更はないため、奇襲を仕掛けられても反撃に留め、追撃は禁止されていた。まあ、どこまでを「反撃」とするかは具体的に定義されておらず、指揮官の裁量次第である。ただ、突出して戻れなければ敵ごと砲撃で耕されてしまうが。


 そんな認識が北畠軍にはあるが、織田軍にはない。戦国時代は軍令に違反しても勝てば問題なしという風潮があるため、統制は効かなかった。そこで具房は信孝や秀吉といった上層部を押さえることにした。計画に反する行動をしても知らんと言い、暗に圧力をかける。「前に出過ぎないように」とは、戻れなくても知らないぞ、ということを指していた。


 具房の警告を聞いた信孝たちは、慌てて軍に深追いするなと伝えている。さもなくば大砲に吹き飛ばされるぞ、と。石山攻めなど、数々の戦いで北畠軍が大砲を駆使して勝利してきたことは周知の事実。なので織田軍もこれによく従った。


 とはいえ、反撃まで手を抜くというわけではない。追撃ができないため相手に損害を与えるのは難しいのだが、黒田官兵衛はさすがというべきか、逆転の発想をした。押すのがダメなら引いてみよ、である。つまり、敵を深入りさせ、隊列が縦に伸びたところで斬り込み部隊を投入。敵の後方部隊を突破、分断しようというのだ。


「これならば前に出る必要はありません」


 作戦を説明した官兵衛はこう言い、信孝や秀吉はすぐさまこれを採用した。斬り込み隊に選ばれたのは高山、中川隊。同じ摂津衆ということで池田恒興も志願したが、来たる総攻撃の際に先鋒とする予定だからと却下された。


 斬り込み隊は華々しい活躍をすることになるが、同時に相当な損害を出すことが予想された。包囲された部隊が出れば助けようとするのが自然だ。だから斬り込み隊は間違いなく挟撃される。そんな危険な場所に摂津衆が送り込まれたのは、光秀と真面目に戦うかどうかの絵踏であった。恒興が任されていないのは、信長の乳母兄弟であるからという側面もある。


 さて、この戦いは主に羽柴秀長隊と摂津衆(池田隊抜き)によって戦われた。秀吉隊は秀長隊の後方、信孝隊はさらにその後ろ、と重要人物になればなるほど後ろに陣取っている。だから秀長と摂津衆が戦うことになった。


 秀長は作戦を立案した官兵衛に指揮をほぼ任せた。官兵衛は農民兵を前線に張り付ける一方、わずかにいる常備兵や歴戦の農民兵など練度の高い者を敵にぶつけては後方に下げるということを繰り返し、攻め込んできた伊勢貞興隊を自軍深くに誘引する。後で聞いた具房は規模は小さいものの縦深防御だと気づき、咄嗟にそれを考えついた官兵衛の軍事的なセンスに驚嘆した。


 それはともかく、官兵衛の巧みな指揮により、伊勢隊はかなり深いところまで誘い込まれた。だが、貞興はそれを自覚していない。当たれば敵がすぐ崩れるため、勝っていると錯覚していた。


「順調ですな」


「ああ。数が多いからと敵も油断しておったのだろう。一気に駆け抜け、北畠軍の本陣を目指すぞ」


 光秀から与えられた命令は、天王山に布陣する織田軍を突破。他には目もくれず北畠軍の本陣を目指せ、というものだった。具房の存在を光秀は危険視し、その排除を第一の目標としたのである。


 明智軍のなかで最も有能なのは斎藤利三であり、軍の主力である。だが、そんなことは人々に知れ渡っており、利三がいると警戒させてしまう。光秀はそれを逆手にとり、利三を敢えて中央に配置。中央突破を目指していると見せておいて、天王山から侵攻した。先鋒は伊勢貞興。彼もまた有能な武将だった。


 しかし、今回は相手が悪かった。相手は戦国でも屈指の切れ者である黒田官兵衛。貞興では少しばかり役者不足であった。これが誘引のための偽装撤退、偽りの勝利であったと知るのは、後続が摂津衆に襲われて分断、包囲されてからのことだった。


「くそ、謀られた!」


 貞興は慌てて引き返そうとするが、官兵衛はそれを許さない。


「負けるフリは終わりだ。存分にやれ」


「「「応ッ!」」」


 じわじわと撤退していた秀長隊が反攻に転じる。このために貞興はその場に釘づけにされてしまった。


「これはいかん!」


 伊勢隊に続いて天王山を突破しようとしていた溝尾茂朝は、彼らが包囲されたことに気づいて解囲を試みる。


「来たぞ、明智の兵だ!」


「(高山)右近、背中は任せた」


「応とも!」


 中川清秀は従兄弟の右近に伊勢隊を攻めさせ、自身は溝尾隊を迎え撃った。この戦いが自分たちの忠節を試すためのものだと理解しているため、二人とも必死である。清秀は溝尾隊の猛攻を耐え忍ぶ。


 途中、前線を抜かれそうになることもあったが、消耗が激しいと知った秀吉が堀秀政を援軍として派遣してくれたことにより包囲の「蓋」としての役割を全うする。中川、高山隊は大きな損害を受けたものの、伊勢隊を包囲殲滅(貞興は討死)。溝尾隊にも壊滅的な打撃を与えることに成功した。


「見事だった」


 信孝は二人の働きを認め、戦後の褒美を約束する。


 対して敗れた明智軍は右翼の戦力がほぼ壊滅してしまった。藤田行政隊を右翼に加え、光秀の本陣も右翼の救援に入れるよう少し動かしたが、戦力不足の感は否めなかった。


「耐えれば何とかなる……!」


 未だ光秀は朝廷との交渉を続けていた。彼らが支持してくれれば周りの勢力もこちらに靡くはず。さらに毛利や上杉といった大名も周りを脅かし始めるはずだ。今は自軍の五倍も六倍もある敵がいるが、光秀が想像するような状況になれば数はかなり減るはずだった。


 特に毛利には期待していた。なにせあの家には足利義昭がいる。信長打倒に執念を燃やしていた彼がこの状況を坐して見ているわけがなかった。毛利の意思はどうあれ、将軍の権威を前にして軍を動かさざるを得ないだろう。当面はそこまで耐えることが目標だ。


 だが、現実は非情である。明智軍が大損害を蒙った翌日、天気は今の光秀からすると憎たらしいほどの晴れであった。西の空には雲ひとつなく、しばらく晴れることが予想された。


「よし、嵐作戦開始だ!」


 具房は攻撃開始を決断する。それが伝えられるや、俄かに北畠軍の陣地は慌ただしくなった。歩兵は突撃に備え銃剣を付けて待機。指揮官は各自の目標を再確認する。砲兵も弾薬を運び、装填してと大忙し。作戦開始の号砲は砲兵による砲撃だ。


「撃て!」


 砲撃は中隊ごとに行われる。一個中隊につき十二門、砲兵大隊は三個中隊で構成されるため、三十六門を有する。それが大和、紀伊といるため総計六個中隊七十二門(三旗衆の火砲は参加せず)。それが十秒間隔、中隊としては一分間隔で撃ちまくる。目標は明智軍の主力、斎藤利三隊。


「来たか。退避! 退避!」


「散れーッ!」


 砲声を聞いた利三は自分が狙われていると予見し、部隊に散開を命じる。一度散った部隊を集めることは至難の業だが、全滅させられるよりはマシと割り切った。その判断が奏功して被害は少ない。


 だが、北畠軍もそんなことは予想済み。対策もしてあった。やることは照準の修正である。


「少し右だな。……止めろ」


 北畠軍では各隊に数名の熟練兵を配置している。彼らは現代でいうところの嚮導役パスファインダーだ。第二次世界大戦時、イギリス空軍爆撃機隊は精密な照準器を持っていなかった。そこで彼らは編隊の先頭にいる機体に練度の高い爆撃手を乗せ、後続機は先頭の機体に倣って投弾するようにした。こうすることで爆撃の精度を上げたのだ。その話を近現代史を研究している大学の同期に聞いたことを覚えていた具房は、これを砲兵に導入している。


 つまり、大砲の操作に習熟した古参の熟練兵を部隊に置き、照準の修正は彼らに指示させるのだ。具体的には古参兵が扱う砲(基準砲)の射撃諸元がそのまま部隊の射撃諸元となる。炸薬、装薬、砲弾の重量などは概ね一定なので、個々に調整する必要はなかった。それでも多少はバラけるものの、野戦においては榴弾を使った面制圧が基本なので問題にならない。


 砲弾を潤沢に用意できる北畠軍は兵士の練度ーー特に火砲関係の練度にかけては間違いなく日本一だ。しかし、その人員をずっとキープしておくことはできない。兵から下士官になって部隊に残る者もいるが数は限られていた。古参兵による嚮導は、少ない古参兵を有効活用するいい制度といえる。


 斉藤隊は散開という奇策を繰り出したものの、ある大きな欠点があった。それは、逃げられる範囲には限界がある、ということだ。敵の攻撃を止めるため、最終的には集まって戦わなければならない。何処へでも逃げていいというわけではないのだ。なので、散開しても抑制される被害は限定的なものにすぎなかった。


「あちこち動き回って厄介な……」


 大和兵団の砲兵大隊長は逃げ回る斉藤隊を見て、砲撃の効果が下がることを懸念した。だが、紀伊兵団の砲兵大隊長は違った。


「ならば、こちらにも考えがある」


「ほう、それは?」


「我々の効力射は第一、第二、第三中隊の順で行う。が、大和は逆に第三から第一の順に撃っていく。キ壱(紀伊兵団砲兵第一中隊)、ヤ参(大和兵団砲兵第三中隊)、キ弐、ヤ弐、キ参、ヤ壱といった具合にな」


「なるほど。よし、それでいこう。各隊に伝え!」


 部隊長は砲撃の順番を変えることにした。部隊は左から第一、第二、第三中隊の順で布陣している。だから端にいる部隊から砲撃することで敵を中央に追い立てていくのだ。


「殿に、三旗衆の砲兵部隊の増援を依頼せよ」


 さらに中央の火力を増すため、三旗衆から部隊の派遣を受けることを希望した。具房は事情を聞き、面白いと許可。これで中央には八個中隊の火力が集まることとなる。


 この戦術は見事にハマった。


「ひい〜っ! 死にたくねえっ!」


「馬鹿者! あまり離れるな!」


 斉藤隊は戦場から大きく離れられないため、火砲から逃れようと弾が飛んでこない方に逃げようとすれば中央に寄るしかない。現場指揮官もそのように兵たちを誘導した。だが、そこはキルゾーン。押し寄せていた斉藤隊は都合九十六門の砲撃の餌食となり、部隊は戦うまでもなく半壊してしまった。


 さらに利三自身も砲弾の断片に身体を射抜かれ負傷する。しかもかなりの重傷だ。


「殿にお伝えせよ!」


 利三負傷の報は直ちに光秀に伝えられた。すぐさま彼の許に利三が運ばれてくる。


「殿、そんな顔をなさらないでください。この程度の怪我、数日で治りますとも」


「だが……」


 それが強がりであることは明らかだった。鎧の隙間から砲弾の断片が飛び込み、傷口から酷く出血している。当てられた布も赤黒く染まっていた。


「殿」


 だが、利三は光秀を鋭い目で見る。総大将なんだから動揺するな、という無言のメッセージを光秀は受け取った。


「そうか。わかった。安静にしておれ。すぐに勝利したと伝令を出すからな」


「待っております」


 光秀は利三に勝利を約束する。戦況は絶望的であったが、利三が元気になるならばと空手形を切ったのだ。それでも利三は笑顔で「待っている」と言った。


 その後、利三は京の曲直瀬道三の治療を受けるべく、京へと運ばれていく。利三が抜けた穴は、同じく重臣である溝尾茂朝が埋めた。彼自身の軍勢は先日の戦いで壊滅していたため、大将が抜けた斉藤隊の指揮を継承する。しかし、大将が決まるまでの間に戦場の流れは完全に敵ーー連合軍に渡ってしまっていた。


「ん? 何だか敵が妙に混乱しているな」


 前線の様子を見ていた十河存保は明智軍(斉藤隊)の変化に気づく。利三の負傷で大将が不在となり、混乱していたのだ。それを存保は知らなかったが、とにかく敵が混乱していることには気づいた。


 今が好機。そう考えた存保の行動は早かった。伝令を出し、具房に突撃命令を出すよう求める。存保は滅亡しかけていた三好家の命脈を保たせていた人物で、能力は高い。北畠式の戦い方に慣れていなくとも、その状況判断能力は信頼できた。ゆえに斉藤隊に有効な反撃を行う能力がなさそうだという彼の判断を尊重し、具房は突撃を許可する。


「よし、突撃!」


 存保が刀を振り下ろすと、兵たちは一斉に突撃を開始した。北畠軍が前に出たのを見て織田軍も、


「伊勢様が動いた! それ、かかれっ!」


 池田恒興が放たれた矢のごとく飛び出す。殿に遅れるな! と家臣たちも続いた。


「行かせんぞ!」


 藤田軍は織田軍を通さないと必死の防戦を展開する。しかし、恒興は彼らなど目もくれない。敵は明智光秀ただひとり。ゆえに光秀の本陣まで止まらない。兵たちは敵陣へ次々と飛び込み、穴を生み出す。そこを通った者は後ろには構わず前に駆ける。


「池田殿は張り切っているな」


 孤立しかねないのによくやる、と後続の秀長は苦笑。だが気持ちはわかるので、その支援に徹する。藤田軍を釘づけにし、恒興の後ろの安全を確保した。藤田軍は三番手である秀吉の部隊が合流して攻め立てられ、その圧力に耐えきれず総崩れとなった。


 先を行く恒興はいくつかの小部隊に出会したが秒で蹴散らす。そしてその先に、北畠軍の猛攻を受けている光秀の本陣を視認した。


「元助(恒興の嫡男)! お前は背後に回れ」


「父上は?」


「このまま突っ込む!」


 恒興は息子に一隊を任せると、残りの軍とともに光秀の本陣へ突入した。北畠軍だけでも手を焼いていたのに、ここにきて新手が加わったことで明智軍はそれを支えられなくなる。


「殿をお救いするぞ!」


 左翼の津田信春は前が川なので、被害をまったく出しておらず戦力は健在だった。光秀がやられると全軍が瓦解するため、慌てて救援に向かう。


「そうはさせん」


 だが、その動きを具房がインターセプト。大和兵団を率いて津田隊の動きを妨害する。半包囲し、ジリジリと川へ追い立てた。パンパンと鉄砲を撃ちまくるが、そのなかでターン! という異質な銃声が交じる。毎度お馴染み、竜舌号による狙撃だ。指揮官を打ち倒し、敵の指揮系統を破壊する。


 津田隊は川へ追い立てられ、一部では川に流されてしまう者も出た。最終的に津田信春が討たれた段階で津田隊の残党は降伏。明智軍の左翼は壊滅した。


 かくして両翼を失った光秀だが、既にそんなことを気にしていられる余裕を失っている。


「もう保ちません!」


「何を言う。まだまだだ」


 家臣が悲鳴に近い声を上げていた。万にも及ぶ北畠軍が押し寄せ、新たに池田隊が突っ込んできたことで休む間もなく戦い続けることとなり、明智軍の将兵は疲労困憊である。戦闘している時間はそれほど長くはないが、大軍相手にギリギリの戦いをしていることで、精神的にかなりの消耗を強いられていた。


 今では光秀自身も刀を振るっている始末だ。それで何とか保たせていたのだが、ようやく作り出した均衡はあっけなく崩れ去る。決定打となったのは、後方に回った池田の別働隊の出現だった。


「後ろからも敵が!」


「何っ!?」


 いつの間に、と光秀。だが、そんなことを考えている暇はない。この瞬間、完全に戦況が連合軍に傾いたからだ。戦い続けても、すり潰されて枕を並べて討死するだけである。光秀は逃亡を決断した。


(湖西を通って若狭へ逃れ、船で中国か越後へ)


 坂本は落ちているため、畿内に逃げ場はないも同然。外から再起を図ることにした。


「血路を開く!」


 光秀は最も兵力の薄い池田別働隊へ向けて突っ込む。ここなら僅かな近習のみでも突破できると踏んだのだ。


「惟任日向守(明智光秀)とお見受けする。いざ勝負!」


 道中、一騎の若武者が光秀を見つけて勝負を挑んできた。しかし光秀はこれに応じず、邪魔だと鉄砲で若武者を撃った。射撃の名人である光秀が真っ直ぐ自分に向かってくる標的を外すわけもなく、弾丸は見事に若武者の胸に当たった。若武者は落馬する。


「若!?」


 周りの武士たちが狼狽した。その口ぶりから、どうやら若武者はどこぞの家の嫡男らしかった。光秀が撃ったのは池田元助なのだが、彼からすればどうでもいい。別働隊の動きが鈍ってラッキー、くらいにしか思っていなかった。


 大将を撃つという幸運もあり、光秀は池田別働隊を突破。琵琶湖を目指した。ところが、そこで思わぬ敵と遭遇することになる。久秀率いる北畠軍であった。


「なぜここに。奴らは坂本にいるのではなかったのか!?」


 光秀は仰天する。彼らは坂本に居座っていると思っていたからだ。ここまで進出しているなど完全に予想外である。


 恒興が別働隊を派遣したためにご破算になったが、実は具房も明智軍の背後を突こうと坂本の久秀に山崎へ向かうよう命じていたのだ。それに従い、山崎へ進出している途中だった。道中、東の押さえを任されていた明智秀満軍は蹴散らされている。


「いかがいたしますか?」


「……京へ向かうぞ」


 さすがに北畠軍を突破できるとは思えない。山崎の近くには淀城や勝龍寺城もあったが、北畠軍は石山を容易く落として見せた。城への籠城は無意味である。だが、京はそうもいかない。朝廷があり、多くの公家が住んでいる。ここを砲撃した日には朝敵にされること間違いなし。光秀はそう計算して、京に入ることにした。







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