浮気
「好きです。付き合って下さい!」
中学2年の春、クラスメイトの結城翔吾くんに告白され、付き合うようになった私。
初めてのデート、初めてするキス···
そして、迎えた初めての経験は、千鶴を少女から大人への階段を昇らせていった。
「えぇっ?! まーた用事が出来たのぉ?!」
「ごめんっ! 妹が、今日じゃないとやだって言うから!」
翔吾の妹の直子ちゃんは、ひとつ下の中学1年。何度か家で会ったり、一緒に出掛けたりしてるけど、かなりわがままな性格をしている。
「じゃ、次は絶対だよ?」
翔吾のデートのドタキャンは、いまに始まったことでは無い。
Hしちゃったら、みんなそうなのかな?
「夜にさ、またメールするから。じゃな!」
翔吾は、スマホをチラッと見ると軽く手をあげ、足早に去って行った。
「はぁ。またひとり、か···」
トボトボと校門に向かって歩いていく。
これじゃ、なんの為に付き合ってんのか、わかんないや···
最初は、楽しかったのに、今は、寂しさしかなかった。
「千鶴ーっ!」
ふと背後から私を呼ぶ声がし、振り向くと友達の亜美が大きく手を振りながら走ってきた。
「はぁっ···疲れた」
「走ってくるからよ。なに?」
亜美は、額に汗を浮かべて、私の方を見て笑った。
「翔吾くん···は?」
「あ、なんか直子ちゃんと出掛けるからって···」
亜美は、まだ息を荒くして鞄からデモネを飲んでいた。
「じゃ、一緒に···ご飯食べ···いこ?」
「うん! ちょっと亜美、ほんと大丈夫?」
亜美と私は、中学に入ってから仲良くなったが、翔吾と亜美は、同じ小学校の出だけど、あまり仲は良くないのが見ててわかる。
でも、なんだろ? 珍しい···
「部活いいの?」
陸上部でかなり期待されてる亜美は、秋の県大会に向けて大変な筈なのに···
「あー、いーのっいーのっ! 親友の千鶴の為だもん! へーき、へーき!」
??? 私の···為? なんで?
少し脳裏にハテナマークが浮かんだが、そんなに背中に哀愁漂ってた?
「いこ、いこ! 久し振りに甘いもの食べに行こう!」
「おーっ!」と言う事で、学校帰りの寄り道は禁止されているけれど、私は亜美と駅前のファッションビルに向かっていった。
「ねね、これなんかどう?」
いまむらで秋の新作を見ながら、互いに気になる服を当てては見せあいっこをする。
「千鶴は、可愛いのが似合うよねぇ」と亜美は、溜息混じりに言うが、
「でも、私は亜美が羨ましい。背も高いし、胸も···ね」
大人びて胸も大きな亜美は、可愛い服よりも大人っぽい服が似合うと思う。
「そうかな? 女の子は、小さな方が可愛いよ? うちなんて、みーんな背だけは高いし」
亜美の両親もお兄さんやお姉さんも、こぞって180近い···。私は、と言うと149cmしかない。翔吾は、156cm。スポーツやってると、みんな背が高くなるのかな?
「だぁって···」
大きな鏡の前で、ニコニコしながらあれこれ洋服を当てていく亜美の胸に視線がいく。
私のおっぱいも、亜美みたいに大きかったら···
翔吾との慌ただしいHをふと思い出し、恥ずかしくなり顔を伏せる。
「千鶴? どうかした? 決まった?」
「うん···」
自分が持っている服と少し感じが似ているが、前に翔吾と来た時にミニスカートが好きだと聞いたから···
「可愛いじゃん! やっぱ、千鶴は女の子してるなぁ。じゃ、買おっか!」と亜美が、私の服を手に取りレジへと進む。
「えーっ! いいよ、自分の位···」
「だーめっ! 亜美の誕生日ん時、千鶴靴買ってくれたから、そのお返し!」
なかなか引き下がらず、レジのお姉さんも苦笑い···
「じゃ、お言葉に甘えて!」
服を買って貰った上に、JINLOでふっふわのパンケーキまでゴチになってしまった。
「ごちそうさま。でも、次は私が出すからね!」
割り勘ではなく、お互いその場その場で前回に見合った金額を払って行くようにしている。
『─でさ、どうするっ?!』
っ?! 気のせいかな? 一瞬、翔吾の声が···
「千鶴!」
っ!!
「びっくりした。なによ、急に大声出さないでよ」
ファンシーショップを覗こうとしたら、いきなり亜美が大きな声を出すから、手にしていたぬいぐるみを落としそうになった。
「MISHIMAYA、行こう!」
「は? 本屋? いや、特にいま欲しい···って、ちょっ···」
亜美が、私の手を掴んでMISHIMAYAの方へと向かう。
「特に欲しいのないよ?」
そう私は言ったが、亜美はそんな私の言葉なんぞ耳に入ってないようで、私の背中を押すようにMISHIMAYAやLOPUTOへ連れ回された。
「いゃぁ、買ったねぇ!」
「うん。これ、ありが···」
帰る前にトイレに行こうとして、曲がり角を曲がろうとした時···
「あ」
「······。」
翔吾と鉢合わせした。だけなら、良かったのに···
「高崎先輩···」
翔吾の腕に絡まった高崎先輩の腕···
「あ、千鶴ちゃんと亜美ちゃん! どうしたの? ふたりして」
私と亜美の前に、無言で立ち尽くす翔吾とニコニコしてる高崎先輩···
「行くよ、千鶴!」
「······。」亜美の言葉にハッとしたけど、身体が動かない私を引っ張るように私は、マルジューを出た。
「翔吾、なんで高崎先輩と? 直子ちゃんと今日···。亜美?」
「······。」
偶然出会ったにしては、高崎先輩は軽くお化粧をしていたし、翔吾は私の方を見てはくれなかった。
「亜美?」
「ごめん···」
? ごめんってなに?
「そこ、座ろっか?」
「うん」入り口付近のベンチに腰掛けると、亜美は自販機で午後茶を2つ買って、飲み始めた。
「たまたま、だよね? 先輩と翔吾」
「······。」
私の問いに、亜美は何も言わず、ただ道行く人の流れを見て···
「千鶴は、なんも悪くないから」
「······。」その言葉が、何を意味するのか? 幾ら鈍い私でもわかる。
「いつ···から?」
午後茶を一口飲んで、亜美を見た。
「千鶴? 悪いのは、アイツだから···。千鶴は、何も悪くないから」
ベンチに座りながら、亜美はしつこく粘る私に根負けしたのか、翔吾と高崎先輩との事を話してくれた。
「······。」
私と付き合ってすぐだった。どっちが先だったのかは知らない···
「そだ! 千鶴、今夜うちに泊まろっ! パパ、今日夜勤だし」
「ううん。いい···。もう帰る、よ」
亜美の家に行ったら、泣いてしまいそうだった。
家まで亜美に送って貰った。ママがいなかったのが、良かった。
思いっきり泣いた。
泣いて、泣いて、気付いたら夜になってた。
「おかえり···」
「千鶴、ずっと寝てるから、お母さん先に食べちゃったわ」
テーブルの上に並んだ夕飯。ママは、いつも私やパパの好きな物を作ってくれる。
「お腹空いたぁ! ちょっと、顔洗ってくるっ!」
洗面所で思いっきり顔を洗って、鏡の前に立つ。
「泣かない···もう」
笑顔になり、大きな声で、
「ママー、ごはーんっ!」と叫び、無理矢理お腹に詰め込んだ。
お風呂から出ると少しまた気分も落ち着いた。亜美から、何度かメールや着信があって、もう平気だから!とだけ顔文字付きで返した。
ほんとは、辛い。
同じ学校だし、同じクラス。今日、明日は、学校が休みだから顔を合わせなくても済む。
月曜日から、どうしよう?
そう思った矢先に、事件は起こった。
月曜日の朝、私が教室に入るとかなり騒がしかった。
「どうか···したの?」
私より先に部活に来ていた亜美や咲ちゃんに聞くと、互いに顔を見合わせて頷いて私にこう言った。
「今朝、学校にくる途中ね···」
「え? 嘘···」
翔吾が? なんで?
その話が嘘でないのは、朝のHRの時に山崎先生が···
「皆ももう知ってるだろうが、今朝、翔吾が登校途中に大きな犬に襲われて、病院に運ばれた。幸い、命に別状はないが···」
先生の話が、なんか遠くなる···
翔吾は、右足のアキレス腱を野良犬に噛まれ、アキレス腱断裂したらしい。
『俺、絶対プロのサッカー選手になる!』
そう笑いながら言っていたよね?
翔吾···
気付いたら、真っ白な天井だった。
「あれ? ここ···」
「どう? 気が付いた?」
「千鶴···」
保健室だった···
亜美や咲ちゃん、香菜ちゃんが、私の顔を覗き込む。
「どうして?」起き上がろうとする私を亜美が支えるように、起こしてくれた。
「起きれるのに···」
どうやら、教室の中で倒れたらしく、保険委員の山本くんがおんぶしてここまで連れてきてくれたらしい。
「そっか···」
「高橋さん? どう、気分は···」
養護医の橋爪先生···
「はい。翔吾は?」
なんとなく言葉が出た。
「手術は、終わったみたいよ。どうする? 帰るなら、お母さんに電話するけど」
心配そうにみつめる橋爪先生。
「いえ。多分、亜美が···」
「私だけじゃないよ?」
「うん!」
「ほら、野良犬のがあったからね。もう今日は授業ないから···」
橋爪先生に頭を下げ、私は亜美、咲ちゃん、香菜ちゃんに囲まれるように、家へと帰っていった。
亜美の話によると、その現場には、高崎先輩もいたとか···
「そっか···」
4人集まるとファッションやメイクの話に華が咲く。もちろん、翔吾の話も出た。
「あー、別れちゃったんだ。ごめん」
咲ちゃんや香菜ちゃんには、私と翔吾が別れた事を言っていなかったから···
「でも、高崎先輩もやるよねぇ!」
「ほぉーんと!」
翔吾が、退院したのは、手術してから1ヶ月後。もちろん、高崎先輩はその間もイソイソと学校帰りに寄っては、世話を実の親以上にやいていたらしい。亜美のお母さんと翔吾のお母さんは、友達だから···
翔吾とは、別れちゃったけど···
「ぼ、僕は、君を泣かせるような事はしない! ずっと、きみのこと、好きだった。だから···」
あの時、私を保健室にまで運んでくれた山本くんに、告白された。
しかも···
「なんで、私まで?」
亜美が、立会人?として、引っ張られてきての告白。
「ほら、こっちこっち!」
「ちょっと、待って!」
根が優しくて、力もあって毎日私の送り迎えをしてくれる···
そんな彼を怒ったポーズで、待つ私···