第七フェーズ バレンタイン騒動
前書きをあとがきに書く恒例を済ませて
今回は視点が摩耶になります。
それではどうぞ( ゜д゜)ノ
―同年6月11日 経済産業省新資源研究課―
―正式作戦名:【Regria】フェーズ1 ―
―開始から1時間経過―
「あ~始まっちゃったよぉーなんか私まで心配になってきた!」
彼女は『中川 摩耶』今は経済産業省と防衛省の合同プロジェクトの職員だ。それはそれとして何故彼女がこんなに叫んでいるのかというと…
「中川さーん自分だけ仕事終わったからってオフィスを彷徨かないでくださーい。端的に言ってマジ迷惑です。」
「えーだってさぁー自衛隊と誰かがこの島のどこかで戦っていんだよ?心配になるのもわかるでしょ?ねぇねぇ?」
今、中川と半分面倒くさいもう半分ちょっとは楽しいと思って仕事中に私語しかない会話のラリーを繰り広げる不届き者の片割れの名は『大山 智』23歳、しかしこの部署の職員はみんなこの会話を親の目線で楽しんでいる非常に温情に溢れる方々なので特に叱られることはなかった。
「まぁー確かにその気持ち、分からないことはないですよ?うん。でも直接力になれないからせめてバックアップはちゃんとしておかないと。」
彼と彼女の主な業務内容は自衛隊側が発注した装備が適切に流通しているかチェックするのが仕事だ。 ちなみにこのプロジェクトに参加しているのは経済産業省本体ではなく外局の資源エネルギー庁がメインだ、表向きはマターとは完全に別物の〔地下資源を採掘する❳という名目でこの島にいる。
「うーんそうじゃなくてさぁーなんかこう…」
自分の気持ちを言葉に変換できずフェードアウトする。
「なるほど、あの人ですね。えーと名前が思い出せない・・・そう!本郷さんだ!確か、数ヶ月間一緒に仕事してましたよね?」
「うん、そうだけど・・・って違う!そんなのじゃないからね!」
「イイ人ですもんね、なんつーか〔ザ 優男❳みたいな感じするし」
「エェーあれが優男…どこが?」
(確かに初対面の印象はそれに近かった気がするけど・・・)
こんなところで噂をされるとは思ってもいなかった本郷だろうが、今後さらに増えることになるだろう。
「そういや最近忙しくて話せてないなー」
(やっぱりそうだったか…)
大山は何かを悟ったようだ。
―同年2月1日 【Regria】正面フロント―
新しい年、新しいお部屋、新しい職場、真新しいレディーススーツに身を包み、1ヶ月遅れでプロジェクトに参加するチームの一員の彼女は心底浮かれていた。
「これが配属先の職場かぁー・・・んん?ホントに?いや、マジで?こんなのが?」
それは全面ガラス張りのピラミッドみたいな四角錘が鎮座していた、しかもかなりデカイ。
「え~?宮古島ってなんかテーマパークあるって聞いたような・・・間違えたかも。」
「合ってますよここで。」
突然後ろから声がかかった、しかも独り言を聴かれていたらしい。
(うわぁー、恥ずかしい…)
「後、この島にはテーマパークはありませんよ。多分…宮古島の方ですね。なんとか村だったかな?」
「そ、そうですか。」
「新しく始まるプロジェクトのメンバーですよね?よかったら"全職員ミーティング"までご一緒しませんか?僕も今日から参加するんですよ。」
正直有り難かった。実のところこれからどうしよかフロントのお姉さんに「お話しでもいかが?」と聞くか迷っていたところだ。でも出会いの成り行きがナンパぽいのが気に食わないが…
「それではよろしくお願いします。」
「わかりました、ついてきてください。」
エントランスホールを抜けてまず見えたのが一度に30人は乗せることが出来るという特注超大型エレベーターと神話にいそうな蛇のようなとても長いエスカレーターのふたつがある。どうやらこの二通りの方法で下に行くことが出来るらしい。
「ところでその"全職員ミーティング"ってどこで行われる予定ですか?」
「えーと第一ホールって書いてあるけど・・・パンフレット誰からもらってない?僕は元上司から渡されたよ…君は?」
「ないです。全然ないです。」
「・・・・・」
「・・・・・」
「とんでもない上司ですね…ハハッまぁまぁ行きましょか。」
沈黙を避けるための苦笑混じりの返答を返して尚且つ歩を促した案内人に心の中で感謝をしつつもう一つ質問を投げ掛けてみた。
「見たところ地下にあるそうですけど、会場にはどのくらい下に行くか知ってます?」
「待ってね、うーんとうわっあったしこんなことも書いているのか。どうやら地下五階にその第一ホールがあるらしいですよ。」
「へぇー凄い!地下五階まであるんだー」
感嘆の声を漏らす摩耶だがこれで驚くことなかれ、と言ってやりたい。
「五階までじゃないらしいですよ。地下三十階まであるらしいです。それに造るために200メートルぐらい掘ったとかなんとか…」
「ばっっっかじゃないですか!!??ここ作った人本気で天性のバカなんじゃないですか!?」
「いやそんなに悪く言うこともないでしょ。」
この人本気で心配しているのか…なら早めに誤解を解いとかないとめんどくさいことになるな。
「安心してください、ジョーダンです。」
「あっよかった。」
もうそろそろ目的地に着く、実にここまで来るのにエスカレーターで1分は掛かった。
第一ホールの入り口に来るとこんな張り紙があった。―――第二期入省の方はこちらの席に自由にお座りください――
「空いてる席にふたりで座りましょう。せっかくここまで一緒だったので。」
これは確かに的を得ているがいきなり男女が隣り合わせで座っているとなると些かまずい気がしなくもないが・・・しょうがない。
「そういえばあなたのお名前、伺ってないと思うのですが?」
「そうですね。こちらこそ名乗らずすみません。僕は本郷 神守"元"防衛省の者です。」
「本郷さんですか、私は中川 摩耶、経済産業省の資源エネルギー庁から来ました。」
お互いの軽い自己紹介が済んだ。少したちここにいる全員が見覚えのあるお偉いさんが壇上にたった、防衛大臣『大村 重昭』と経済産業大臣『石橋 栄作』だ,そして【Regria】プロジェクトに参加するすべての職員に向けた激励が力強く放たれた。
「今日はこれで帰れるそうですが、どうします?この施設でも見て回りますか?」
(本当にこの人は・・・自分で言うのもあれだけど私が勉強熱心なのを見透かしているのではないかと疑ってしまうは…ちょっと寒気してきた)
「良いですねそのアイデア!」
さっきの考えを頭の隅に追いやり本郷の案に乗ることを選択した。
そこからは特筆すべきことは起きなかった、楽しく談笑したり、またもや馬鹿なのでは?と思う規模のこの施設の仕組みだったりとなんだか観光に来たような雰囲気になっていた。その程度だ。
「今日はこれで解散にしましょう。おっとその前に連絡先交換しますか?」
「いいよ。ラインでいい?」
ふたりのスマホにそれぞれの連絡先が表示された。
中川には、[本郷 神守]と
本郷には、[まーや]と。
(名前・・・なんか面白くないなぁ)
(後で名前まともなのに変えとくか)
似たり寄ったりな考えをしているふたりだった。
―同年2月2日 朝 中川のアパート―
―――ピコン――朝から中川のスマホが音をたてた。
「んもー朝からうるさいなー」
寝起きの連絡ほど鬱陶しいものはないと思う、これはおそらく、いやほとんどの人が心に抱く悩みの一つだろう…そう信じてる。
「ねむい・・・て言うか誰?本郷?マジで誰だ… あっ昨日の!本郷くんだ!」
朝のめんどくさいライン事情はおいておきそのラインの内容が
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おはようございます。
昨日のミーティングだと僕たち、同じ部署だったので朝ご一緒にと思いました。
8時頃アパートの玄関で待っています。
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メールかよ!?これ!以外と見た目よりさらに堅物な気がしてきたよ…断る義理もないしオーケーしちゃおうかな。
―同年同日 08:05頃 アパート玄関―
(ヤバいヤバい準備に思いの外掛かっちゃった) 焦る気持ちをエレベーターのゆったりとした感覚と同調させ落ち着かせる。決して開き直った訳ではない。必要な措置なのだ。
「ごめんなさい!」
「問題無いですよ。こんなことも起こるだろうなーって予測していたので問題ないです。」
なんかいちいち気にさわる人だなー、一言余計なんだよね本当。こうして中川の本郷に対する評価が徐々に下がっていく。
「行きましょうか。」
「・・・はい」
顔に現れないように感情をコントロールしてから脳内で言葉に表現できないほどの罵詈雑言を並べた。そこから【Regria】まで直通の電車に20分ぐらい揺らされていた。
そういえば本郷さん、まともに正面で見たことないよね・・・なんか以外だな。よしやるか。 身長180センチはあるのかな?気付かなかったけど高身長じゃん、顔も塩顔で髪もストレートの黒髪ってなんかモテる要素持ちすぎでしょ!さらに公務員ときたか…前の仕事場ではさぞかし女子社員に食い物にされたのだろう。そんなことを考えているうちに到着した。
―同年同日 経済産業省新資源研究所―
ここ経済産業省 (正確には資源エネルギー庁)管轄の部署には10名程度の職員が所属してる。
そのなかには防衛省から来た人が本郷の他に1人ぐらいしかいない。
「お仕事♪お仕事♪なーにやろう?」
陽気な自作の曲を口にしながら課長から送られたメールを確認すると…
「・・・・・」
「どうかしましたか?」
本郷が訪ねに来る。
「本郷くん・・・何この仕事、私帰れないかも」
「なるほど難易度は高い仕事ですけど・・・」
おっ!?具体的なアドバイスが来るのかと期待する彼女の気持ちはことごとく裏切られた。
「一緒に頑張りましょう!」
今まで見たことない最大級の笑顔で言われた。なんか…ムカつく!そもそもその笑みの使いどころ違ってませんか!?なんて口にできっこないから朝と同じように表情筋の固定を開始した。
それから昼飯返上の勢いで仕事を消化した。途中どこからか買ってきてくれたサンドイッチを中川に颯爽と渡した本郷は何事もないように定時から二時間遅れで仕事を片付けた。
(粋なことする人なんだ。朴念仁か気配り上手なのかどっちかにしといてほしいな。)
―同年同日 夜 電車内―
「そういや本郷くんってさぁーここに来る前どんな仕事してたの?防衛省出身なんでしょ。」
なんとなく聞いてみた。もしくは自分たちでも気付かないうちに彼のことが気になっている自分がいるのかもしれない。
「うーんそれね、今は話せないからタイミングが来たら話すよ。」
「何それもしかして人に言えないようなヤツ?」
少しだけ本郷の目線が外れるのを中川は見逃さなかった。アタリかもしれない。
「わかりました。そこら辺にしといてあげるよ。私、優しいからね!」
「ありがとうね、君が本当にやさしくて助かったよ。」
「でもいつか話してね。」
ちょっと間があったのもやっぱり気のせいじゃない。
「いいよ、いつかね。」
本来の中川ならこんなに消極的な攻めかたはしない。この会話の中で普段は見せないようにしている本郷の威圧というか本性みたいなモノが垣間見えたからだ。
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―同年2月3~12日 ダイジェスト―
3日水曜日 2日目になると仕事のコツが何となくわかってくる。ここで明記しておくと私の仕事はここで流通する"全て"の費用が適正に使用されているかチェックすることが仕事。労働省に行ってこようかな…
4日木曜日 例のエレベーターとエスカレーターの設置費用の件が私に任された。その次の日、朝から本郷に「会社休む!」と駄々をこねたのはここだけの話。
5日金曜日 平日最終日ともあって朝の時点で疲労はバカにならないほど溜まっている。後少しでキンキンに冷えたビールが待っている。頑張れ私!負けるな!
6日土曜日 新しい環境ということもあって昼間まで寝たのは仕方ないよね?
7日日曜日 久しぶりに趣味だった切り絵でもしようと思い立ったけど、引っ越したときの荷物が解き終わってないという現実に負けちゃってなくなく諦める。
8日月曜日 昨日、某国民的アニメ○ザエさんを観たその時から覚悟していたが今日から仕事が始まってしまう…ただ手元の資料とPCの画面とにらめっこするだけの日々が。
9日火曜日 今日でお仕事開始から一週間始まったが――彼――本郷くんについてようやくわかったことがある。何だか自分の過去の話をしたがらないこと。私ならするのになぁ。
10日水曜日 なんか今日凄いことがあった!本郷くんが手作り弁当持って来てた!どうやら食堂に行く時間が手間なほど忙しいかららしい。
11日木曜日 ここまで日記つけているけど仕事と本郷くんのことしか書いてない…いつから私は仕事と男に生きるようになったのか・・・
12日金曜日 明日からようやくお休み!実はこっそり本郷くんとランチ食べに行く予定作っちゃった。
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ダイジェスト、抜粋〔中川の日記❳
―同年2月13日―
―第二宮古島空港チェックインカウンター―
「にしてもわざわざ飛行機を使わないといけないってどんだけド田舎なんですか!?」
第二宮古島には基本、ショッピングモールといった娯楽施設は一切ない、よって遊びに行きたいなら飛行機に乗るのが必須ということになる。
「さぁー?どっかの誰かが『たまには大きいところ行きたい』って言ってたからなぁー」
「イ、イヤーダレダロウナー」
しらばっくれても無駄だ、遊びに行くメンバーは中川と本郷のふたりしかいない。
「はいはい、さっさと行って・・・何だっけ?海ぶどうが食べられるお店だよな。そこ行こ。」
―同年同日 沖縄県 那覇空港 10:30―
約50分程のフライトで目的地、沖縄県に着いた。早速お目当ての海ぶどうが食べられる店『元祖海ぶどう本店』に那覇市から恩納村までまた約50分かけてふたりは向かった。
『着いたー』
声を合わせて叫んだ。何だか息が合ってきた気がする。
「そういや何で海ぶどうなの?」
このランチ計画の発案者こと中川に尋ねる。
「え?沖縄といったら海ぶどうじゃん?」
「それだけ?」(疑問)
「それだけ。」(肯定)
本郷の頭のなかでは沖縄=シークヮーサーだとずっと思っていたから最初海ぶどうと聞いてかなり驚いた。
「・・・今、11時半ぐらいだけど少し海観てく?」
「通勤中に見飽きたからいい!」
「そっかもう食べる?」
「・・・食べる!本郷くんの奢りで」
少し溜めてからいかにも『待ってました!』と言わんばかりの勢いで賛成の意を表した。
「よーし!行こう、俺は絶対奢らないけどな」
「ケチ…」
「なんか言ったか?帰りのチケット持ってるの俺だけど、なんか言った?」
「すみませんでした。その脅しは怖すぎます。」
何とも微笑ましい光景なんだろうか・・・ここに彼女いない歴=年齢の悲しい人(非リア)の方がいたらあのふたりは消し炭にされたのだろう。
店内に入ると温かみのある雰囲気で満たされていた。お店の角の2,3人のテーブルに腰かけると女将さんがお冷やとおしぼりをサービスしてくれた。
「いらっしゃいませ。注文が決まったら呼んでくださいね。」
おー標準語だ、沖縄県の方言って同じ日本人でも理解出来ないことってあるから身構えてだけど必要なかった。
「標準語でよかったな。」
小声で本郷が対面から身を乗り出して話してきた。同じことを考えていたようだ。
テーブルの横に立て掛けてあったメニュー表を取って何を食べるか吟味した。
「私は海ぶどう食べる気できたから決まってるけど本郷くんは?」
「俺も同じのにするは」
「すみませーん」
本郷が注文してくれた。
「海ぶどう丼2つお願いします。」
「並みか大盛りどっちにします?」
しまった…決めてなかった・・・まぁでもわかるでしょあれだけ言ったからね。
「じゃあ並み2つで。」
(おいいいいいぃぃぃぃ何回も楽しみだって言ったのに並みはないでしょぉぉぉ)
そんな中川の悲痛な心の叫びは決して本郷に届くことなく話は進められた。
「違うでしょ…」
「ん?どうした?」
「何でもないよ。何でもない…」
15分くらい経過して海ぶどう丼が運ばれてきた。この混み具合だと早いと思う。
実はふたりとも海ぶどうを食べるのは初めてでどんな食感なのか楽しみにしていた。
見た目は緑色のつぶつぶが無数にある。ひとつひとつが光に照らされるたびに食欲をそそる。
酢飯、海ぶどう、とろろとウニの順で盛りつけられていた海鮮系が好きな人は堪らない一品だろう。どれも新鮮なものを使っているそうだ。さっそく一口いれてみたプチプチとはじける。広がる磯の香り。おいしいこの一言で全てを語れる。
「念願の海ぶどうはやっぱりいいね。」
「そうだなーまた来る?」
「次はアレンジして食べるつもり、レモンとかいいと思うんだよね。じゃあお会計しよっか」
「前言撤回、先に店出てていいよ。」
「そ、それって・・・うおおおぉぉごちになります!ありがとうございました!」
「すみませーんお会計お願いします。」
「はいはーいえーと2600円と消費税になります。」
(あいつのご機嫌をとれるなら安いもんか…)
人生初の海ぶどうを堪能したふたりは残りの時間を『琉球村』で遊ぶことにした。
―同年同日 琉球村 15:00頃―
「本郷くん、そもそも何ができるのここ?」
「有名らしいから来たけど聞けばわかるでしょ」
「行き当たりばったりだね。」
「ん?今回の旅の醍醐味はこのいい加減さだと思うよ。」
「ふーん興味ないからいいんだけどさ」
ここ琉球村には琉球村体験のモデルコースが3つある。
・一つ ファミリーで楽しむ(4時間)
・二つ カップルで楽しむ(2時間)
・三つ 琉球村を一日中楽しむ(7時間)
3つの中で二人が時間と人数を考慮すると体験できるコースはおのずと決まってくる。
「それじゃ受付行ってくる。」
本郷が代表してくれた。そしてカップルで楽しむコースを選択した。具体的な内容は沖縄の民族芸能のエイサー演舞を鑑賞したり、ソーキそばを昼ごはんの後に食べるという苦行を強いられたり、最後に本格的な衣装の貸し出しがあったが中川は乗り気だったが本郷がどうしても難色を示すので10分程費やして無理やり参加させた (ただし方法は明かさない)
こうして中川の希望により始まったこの恩納村へのミニ旅行はこうして幕を閉じた。誰もが楽しいと思える部分は…
―同年同日 那覇市 那覇空港付近―
夕方、先刻までは夕日の光をさんさんと受けていた那覇空港だったが今はもう暗闇の中に隠れている。さて、どうして中川と本郷がこんな辺鄙な場所を歩いているのか説明しよう。
恩納村を後にしたふたりは行きと同じようにタクシーを使い那覇空港に向かった。道中――というかついさっき『夕焼けを見てきたらどうです?』と提案してきたタクシーの運転手の案に本郷も大丈夫だろうと考え、外に出て眺めているといつの間にかタクシーはどっかに消え失せてるし周りは薄暗く視界も効かない。
「よぉ兄ちゃんその連れのソイツに用があんだ、どきな!」
突如背後から声がした。一瞬全身の血液が急激に凍るような感覚に襲われた。振り返ると痩せ細った体にアロハシャツを着た男が立っていた。よく見るとアロハ野郎以外にも二人いる。
「中川さん、あいつら知り合い?」
あり得ないが念のため小声で尋ねる。
「知らないわよあんな人、本郷くんこそどうなの?」
「わからん、初対面だ。」
一体どういうことか二人も知らない人から急に物騒な台詞を吐かれる。訳のわからないこの状況にどなたか救いの手を・・・
しかし救いの手はついに来ることはなかったが転機が訪れたのは間違いない、ただしあまり良くない方向に傾き始めた。
すると男の腰にぶら下げてあったスマホケースから中身を引き抜いた…だが抜かれたものはスマホなんかではなかった、僅かな電灯を反射し銀色の刃と『КАРАТЕЛЬ(カラテル)』というエッチングされた文字が見えた。
命の危機を本能的に感じ取った本郷は職業柄、胸ポケットに忍ばせておいた小型ナイフを咄嗟に取り出した。そして次の一秒からは"人対人"の人命さえも懸かった戦闘が始まった。
この戦闘の初撃はアロハ野郎が制した、ナイフを使った戦闘では初撃決着も多くない、故にこれはとても大きい意味を持つ、それは相手が対処能力にどれ程長けているか判明すること。そしてプロの者にとって勝ちも同然ということ。
本郷は内心、とても焦っていた。まさか突発的なナイフ格闘に巻き込まれるとは微塵も予想してなかったわけもあるが何より、何を思ったのかナイフ対ナイフの格闘に自分から持ち込んでしまったのだ。一般的には"ナイフ対ナイフ"よりも"素手対ナイフ"の方が難易度も比較的低い、それは本郷にも例外ではなかった。
「クッッーー!」
本郷が唸った。――キイィィーンン――金属と金属が打ち合う音が本郷とアロハ野郎の間に発生する。
アロハ野郎は最初の一振りを相手の左肩に滑らせて首に突き刺す動きをナイフを逆手に持ち、打ち出した。しかしその軌道はいつの間にか相手の右手に握られていた小さなナイフに遮られる結果となり暫しの硬直状態を作り出した。
「何故、彼女を狙う!?あとお前の名を言え!」
本郷が顔を歪めながら精一杯今も我が命を刈り取ろうとする凶器を受け止めている。
「もうすぐ死にゆく者に教えても無駄だがサービスだ、俺の名前は『サイトウ ヴィクトル』俺は言った、お前も語るのが道理だろ?」
「ふん、俺は『本郷 神守』今はただの公務員だよ!」
仕方なく言った言葉を言い終わると同時に拮抗するナイフの力関係をサイトウと名乗る男のナイフを押し返す形で崩した。止まっていたサイトウのナイフが急進したが、しかしそれは空を切るに終わる。
本郷は押し返しながら左に上半身を捻りつつ体を地面に倒すように躱した。
「ウッ!」
本郷が呻き声を上げた。さすがに躱しきれなかったようで、右腕に血が滲む。それでも戦意は消えることはなかった。
次に取った行動は戦闘難易度を低くするためにナイフを放棄すること、ただ地面に捨てるだけでは生かせるものも無意味になってしまう。だからせめてこいつを有効活用してやろうと思いきった策に出た。
「チッ!」
虚しくも空振りに終わり不服そうなサイトウだが持ち前のプロ意識をフル稼働させ、追撃を喰らわせることに集中した。しかし本郷という公務員の予想外の動きに驚きを隠せなかった。
「とおりゃゃゃぁぁぁーー!!」
右手の小型ナイフをダーツの要領でサイトウめがけてぶん投げたのだ。だが多機能を売りとするタイプはそもそも真っ直ぐ翔んでいくようには設計されていない、本郷は体のどこかに当たると期待して投げがそれは見当外れの場所――サイトウの右後ろの木――に突き刺さった。
(好機!今がチャンス!)
そう半自動的に悟ったサイトウは右手のナイフを順手に持ち替え、下から上に振り上げた。
本郷はナイフを捨てたあと2パターンの展開を予測していた。
一つは敵が上から下に切り裂いてくる。
もう二つは今の軌道を描くパターン。
しかしどちらにせよ対処は容易い。
迫り来るナイフを本郷はアメリカ海兵隊が使う近接格闘術『MCMAP(海兵隊マーシャルアーツプログラム)』を用いて防いだ、これはナイフを持つ手の手首を掴み拘束、そして地面に振り落とすことで敵を無力化する。
「グハァッ!」
叩きつけられた衝撃で情けない声をあげたサイトウは自ら仕掛けた戦いに敗北したのだ。
「サイトウさん!くっそよくもうちのリーダーを・・・許さん!」
声を聞くまで存在が空気だってサイトウの仲間らしき一人が激昂した。それはサイトウにも届き、ある事実に気付かせた。
「俺のことはもういい置いていけ!最初の目標の『Mを回収しろ!」
「りょ、了解!」
サイトウを押さえながら本郷は中川に叫んだ。
「今すぐ空港に逃げろ!」
この空港は航空自衛隊と共用で使用されている
つまり空港内に逃げ込めばこちらの勝ちとなる。
「分かったよ本郷くん!」
「逃がすな追え!」
サイトウの部下が追う。そして本郷はできればやりたくないがあることを決断した。
「えー、サイトウさんだっけ?ごめんよ。」
(えっ?えっ!?)
「ウッ!・・・」
本郷は手刀でサイトウの首を叩いた、かなりの力でぶっ叩いた。そして当然のように気絶した。
「これも使うとマジでヤバいけど緊急事態ってことで。」
おもむろに上着の内ポケットからG18(グロック18)を取り出した。しかも消音器付きの。
(狙いは頭ではなく足・・・)
「中川!横に走れ!」
次の瞬間、小さく乾いた音が二回鳴った、音の発生源から飛翔する弾丸は正確にサイトウの部下二人の太ももを貫通した。
「「ぎゃああぁぁぁぁ~~!!」」
大の男が喚く悲痛な叫び声を最後に突発的な戦闘は幕を閉じた。
―同年2月14日 那覇市立病院内―
昨日の戦闘で思いの外受けた傷が深かった本郷は近くの病院に一時入院している。
三人の暴徒――ということになっている襲撃者は中川が呼んできた航空自衛官の男性に取り押さえられ、今どこにいるのかまでは教えてもらえなかった。そのあと、駆けつけた自衛官には自分の本来の職業を仕方なく明かし、拳銃を所持していることは見逃してもらえた。
「本郷くーん?入るよー。」
「中川か、どうぞ。」
―同年2月14日 那覇市立病院内―
「ほんと昨日のあいつらなんだったんだろ?」
謎の襲撃を受けた中川はきのう起こったことに一人空気に向かって愚痴をはいた。
今、目の前の病室は危険な真似をして傷ついた本郷の部屋、実は中川は皮肉にもあの一件で一つ彼にどうしても言わなきゃいけない、言わないと気持ちが収まらないことができてしまった。
鼓動が跳ね上がる、呼吸を整えていつもの調子で声を出した。
「本郷くーん?入るよー。」
「中川か、どうぞ。」
病室に入ると病衣を着た本郷がいた、どうやら元気そうだ、
「派手にやったねー大丈夫?」
「そもそも、腕を切ったぐらいで大げさなんだよ。このぐらい何回も経験してるし。」
物騒な内容はスルーして、聞くなら今がその時だろうと中川は考えた。
「それって本郷くんの本当の仕事と関係あるの?やっぱり…」
「言わなきゃダメかな?」
「うん、お願い。」
「ふぅー、僕は"元"防衛省って言ったけどそれだと語弊がある正確には防衛省にいたのはほんの数日なんだ、それまで僕は陸上自衛隊のレンジャー部隊に所属していた。驚いたでしょ。」
中川は話を聞いてあまり理解が追い付いていなかった、それでもただ・・・
「よく解んないけど、すごいことなんだね。なんかとても遠くの存在に思うよ…」
「ごめん、詳しく話してあげたいけど今はこれだけしか話せないんだ。」
そして中川はもう一つ本題のことを明かす決意をした。
「と、ところで今日何の日か知ってる?」
少し声が裏返った、それも知覚出来ないほど緊張している。
「今日?2月14日がどうしての?」
やはりこの朴念仁で、だけどバカ真面目でそんな君を私は…私は!
「本ご、ううん神守君、受け取ってください!」
渡したのは赤い包みにくるまれ紐でデコレーションされた箱。
「気付かないなら言っちゃうけどバレンタインデーだよ神守君!」
「あ、ありがとう・・・ございます。」
本郷がいつもと違って威勢がなくなる。やはりこいつも男だっだようだ。
(今言わなきゃもうチャンスがなくなる…!)
「そ、それとお願いがあるの・・・」
「何?バレンタインデーの早めのお返しとして何でも言って。」
さっき整えた呼吸がまた乱れ、つられて鼓動も跳ね上がり始める。顔が内側から熱い。
「私、私と…
『付き合ってください!』
お願いします!」
これがどうしても伝えたかった思い、出会ってから2週間、日に日に想いを募らせるのはわかっていた。それがあの一件で急激に膨れ、弾け、伝え、こうして盲目的なほど愛を注げる彼の答えを待つだけになった。
永遠の時間が否応なく二人だけの空間に流れ出す。実時間5秒が死ぬほど長い。
「こちらこそ、摩耶。」
こうして本郷と出会ってから僅か2週間という短い間で付き合い始めた二人。でも一年間に相当する出来事を味わったのだから別におかしいことはないだろう。
―同年2月13日 19:00頃 那覇市のどこか―
「サイトウ達ははどうやら失敗したようです。」
何者かに電話越しに報告する彼は1,2時間前に日本人カップルをタクシーで那覇空港まで送迎し、作戦どうりにそこで言葉巧みに降車させ二人を置き去りにした。
「私が始末をつけましょうか?」
電話の相手からのレスポンスを受けて・・・
「はい、了解。予定どうり帰還します。」
―同年2月14日―
―中川の告白から5時間が経過―
―14:30頃―
彼女が帰ってからしばらくたち、どうにかして一人の時間を手に入れた本郷は前々から連絡しようとしていた人に電話を掛けた。
本郷が設定してあるコール音が三回、職権使って個室にしてもらった病室に鳴り響く。
「俺の異動以来ですね。宮本さん。」
『「階級を付けろ」って五月蝿くなくてよかったな。ところで事故があったらしいな。容態はどうだ?』
「アハハ、不要な傷を負いましたよ。全く」
『元気そうだな。ところで襲撃者についてわかったことはあるか?』
「名前は『サイトウ・ヴィクトル』、日本とどこかのハーフなんでしょうね、それとあいつ『КАРАТЕЛЬ(カラテル)』使っていましたよ。でもそれで国籍は割れないでしょう。流石にバカじゃあるまいし。」
『他に何かあるか?』
「そうですね~。『M』がどうたらって言ってたような・・・」
『ほう…『M』か、諜報部は仕事サボったな・・・』
「あと、最後に何で襲撃者が近いうちに来るってわかったんですか?」
『言ったかそんなこと?俺が?』
「じゃあ何で俺がナンパみたいなことをして彼女に接近しなきゃならないですか?」
『・・・情報元は公開できん、分かってくれ。』
「わかりました。切りますね。」
『大事にな。本郷』
今、リアルでくっそ忙しいので特に何も書かずに失礼します。