第拾フェーズ 過ぎ去る話、伝えられるもの
今回は待望の戦闘シーン・・・ではなく人狼サイドの話になります。
あっでも戦闘シーンは一応あるんで許して…
それではどうぞ( ゜д゜)ノ
「アリーシャッ!もうやめてくれお前を傷つけたくないんだ!」
最愛の女性の名を叫び、これ以上血が流れる必要はないと訴える。しかし悲壮にもその声が彼女に届くことはない。
〔ガルルゥゥ…❳
低く重い唸り声が発せられる。その中に今の容姿、本当は争いを望まない、そんな嘆きが滲んでるように思える。だが隠しきれない俺に向けられる殺意が彼女の理性を殺し。殺戮衝動を駆り立たせる。
〔グゥッ!❳
短く気合いが込められた掛け声に殺意と悲しみが混じっている。なんて可哀想なアリーシャ…もう救うにはアレしかない。今から俺が起こす事態に覚悟を決めるがその結果を受け入られるかは別だ。
「すまない…すまないっ!これしか方法がないんだ」
何度も心の中で謝罪した。何度も何千回も何万回も謝った。このあと訪れる晴れることの無い泥沼のような後悔の念を被ると知った上で俺は首もとに提げていた銀製の短剣を引きちぎった。
「おぉぉぉ…うぉぉぉらあぁぁぁ!!!」
悲鳴にも似た咆哮を迸りながら短剣を数時間前とは異なる容姿のアリーシャの胸元に突き刺した。
〔ごめんね、苦しい思いをさせて…ホントにごめんね❳
はっきり聞こえた、言葉としての意味を失った唸り声ではない確かに意味のある音、彼女の最期に伝えたかったもの。それを聞いたとき脳裏に優しく微笑み腰ぐらいまで伸ばした艶やかな黒髪をそよ風に左右に揺らした彼女が浮かんだ。
〔私はあなたを恨んでなんかないわ、むしろあなたを傷つけようとした私を憎んでもいいのよ?・・・でもあなたとの温かい家庭を築けなかったのが唯一の心残り。お願い、強く生きてアレン❳
「うわぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!逝かないでくれ!まだまだ君に言ってないことや一緒に行きたかったとこがたくさん、たくさんあるんだ…待ってくれ…アリーシャ・・・」
だんだん言葉が弱くなりやがて完全に消える。今は亡き最愛の彼女の名を口にして。
すると人と似て非なる姿だったアリーシャが淡い光に包まれ始めた。望んでもないこの世との別れを祝福する天使達の光のように感じる。そこには元の姿を取り戻した命亡きアリーシャが横たわっていた。なぜだか服は消えてその綺麗な肌を晒していた。
「寒いだろ?ほら温かくなった。」
俺が今まで羽織っていたグレーの質素なカーディガンを被せて彼女だったものを抱き抱えた。
「さぁ帰ろう…」
―17904年 水の月2日 瓏園の里―
そこから先は覚えてなかった。いつの間にか里に帰っていて日が沈みかけている。気付いたのは里全体が静まり返り人一人いない
(よかったこんな彼女をみられることなく帰られるぞ。)
しかし願ったようにならず里の長が家から出てきた。
「アレン、アリーシャを…そうか辛い役目をさせたのぉ。」
長は一言だけいった後、ジェスチャーでアレンを手招きした。
行き着いた場所は里の離れの墓場だった。
「お主も感づいていたと思うが2週間前からアリーシャには狂人狼化の症状が出ておった。わしは決めたのじゃ、アリーシャを楽にせんといかん・・・」
「だったら…だったら俺にも言ってくれたらいいじゃないか!」
アレンが反論する。でもただのわがままだとアレンも理性で理解できているが、時に感情と理性のバランスは大きく変化する。今のアレンの心理状態はひどく荒んである。
「知ってどうする気だ?解決の道を模索するか?・・・どうにもできんじゃろ?」
「クッ」
苦虫を噛まされた気分と同時にどうしようもない障壁に無力にも崩れる感覚が襲う。現実に向き合ったからこそ訪れる敗者の感覚。圧倒的無力感だ。
そもそもこんな事が起きたのも遡ること100年前、異界から襲来した闇の騎士とこの【ナタ大陸】に住む各種族の腕の立つものとの大戦が起きた。これは人狼族にも例外なく出兵が余儀なくされた。この当時瓏園の里からは長と里の若者が戦場に向かったらしい。しかし【ナタ大陸】側は敗退し長と若者たちも帰ってこなかった。この大戦で失われた技術〔制御の極意❳によって里の者に狂人狼化が表れるようになった原因らしい。
「長…いや、師匠〔制御の極意❳は解明出来たんですか?」
「やはり気になるか、後一歩のとこまで来ているのじゃがのぉ」
「なら、早く!急いでください!」
「うーむ、一つ問題があってな」
「問題?何ですか?」
「被験者じゃよ、わしで試そうにも体力的に限界じゃ…」
「俺に任せてください。アリーシャを失った俺にはこれぐらいしか出来ることがないんです!」
以前よりアレンは長の元で修行をしていた。他にもヨルクやハルクといった仲のいい兄弟がいるし俺にとっても楽しい日々だった。
数年前、師匠が決して覗いてはいけない部屋に興味本意で覗いてしまったことがある。バレてこっぴどく叱られたが師匠が研究をしていて、それがなんとなくすごいことぐらいしか12才の俺には理解できなかった。それがこの里の書物に度々(たびたび)登場する秘伝の技術〔制御の極意❳だと知ったのはごく最近だ。
「〔制御の極意❳…今や里の不治の病となった狂人狼化に歯止めをかける技術」
「何故、里の力自慢が使っていた〔制御の極意❳がこの病を治すかはいまだにはっきりしておらん。じゃが歴史から紐解くとこの技術が関わっておるのは間違いない。」
(アリーシャのように死んでいく者を減らすのが今の役目だろう、ならばやるしかない。)
「師匠、俺で試してください。」
「よかろう、この技術は諸刃の剣のようなものじゃ絶対治せるとも限らん。余計な希望をみるやもしれんがな。」
「覚悟の上です。」
―同年同月 翌日の朝 里の武道場―
「まずこれを見ておくれ」
「何ですか?」
手渡されたのは青色の正八面体で中央に何か光っている。
「これは〔制御の極意❳を具現化したものじゃ、ほれこいつを両手で潰してみろ」
「はい、やってみます」
―――――ピッ―――――起動中・・・完了 既存のスキルを修復
「どうじゃ?何か変化はあったか?」
「特に・・・何も・・・」
「うーん本来の用途は武術などらしいがのぉ、試しにわしと真剣勝負といこうか。」
「師匠とですか?そりゃ十中八九師匠の圧勝ですよ。」
「わからん」
「へ?勝負がですか?」
アレンが問う。
「それもじゃが、お前の実力が急にわからなくなりおった…」
「・・・・・」
「それじゃいいですか師匠?」
二人の間に張り詰めた緊張が流れ出る。
「ハッ!」
アレンは右手が高速で前に打ち出した。今まで体験したこのない加速感、昨日の出来事すらも忘れ去られるほどの高揚を覚え、右手は師匠の顔面の左側を捉え今もなおカーブを描き突き進む。
対して師匠は微動にせず前をみているだけだ、しかし左手が揺れるのをかろうじて見えた。次の瞬間左手が霞んだ、そしていつの間にかアレンの右手が師匠の左手の手のひらに収まっていた。
「見ないうちに速度も上がったな。」
決して手を抜いていない本気の右ストレートを汗一つかかずに止めてみせた。そんなことを考えていると右手に痛みを感じた。
「だが甘いなアレン」
師匠はアレンの右手を掴んだまま捻った。右手が本来あり得ない方向に回るのを抵抗せずに側転の要領で自ら回った。左足が地面に着くのと同時に右足で蹴りを繰り出した。
「うぉっ!」
さすがに師匠も予想できなかったようで足先が顔にかするのを知覚した。その隙に大きくバックステップをし距離を取った。
「はぁはぁ・・・ふぅー」
アレンが攻撃を仕掛けそれを全て師匠が受け止めるという流れを10回ほど繰り返した。アレンがダメージを与えたのは一回目の足技だけだ。
(さっきからある違和感はなんだ?妙に気にさわる)
師匠との攻防の間に強くなっていく違和感はまるでクリスマスに届いたプレゼントを待ちわびるような期待感と感じた。
(プレゼントのような…なら一丁開けてやるか!)
心のなかでそう呟くと突然体の奥底から闘志が溢れだした。瞬く間にアレンの身体中を満たした、変化はそれだけにとどまらず肉体面でも現れた。筋肉が盛り上がり、視点か高くなり、猫背のように背筋が曲がった。最後にに灰色の毛皮が全身を覆った。そうまるで"人狼"のように…
「狂人狼化じゃと!?予兆もなしにか!クッ待ってろアレンすぐに楽にしてやるぞ」
武道場の壁に立て掛けてあった薙刀を携えた師匠はいつもと違い何倍にも目の色が本気だった。
「ヘヤァァァーー!」
上から下に振り下ろされた刃は真っ直ぐこちらに向かっていた。
〔グルゥッ!❳
咄嗟に右手を掲げたがこのままではぶったぎられると思った。
―――シャキィィーーン―――右手の指の間から3本の爪が飛び出し、刃を受け止めた。
刀と爪の鍔迫り合いとなったが師匠に俺の現状を伝えることにした。
「師匠!師匠!刀を下ろしてください。俺は正気です!」
「!?ほんとかアレン!」
お互いに力を解いた。――グサァ――師匠の手元から離れた薙刀が床に突き刺さった。
「そうかお前は〔制御の極意❳を習得したのじゃな。」
「これが〔制御の極意❳?」
―同年同月 4日 里の広場―
朝、2日の間に色々起きた。最愛の女性を亡くし、その原因の狂人狼化を止める手立ての方法を探り、ようやく答えを見つけるたと思いきや俺が人狼になっていたりと…
こうして状況整理とリフレッシュを兼ねて広場の噴水に腰かけている訳だが、実は昨日の出来事には続きがある。
人狼化―――と呼ぶことにしたこの変化について夜まで師匠と考察していた。その話の話題の中で興味深い内容があった。
「実は、お前の人狼化を見て話す決心をしたのじゃが、遠くの王国にはとある予言がある。『水の月、遠くの人里離れた人里ならぬ里に闇の騎士へ繋がる扉が開かれる…』とな、あと里の者には黙っておったがこの狂人狼化はわしら、瓏園の里の者にとって避けられぬものじゃ」
「それは何故ですか?」
恐る恐る質問する。
「遠い昔、人と狼が交配し人のかたちをした狼が生まれた。やがて彼らは自ら繁栄し、人から受け継いだ知性で小さな里を築いた。」
「それって?まさか!?」
「そう、ここ瓏園の里のことじゃ、しかしもとより人と狼が子をつくるのは不可能に近い、それ故に世代を重ねていく毎に遺伝子が劣化していった。人より何倍も早く早くな…」
まるで自分の運命を呪っているようだった。
「200年も昔、仲のいい家族だったはずのものが殺し合う事件が起こった。これが狂人狼化の最初の犠牲者じゃよそれから徐々に同類の事件が増えおったそうな。一生を賭した研究でな分かったことじゃが、どうやら最初の代は自らの意思で人にも人狼にもなることができたらしい、それがどういう訳か変化を制御する遺伝子が劣化し非常に不安定になり狂人狼化が発症するようになった。そこで編み出したのが〔制御の極意❳、遺伝子の代わりに変化を操作する技術じゃ」
「そんなことがあったんですね…」
「うむ、わしも合っているか最初は疑ったが間違いない、事実じゃ」
「一度は失われた〔制御の極意❳じゃがこうして我々の元に帰ってきた。そこで頼みがある。」
「何ですか?」
「最初に話した予言はあと少しで到来する。〔制御の極意❳を手にしたお前ならきっと闇の騎士に勝てる!わしの先代の仇をとってくれ!」
長いこと困惑した。大陸の全勢力にも等しい軍勢をぶつけても勝てなかった闇の騎士と戦えと。だがアリーシャを死に追いやったのももとは〔制御の極意❳が失われたから。その原因は伝える前に命を散らした先先代の死…それは闇の騎士によるもの・・・
「復讐の機会があるなら使わないと死んでいった者に失礼でしょうね・・・やりますよ。」
「うむ、隣里の若者にも声を掛けよう。彼らも同じ境遇じゃしな。」
―同年同月 11日 闇への扉―
「全員、〔制御の極意❳を発動!"積年の恨み"を今晴らしに行くぞ!」
「「「オオーー!!」」」
幾つもの雄叫びが上がった。先頭に立つ髪を五対五に分けた彼の目は復讐に染まっていた。
一日で勢いに任せて書いたので読みにくい思ったかも知れませんが申し訳ありません。
そして今回も読んでいただき恐縮です。