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北畠生存戦略  作者: 親交の日
第十章
140/226

兜割り作戦 5


【お知らせ】次回作などなど


『北畠生存戦略』をご覧くださりありがとうございます。更新日のPVはコンスタントに一万を超え、感想を頂くことも多く、執筆の励みになっております。そんな本作ですが、ぼちぼち「完結」を意識するようになってきました。そこで次回作は? と気になっておられる読者の方もいらっしゃるようなので、次回作や今後の方針、やってみたいことなどをお知らせしようと思いました。興味ないよ、本編はよ! という方は飛ばして頂いて結構です。


 以前、リクエストを募集したところ、いくらか希望を頂きました。多くの方は中世モノを希望されたのですが、一部作者の専門である近代モノが読みたいとの希望もありました。作者としても教科書とは違う近代史研究の最前線について知っていただきたいという思いもあり、野心的ですが中世と近代の二本立てにしたいと思っています。題材は、


  中世:斯波(武衛)家


  近代:山縣有朋


 です。『北畠生存戦略』と同様に転生者が奮闘するという筋書きですが、詳細はあまり決まってません(特に前者は年代も決まってないという始末……)。まだ猶予はあるので、じっくり練っていきたいと思っております。


 また、息抜きも兼ねて短編の投稿も予定しております。こちらは中世モノのみで、山科言継と近衛前久を予定しています。


 この他、やってみたいこととしては大正、昭和期の日本とかソビエトを題材にしたものですかね。こちらは完全に構想段階であります。アイデア募集中。


 もちろん、他にもご要望があればお応えできる範囲で書いてみたいと思います。どしどしお寄せください。


 ※活動報告にも同じ文面を上げています

 

 



 ーーーーーー




 駿河と甲斐国境。ここ数年は北畠軍と武田軍が睨み合いを続けていた。常に軍勢を動員していることから、実は武田家の財政にボディーブローよろしくじわじわとダメージを与えていたりする。具房は知らないしそんなことを狙っているわけではなかったが。


 当初、無策にも突撃を繰り返して無益な損害を出した武田軍。もっともそれ以降は小競り合い程度の戦いしか起きていなかった。その間、武田軍を指揮し続けているのが穴山信君である。


「まったく。なぜ儂がこのようなところで……」


 軍勢を動員した数年間の睨み合い。そんな経験は初めてである。だが放置するわけにはいかず、信君は駐屯を続けていた。そのため、ほとんど領地に戻れていない。勝頼には交代制にしてくれと要望しているが、信君が嫌いな彼はむしろその力を落とすいい機会だと、あれこれ理由をつけてそのままにしていた。おかげで不満が蓄積している。


 だが、最近はそうも言っていられない。信濃で織田、徳川軍の、上野で北条軍の攻撃が行われている。この状況で目の前の北畠軍が動かないと思うほど信君は愚かではない。ぐちぐち文句は言いながらも臨戦態勢を整える。


 準備はしていた。なので、彼を責めるべきではないのだろう。


 ある日の早朝。まだ多くの兵士が眠っているような時間だ。信君も眠っていたのだが、爆音というモーニングコールで叩き起こされる。


「な、何だ!?」


 寝ぼけ目で起き出して見れば、自陣が火に包まれていた。火災だ。篝火が倒れての失火ではない。


「敵の攻撃か!」


 信君はそう断定する。すると、正解といわんばかりに第二射が撃ち込まれた。それから三射目、四射目と砲撃が続く。当初は大きく外れていたものの、回を重ねるごとに狙いが正確になってくる。


「武器を持て! 身を潜めよ!」


 砲撃に晒されると、信君すぐに対応を指示した。砲弾は防ぎようがない。だから身を潜めるしかないのだが、その間に接近して斬り込んでくることはわかっていた。そのとき抵抗できるよう、武器の所持を徹底させたのだ。


 自分に当たりませんように、と祈りながら身を隠すのは信君(大将)から下っ端の兵士まで皆同じ。仲間がいるところに当たって吹っ飛ぶ度に、次は自分かと緊張して神経をすり減らす。が、信君はさすがに肝が座っており、砲撃を受けながらも思考する余裕があった。


(なぜこの暗がりで正確に撃てる!?)


 不思議なのはそれだ。昼間ならともかく、今は夜明け前。太陽がないため、辺りは暗闇。そんな状況で正確に狙い撃ちしてくる敵が、彼には理解不能だった。


 カラクリは、予め絵に写しておくこと。大砲は陣地に設置されており、砲撃しても元の位置に戻るよう、土を掘ったり盛ったりして傾斜をつけている。砲身も角度を固定できるよう設計されているし、弾薬の火薬量も一定。こうした工夫により、照準の修正が可能になっていた。


 そして暗がりでも照準を修正して正確な砲撃ができるのは、大砲から見える風景を写しているからだ。先述のように大砲はほぼ固定されており、射撃位置はほとんど変わらない。だから風景を絵に描いておいて、爆炎を視認したら目標からどれだけ逸れたかを確認。修正を加える。するとやがて正確な砲撃ができるようになる、という仕組みだ。何年も睨み合っていたため、かなり精緻な絵が出来上がっていた。


 しかし、そのことを知らない信君は北畠軍が天眼でも持っているのでは? と疑ってしまう。北畠軍の砲撃は時間が経つとともに正確さを極め、たまに大きく外れることはあるものの、陣地を正確に狙い撃ちした。


 幸いだったのは、虱潰しに撃ち込まれなかったことだ。これでかなりの数が救われた。そうしなかったのはやはり暗闇であり、下手に弄って照準をやり直すことを避けたのだ。おかげで若干の誤差を除けばほぼピンポイントで着弾しており、それがわかると敵弾が落ちてこないところへ移動して武田軍は難を逃れた。やはり落ちてくるかもしれないという恐怖は付き纏うが、こればかりは仕方がない。


 なお、陣地から逃げる命令は出されなかった。隘路に防御陣地を築き、自分たちに有利な場にしているのだ。これを捨てるのは勿体ない、そう信君は考えたのである。とはいえ、一部の兵士は砲撃の恐怖に耐えかね、密かに陣地から逃げ出していた。


「ふう。ここなら大丈夫だ」


「んだな」


 同郷である二人の兵士が陣地の横にある森に入った。彼らは逃げるつもりだ。長い間、国境に張りつけられていて農地が心配でならない。普段は監視の目が光っていたが、今は砲撃の方に注意が向いている。逃げ出す絶好の機会だった。


「おっ母は元気か?」


「餓鬼はこぴっとしとるか?」


 陣地から抜け出した安心感から、追手が来るとかそういう可能性をすっかり忘れ、故郷に思いを馳せる。だが、それは叶わなかった。


「むぐっ!?」


「んっ!?」


 近くの藪から突如として手が伸びてきて、二人の口を覆う。と同時に喉元に短刀が突き立てられた。しばらくジタバタ暴れていたが、やがて身体から力が抜ける。


「死んだか」


「こいつら、武器を持ってるぞ」


「陣地から抜け出すときに用心のため持ったか、それとも持っているように言われたか……」


「殿は最悪の場合を想定せよと仰られている。ここは敵が武装していると想定しよう」


「よし、報告だ」


 兵士たちを鮮やかに始末した男たちは東へ移動する。彼らは斥候。部隊の周辺に展開し、敵の位置や地形情報を本隊に伝達することが仕事だ。これにより本隊が奇襲を受けることを防ぐ。


 任務の性質上、斥候部隊は大部隊(敵主力)と激突する可能性がある。しかも、ときにはこれを味方主力へと誘導することもあり、非常に危険。だからこそ、高い技量が求められる。隊員になるためには各種の免許(資格、レンジャーとか)を取得しなければならない。


 厳しい要件であるため、補充には苦労している。さらに任務の性質上、一回の戦闘ごとの消耗が激しく、定員を満たすにも事欠く状態だ。各所からは要件を引き下げるべきとの声も上がっていたが、具房がこれで押し通している。彼としては、要件を引き下げればさらに被害が増えてしまう。人命を大事にするには、多少の不都合は甘受すべきだと思っている。


 その結果、斥候部隊の隊員は精鋭と目される志摩、伊賀の両兵団、最精鋭と名高い三旗衆に所属していてもおかしくないほどのムキムキマッチョ揃いとなった。装備の差もあり、まともに当たれば同数の敵に負けることはない。そんな彼らにとって、脱走してきた農民兵二人を始末することくらい朝飯前だ。


「わかった。本隊に通達。『敵は武器を所持し、抗戦可能な模様。戦闘は強襲となる可能性大。心せよ』以上だ」


「「「はっ!」」」


 近くにいた伝令が走り出す。各部隊長を通して将兵に情報が共有された。これでやる気になったのは、柳生宗厳ーー志摩兵団の団長その人である。


「やってやるぜ!」


「わかりましたから落ち着いてください」


 副官などが逸る宗厳を抑えた。部隊はジリジリと武田軍の陣地に近づく。前方は斥候部隊が警戒している。ちらほらと騒ぎに乗じて逃げる敵兵がいたが、すべて彼らによって始末されていた。


「接近しすぎると、外れた味方の弾にやられるぞ」


「そんな間抜けはやらねえよ」


「隠密中だ。喋るな」


 フレンドリーファイアを警戒し、注意喚起がなされる。兵士のひとりが茶化したが、上官に口を噤むように言われた。


 部隊はやがて、絶え間なく砲弾が降り注ぐ武田軍の陣地を視認する。これまで遠目に見えていたのだが、今は指呼の距離にあった。


「日の出とともに突入する」


「「「了解」」」


 じっと息を潜めてその瞬間を待つ。やがて東の空が明るくなってくる。逸る気持ちを抑え、陽光が差すのを待った。


「そろそろか……信号弾用意! 弾数一」


「準備よし!」


「撃て!」


 擲弾筒から信号弾ーー実態は花火ーーが撃ち出される。味方の砲兵に対する攻撃中止の合図であった。しばらくして砲撃が止む。それと同時に砲兵陣地からも信号弾が上がった。砲撃終了の合図である。


「信号弾! 弾数二」



 続いて二発の信号弾。部隊に対する攻撃開始の合図だ。ちなみに一発なら奇襲、二発なら強襲、三発なら中止である。


「よし、突撃!」


「「「うぉぉぉッッッ!」」」


 志摩兵団の兵士たちは一斉に立ち上がり、喊声を上げながら突撃していく。


「敵だ!」


「こんな近くに!?」


 砲撃が止んだと思いきや、間髪入れずに攻撃される。今度は斬り込みだ。しかも南ではなく東から。予期せぬ方向からの攻撃ともうひとつ。


「うっ、陽が!」


 迎撃すべく北畠軍を見た武田兵は悉く目を焼かれる。稜線から顔を出した朝日、その強烈な太陽光が北畠軍の背後から武田軍を照らす。太陽を背にするのは戦いの鉄則だ。


 優位を保ったまま北畠軍は戦闘に入る。いきなり戦闘の終盤ともいえる白兵戦。柳生の正式な門弟たちは嬉々として白刃を振り回す。銃? そんなもん使ってられるか、といわんばかりに小銃は最初から背負っている。使う気はないようだ。


 ここ最近、彼らはずっと待機が続いていた。久しぶりの戦いであり、血が騒いでいるらしい。歓喜のあまりヒャッハー、とか叫んでしまいそうだ。


 だが、全員がそうではない。大喜びして大暴れしている柳生一門を例外とし、他の兵士は淡々と仕事をこなしている。近くの兵は銃剣で始末。広い場所で槍衾を組まれれば、躊躇なく銃撃する。志摩兵団の装備はボルトアクション式小銃。動かずじっとしている槍衾はただの的だ。死傷者が続出し、槍衾は呆気なく崩壊する。


「これでは戦にならぬ。退け!」


 信君は撤退を命じる。だがその行動が命取りとなった。文字通りの意味で。


「おっ、偉そうな奴」


 後方から支援していた竜舌号装備の狙撃手が指示を出す信君を発見。引き金を引いた。そして起きるスプラッタ。


 信君の討死により武田軍の指揮統制は完全に崩壊した。戦闘は早々に最終盤、追撃戦へと移行する。


「オラッ! 前向いて戦えっ!」


 ヒャッハーしている柳生一門が容赦なく背中から斬りつける。逃げる敵を斬っているだけなので歯応えがないと嘆いているが、そのくせかなり楽しそうだ。地の果てまで追いかけていきそうな勢いで追撃していたが、苦労性の副官がどうにか止めた。


「ここからは伊賀兵団の領分です! さすがに拙いですよ!」


「チッ。仕方ねえなあ」


 宗厳は具房に怒られたくないので追撃を諦めた。傍若無人な宗厳は剣の腕を頼みに生きている。だからこそ、絶対に勝てない相手とはやらない。具房は剣術に優れ、彼が元服してからは一度も勝てていなかった。だから従う。


(怒ると怖いからな)


 具房は静かに怒るタイプだ。笑顔で、有無を言わせず、無言でひたすら叩きのめされる。とても怖い。それだけは御免だと、宗厳は追撃を切り上げた。


 帰還後、副官は具房の許を訪れ、報告がてら宗厳の行動を報告する。事前に自分の行動は報告しないでくれ、と頼まれていた。それを守り、副官は部隊の動きを淡々と報告する。ところが、


「随分と深入りしたな。新介(宗厳)たちが暴走したか?」


 具房が部隊の行動を怪しみ、そう問いかけてきた。


「はい」


 副官はあっさり肯定。「報告」はしていない。質問に「返答」しただけだ。


「そなたも苦労しているな」


 暴走を抑える姿が目に浮かぶようだ。具房は副官を労った。後にこの副官は三旗衆へと転属している。宗厳を支え続けたご褒美だ。


 対して、はっちゃけ過ぎた宗厳にはお仕置きが待っていた。命令違反などの問題を起こしているわけではないので、降格といった明確なものではない。


「やあ新介。久しぶりに稽古をしようか」


「お、おう……」


 朝、日課の鍛錬のために木刀を持って外に出ると、宗厳の天幕の前で具房が待っていた。逃がさん、ということらしい。この瞬間、宗厳はすべてを悟る。どうせ逃げられないからと全力で挑み、三十分ほどで地面に沈められるのだった。







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[良い点] 斯波家!楽しみです!
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