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初投稿です。
そこまで悲しい恋の話でもないし、分かりやすい青春の話でもないです。恋愛というよりかは日常要素強め(?)です。
中学生が書いた文章なので誤字脱字、係り受けの間違い等が無いとは言い切れません…、もし間違いがあってもスルーして下さい。
(後、サブタイトルがどんな風に反映されるのか分からなかったのでおかしなことになってるかもです)
どうか最後までお付き合い下さい…。
俺は、どこかで仰向けになっていた。背中が少し湿っぽくて温かい。土か。頬に柔らかい草の感触がある。木が揺れて、葉が擦れる音が聞こえる。風の音もする。耳の奥で耳鳴りもしている。耳にかかっていた髪が涼風でなびいた。目をそっと開けると、目の前には眩しい陽があった。思わず目をぎゅっと閉じる。また木が揺れた。今度は音が大きい。あぁ、うるさいうるさい。嘘って分かってるんだから、もう少しいい感じにしろよ…。
「おい、起きろって、深山」
右から聞き覚えのある声が聞こえる。………学校だ。俺は椅子に座って机に突っ伏していた。
「ん…何だよ、起こすってことはそれなりの何かがあったんだろうな」
まだ眠い目を擦りながら、俺の顔を覗き込んで話を続ける高見を見る。高見は唯一の友人で、俺が学校で話せるただ1人の人だ。
「あったに決まってんだろ⁉︎そうでなきゃお前なんて一生起こさねぇよ」
高見を下から睨みつける。高見とはそのままの体勢で話すことを決めた。
「あっそ……で、何があったんだよ」
「まぁ、俺にはあんまり関係ねぇんだけどさ、前にヨコセンが糖尿病で倒れただろ?」
そういえば、そんなことがあった。ヨコセンは2の5の担任で、文芸部の顧問だった…よな。デブで、ワイシャツに脂肪で横線がはいってる横井先生だから、ヨコセンだった気がする。酷いネーミングセンスだ。5月の中頃、俺は寝ていて見てないが授業中倒れたらしい。糖尿病だったのか。初めて知った。初めて知ったが、知っている風を装って適当に「あぁ」と言った。何かと都合がいい言葉だ。
「んで、今まで色んな先生で担任の代わりしてたけど、やっぱヨコセンしばらくダメらしいから代わりに新しく担任が来るってよ」
「…へぇ」
女か、男か。寝ていたら怒るのか、怒らないのか。どんな奴なんだろう。出来れば男で、あんまり生徒を見てないような奴がいいな。
「…酷くねその反応、まぁ俺、夏休み終わったら転校だからあんまし関係ないけどな」
「そういえばお前柄に合わず文芸部だっただろ、、ヨコセン顧問だったから新しく来た先生が次の顧問になるよな?」
べらべらべらべらくっちゃべって。何だか高見がうざったくなってきた。高見は俺の機嫌を察したようで、話すのを唐突に止めた。こういう友人は居て損することががあまり無い。得が多いわけでも無いが。
「ごめん深山、喋りすぎた」
「…いや、大丈夫」
「次、講堂で新しい先生の紹介だから、行くぞ」
「…おけ」
端的な会話をして席をたつ。周りは廊下で俺と高見を待っていた。とっつきにくい俺と、俺にくっついてる高見だから、誰も俺たちに注意をしない。ただ待つか、先生が叱るのを待つかしかしない。所詮待つしか出来ないんだ。
「おい、深山ぁ!!高見も!!並べ!!!」
やばい、怒られると厄介な奴が来た。あの教師は嫌いだ、うるさいし。すごすごと、あくまでも素早く廊下に並ぶ。
一行は体育館へ向かった。体育館へ入ると7月初旬の湿気を含んだむさ苦しいべたついた空気が肌を舐めるようだった。すでに他のクラスは並び終わっており、『何だあのクラスおせーな』的な目を俺らに向けてきた。教師どもは『またあのクラスか』的な目を向けてきた。その目線の多くは俺宛てだったが。注意する担任も庇う担任も指導する担任もいないんだからしょうがない。少し体育館に険悪な空気が漂った後、校長が一つ咳払いをして何かを言い始めた。頭に入ってこない。きっとその声がダメだ。高音は掠れていて、常にあくびをしているような…そんな声。周りも同じようで、体育座りをした膝の間に顔を埋めている。俺もその体勢で最低限の感覚を働かせた。校長の声が消えたかと思うと次は靴音が体育館に響いた。靴音は数回聞こえた後止まり、かわりにマイクに小さく息がかかる音と生徒達の騒めきが聞こえた。
「…かなたに りえです、東部中学校から来ました、横井松雄先生の後任としてしばらくの間務めさせていただきます」
かなたにりえは鈴のような声でそう一息で言い切ると間が空いた。ふと興味が湧いて顔を上げる。
…華だ。かなたにりえは、言ってしまえば華だった。周りの騒めきが、不快では無くなった気がした。
遠くからだから定かではないが、目は綺麗なアーモンド形で、真っ直ぐ遠くを見ている。毛先だけがふわふわとした髪はステージの光をつやつやと照り返している。まだ教師になって日が浅いのか頬が赤く表情は若干こわばっている。
…いやいや、待て。何で俺はこんな事考えてんだ。いつから至極一般的な奴らと同じような思考になったんだ。まわりは依然として男女ともにざわついている。ふと高見の方へ身体を捻ると高見も口を半開きにしてステージの上のかなたにりえを見ていた。
無事に式も終わった。全員が席に着き、代わりの担任、『かなたにりえ』を今か今かと待っている。特に誰かが妙にそわそわしているとか、どこかからまだかなぁなんて声が聞こえたわけでもないが、明らかに式の余波が全員に伝わっていた。ふと、静かだった他のクラスからどよめきが聞こえた。どよめきはどんどんとこちらに近くなっている。うちのクラスは1番奥に位置している。…来る。隣のクラスで歓声が起きた。
俺以外のクラス中が、廊下の方を見た。別に見たくないわけじゃない。周りと同じになるのが嫌なだけだ。女子達から黄色い悲鳴が上がる。直後教室は急激に静かになり、がらがらと教室の扉が開いた。そして教頭に促されてかなたにりえが入ってきた。一気に緊張感が伝染する。
教卓の横に立ち、黒板に名前を書いていく。叶渓 璃衣。綺麗な字。文芸部に所属しているからそんな風な感性を持っている…というわけではないが、そもそもの叶渓璃依が綺麗だから、容姿が名前を引き立たせるのだ。
「叶渓璃依です。これから横井先生が戻られるまで、このクラスの担任と、国語科の授業と、文芸部の顧問を務めます。叶渓先生と呼んで下さい。みなさん、よろしくお願いしますね」
今度は途中途中息継ぎをしながら叶渓璃依は話し終えた。小さく礼をすると、
「何か…質問はありますか?」
と言った。こういう時、遠慮する素振りもせずにガンガン突っ込んでいくのがうちのクラスの長所であり短所だ。はいはい、とあちこちから手があがる。叶渓璃依は困惑した様子で座席表とこっちを交互に見ながら名指しする。
「えっと、先生ってカレシいますか⁉︎」
「ん、え、えーと、いませんよ」
次は先生の名指しを差し置いて誰かが立ち上がった。
「先生って何歳ですか⁉︎」
「え⁉︎んーと、えっ⁉︎秘密です‼︎」
「3サイズは?」
「い、言うわけないじゃないですか‼︎?」
「どこに住んでますか?」
「ええと、戸南市です」
「せんせー!ツイッターとかフェイスブックとかしてますかー!?」
「そういうのはよく分からなくて…」
「この学校で1番かっこいい先生誰ですか〜⁉︎」
「え、ええぇ……」
その後も延々と熱を増しながら質問コーナは続き、可愛らしい女教師心配になったのだろうか、教頭が様子を見に来たことでやっと終わりを迎えたのだった。
「ふうぅ……思ったよりもへなちょこな感じの先生で良かったんじゃね、深山」
「………あぁ」
適当に答える。
「何だよぉそんなにそっけなくすることないだろ〜?」
「……………そうだな」
指先で脇腹をつんつんしてくる高見を軽くあしらい、机の上に投げ出した腕に顔をのせる。高見はまた、空気を読んで本を読み始めた。横目でみた本の題名は、走れメロスだった。
友達の為に、か………………
ーーーーーーーーーーー
「叶渓先生、初日はどうでしたか?」
決して背もたれに触れないよう背筋をぴんと伸ばして教師用の椅子に座り、渡されたコーヒーを震える手で飲んでいると、背後から急に声をかけられた。素早く立ち上がり回れ右をすると、学年主任の野畑先生がいた。…いらした、?
「……とても元気な生徒が多くて、いいパワーをもらえそうです」
これまたありがちなことを言い、その場をしのぐ。
「ふふふ、この学年の先生方はみんなそうおっしゃるんですよ」
少ししわの多い顔をほころばせて微笑みながらそう言う野畑先生はとても優しそうだった。
その後も何クラスかをまわって授業をするはずだったが、多くのクラスに質問攻めにあい、授業時間が減った。明日の予定にも初めて行くクラスがつまっている。明日もこれか…とげんなりしながら国語辞典やら漢字辞典やら筆箱やら教科書を入れた重い袋をもって職員室へ向かった。
そして流されるままに教室掃除の監視をし、帰りの会をなるべく、なるべく手早く終わるよう努力した。1番楽しみだったことはもう目前だ。学級日誌のコメントもうわ心地で書きおえ、また重い袋をもって野畑先生についていく。部室棟にある、文芸部室を目指して。
「ここですよ」
今まで文化系の部の顧問になった事が一度も無かった。とても嬉しい。国語科の教員だけど、私よりも優れた国語教師なんて山ほどいたし、学生時代少し剣道をかじっていたこともあり、大概剣道部の顧問にされる。文芸部の顧問なんて憧れ中の憧れだったから、前任の先生には申し訳ないが感謝の気持ちも大きい。明るい妄想で胸をいっぱいにし、いよいよ部室棟の蒸し暑さにふらつきそうになった時にようやくそこに着いた。野畑先生が見ている隣で教室とは違う重い扉をノブを捻って開く。そこには2人、生徒ががいた。1人は縁の赤い眼鏡のしっかりしてそうな女子生徒で、もう1人はいかにも態度が悪そうな男子生徒だった。女の子の方はにこっと笑って立ち上がると、
「文芸部部長の風見 悠です!!よろしくお願いします‼︎叶渓先生‼︎」
と元気よく礼をした。相変わらず奥の男子生徒は自身の腕を枕にして窓の外を見ている。
「こちらこそよろしくお願いします、風見さん……あの、そちらの」
風見さんは、はっとしたような顔をした後慌てて後ろの男子生徒の肩を揺さぶった。男子生徒の頭がぐらぐらと揺れる。
「………ぁ?」
「こらっ、深山ぁ!!!起きなさい!!新しい先生来てるのに!!」
深山……あ、私の生徒だ。文芸部だったのね、ちょっとだけ意外。
「あー?来てるだけ他の部員よりマシだろ」
「あーもうっ意味がわかんない」
頑張って後輩をしっかりさせようとする風見さんに対し、深山君は先輩に対する態度がなってない。全く、手を焼かせる生徒。来てるだけマシって事は来てない部員もいるのよね…。せっかく来てるんだから何とかして更生してもらわないと…‼︎
「あの、深山君?覚えてる?私」
風見さんの横に割って入り深山君の顔を見る。
「……覚えてるよ、叶渓センセーだろ」
生徒に名前を覚えてもらえる事に、どんな教師でも一抹の感動は覚えるはずだ。
「そうよ、覚えててくれてありがとう、深山君。」
深山君は椅子を動かして体の向きを変えた。外の方へ体が向いてしまった。机の上に積まれた本を適当に手を伸ばして取り、読む。良かった。積まれた本のカバーを見る限りラノベは無さそうだ。本を読むのは良いことだけど、せっかく読むならちゃんとした本を読んでほしい。(『ちゃんとした本』の定義について口を出すと色んな人から潰されそうなのでやめておく)
「あー…先生、深山なんかおいといて文芸部の説明しますね」
深山君は相変わらず外へ体を向け本を読んでいる。口答えはしない。それはそれでまた失礼な気もしなくはないけど、風見さんもそこまで気にしてないみたいだし、私が気にすることもないでしょう。
風見さんが深山君の隣の椅子をガタガタと引き、「どうぞ」と言ってくれた。生徒からの優しさにじーんとできる私はまだ優しいのかもしれない。「ありがとう」と精一杯微笑みながらその椅子に座る。風見さんはそれを見てから座り、一呼吸置いてから、
「ようこそ!我が校の誇り高き文芸部へ!!」
と、叫んだ。かなり濃い。驚いて隣を見るとまだ深山君はさっきのままだった。
「先生!!!!!」
「ふぇ!?」
机越しに両手を握られる。そのまま握られた手をぶんぶんと振られる。
「先生!!!この部はですね!!部員は5名、幽霊部員2名、稀に来るやつ1名で構成されてる寂しい部なんですよ!!!」
「は、はぁ」
悲しんでいるのか笑っているのかわからない顔で訴える風見さん。未だに両手は上下に振られている。
「先生が来てくれたからきっと部員はウナギのぼり、いやもうクジラのぼりですよ!!!」
「え、え、何で私?」
急に手の上下運動が止められた。風見さんは、言葉にすると「へ?」みたいな顔で私を見つめている。
「そりゃあ先生が可愛らし……綺麗だからじゃないですか!!!!!」
可愛らしい…………。風見さん、私は子供っぽいってよく言われてるから別に可愛らしいって言われても気にしないわよ……
「え、えぇ…⁉︎そうかしら」
「先生、これからはここを大船だと思って下さいね!!!!!」
もうすっかり手を離し1人で妄想の世界に入ってしまっている風見さんを止めるのは申し訳なかったので、隣に座る深山君の肩をちょんちょんとつつく。くるっと顔をこちらに向ける深山君の顔が心なしか赤い。もしかして変な本でも読んでるのかしら。
「…何ですか」
「え、ええと、あのね」
言葉の少ない深山君と何とか会話し、分かったことを要約すると。
・部長は奇人変人の類
・活動は基本文芸部らしいことをする
・文芸部が脚光を浴びるのは1年に一回発行される文芸部誌を出した時だけ(ちなみに深山君は書きたくないらしい)
・文芸部員は滅多に全員集まらない
・いつも来てるのは深山君と風見さんだけ
…………これくらいだった。いや、まぁこれくらいと表現するのは良くない。深山君だって一生懸命に話してくれてたのかもしれないし。うう、憧れだったはずの文芸部の顧問が……どんどん現実が挟み込んでくる。
「じゃ、俺帰るんで」
「うん…ぁ、はい!気を付けてね…」
部室を去る深山君を見届け、ふと部長を見るといつからか静かになっていたようで、本を読みふけっていた。
「あの、風見さん、そろそろ時間だから……」
返事はない。気付いていないみたい。
「あの、風見さん…」
机越しに風見さんの腕をつつく。やっと私に気付いたようで、
「あ、先生!私はこの本読んでから帰るので気にしなくていいですよ!!鍵かけとかしておくんで!!!」
「で、でも横井先生がどうなさってたか分からないし…」
「ヨコセンは……横井先生は!!もーなんかゆるゆるだったんで!!だいじょぶです!!!」
なんてにっこにっこしながら言うから断りづらくて、挨拶だけして職員室に向かった。またこれから仕事がある。頑張らないと。
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あの先生は恐ろしい。破壊力が凄まじい。あれで彼氏がいない……日本はどうなってるんだ。俺の顔を覗きこんだ時のあの髪を耳にかける動作はとても綺麗だった。……あーもうだめだ。こんなこと考えてちゃ。俺にはちゃんと、あのババァに決められた忌々しい婚約者がいるんだから。そいつのことだけ考えてないと。確か名前は佐久間 唯だったか。レベルにすればまずまず上の方で、結構な金持ちの家の箱入り娘らしい。だめだ、こんなに客観的に見たら。もっと好きにならないと今は叶渓璃依のことばかりが頭に浮かぶ。
俺は学校からとにかく早く離れようと全力で自転車をこいだ。
坂を登り、やっと門が見えた。家に着いた…。
自転車を庭に停め、靴を脱ぎ、開いていた大きい窓から室内に侵入した。いや、帰宅した。背の高い本棚の群れの中に、いつも通りじいちゃんがいた。
「ほれ、ちゃんと玄関から入ってこんか、魁斗」
いつもじいちゃんは本気で怒らない。その大雑把さが好きだ。隙あらばヒスを起こすババァと違って年の功がある。
「はいはい」
重い鞄を床に置き、本棚を漁る。ん?何だこれ。やけにぴかぴかしたピンクのカバーの文庫本が、空だった棚に詰められている。一冊適当に取ってパラパラとめくるとやっぱり新品で、しかも10代向けの恋愛小説だった。背表紙から何となくそれっぽいとは思っていたが、まさか本当に。
「じいちゃんこんなの読むの」
奥の方からじいちゃんの声がした。
「おお、見つけたか魁斗。わしも胸アツな青春ラヴストーリー的な話で[きゅんきゅん]したくてな、買った」
そんなに軽々しい動機で俺の胸くらいまであるタンスみたいな本棚をいっぱいにするくらいの量を買ったのか…。本当に不可解な人だ。本が好きな人はやっぱりそんな人が多いのだろうか。
「ほれ、魁斗も読んでみ。男子中学生が喜ぶ様なシーンもあるから、そう気落ちせずに読め」
「はいはい……」
適当に何冊か取り近くの事務椅子を引き寄せる。…『キミと出会う3歩前』…?なんだこの意味不明なタイトルは。開く気さえ失せてくる。でも悔しいことにどんなに馬鹿らしい本でもじいちゃんの薦める本に基本ハズレは無いから、渋々ページをめくる。登場人物紹介…叶渓先生に似てる人がいて、何故かドキッとした。
季節は春。
ごく平凡、強いて特徴を言えば勉学の面が少し周囲より劣っている…という主人公が絵に描いたような不良少年に惹かれていく。
煙草やクスリ紛いのものに手を染めそうになる思春期の不安定な心境の変化、それを止めようと奔走する彼女。いつも少し遠くから、しかししっかりと抜け目なくサポートするぶっきらぼうだが根は優しい女性教師。
どんどん悪い世界に飲まれそうになる不良少年。主人公は遂にその世界に片足を突っ込んでまで助けようとする。女性教師も放っておけず実態調査に乗り出す。
そして不良少年は遂に見栄だけで事を為そうとする。背徳感はあるものの、想いを寄せているため思うように抵抗できない主人公。そこに介入すべきか悩む教師。
「魁斗〜?また本読んでるの?夕食の支度が出来たわよ〜」
事の顛末が気になるところで夕食に呼ばれた。最悪だ。
俺が本に夢中になっているうちに、じいちゃんはもうダイニングに行ったようだ。気付けば光源は手元の明かりしかないような暗い書斎から何とか抜け出すと、ぱっと明るい廊下に出た。あーあ、靴下で歩いてるとまたババァに怒られるなぁ。持っていた学校用の黒いスニーカーを玄関に置きに行き、ついでに適当なスリッパを履いてダイニングに向かった。