6 新序章
「そ、それは」
教えることに躊躇している。焦れったいな。
一息ついて鈴がかなりの声量で
「あなたとの子供が欲しか!」
聞き間違えだろうか
「え?今なんていった?」
「おなじこと何度も言わしぇんでくれんといて」
「ちょっと待って急展開しすぎて混乱してる」
流石にこれは想定外、無様な姿を曝した。
政宗が動揺している。
お互い無言になった。
鈴も我にかえり、急に恥ずかしくなったみたいだ。
無理もない、思春期真っ只中の男子高校生に大声で『子作り宣言』をしたのだ。
しかし、この状況は中々息苦しい。
いまは夜のゴールデンタイムでも深夜でもない、
朝の6時。そんな朝っぱらに昨日きた可愛い転校生から告白された。子作りもという性欲を唆るおまけ付きである。
非リアの男子高校生の情報処理能力では到底できない状況である。
重たい静寂を突き破ったのは鈴だった。
「子孫繁栄は大切ばい。」
何を言い出すと思えば、ここに来てまだそんな事言える彼女の肝っ玉に敬意を評したい。
「あなた童貞でしょ?」
グサリと何が刺さる
「今も、彼女とか仲のいい女の子とかいないんでしょ?」
グサリまた一つ
「仲のいい友達とかも」
止めの一撃。立ち直る気力がない。
「そんな事に俺のこと罵って楽しいか?」
だがこのSの正確には耐性がある。意見くらいはできる。
「違うばい。確認したか。浮気とか絶対駄目。」
抑える所は抑えて⋯⋯いない!
俺はこんな歪んだラブコメなんて知らないぞ。
「何で俺なんだ?」
再び同じ質問をした。思春期盛りでそういう事したいと言う事は敢えて否定しない。
でも、他にもいい男だって。
「それは。最強の子供が欲しいからです。
だから貴方のDNAがあれば確実に⋯⋯」
強い子供か、軍人思想なのかな。
ふと疑問が浮かんだこのご時世にそんな真っ向から直接DNAを求めてくるなんて。しかも、
「じゃあ。許嫁じゃなくても⋯⋯」
「駄目か!」
息をつく暇もなかった。
「あなたは、私を助けたか。」
何をいってるんだこの女は、俺を助けるだと?
「さっき俺に負けたやつが何いってるだよ」
俺は助けられる?俺を救えるやつなんていない。
宇宙のどこにも。
「うちがこん学園に来たんな、先生いや貴方んお兄しゃんから政宗くんのことば聞いたけんばい。」
自分語りを始めたが、気になるワードが出てきた。
「兄貴から?」
「政宗は能力を持ってから笑わなくなったって」
笑い、それは。政宗が自分で決めてた禁句のひとつに他ならない
「強うなりすぎたけん、そん責任感で悲観的なったんばいね?」
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
「なにを。全部知ったみたいに」
必要ない。必要ない。必要ない。必要ない。
「やったらそれば全部誰かに預けん?」
愛。愛。愛。愛。愛。愛。愛。
「俺の過去を知らないで、おれのことをかたるんじゃねぇよ!」
幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。
「楽になろうよ。」
反論一言も出てこない。政宗は望んで孤独を選んでいるんじゃない。義務だからだ。
政宗は取り返しのつかないことをやって、自己嫌悪に陥った。
そして、罪滅ぼしのために。自分の手で葬り去った17の魂のために。
与えられる使命を果たす。それが政宗が自分に与えた自由のひとつだった。
「なんで、そんなことをする。」
彼女の言動の一挙一動には常に疑問が浮かぶ。
「うちも、同じ境遇から先生に救われたから」
兄貴か⋯⋯あの人に何も話していないはずなのに
察していたのか、すごいなぁ
「そんな、甘ったるい記憶で俺の闇を理解するなんて不可能だ」
同じ境遇?無駄だ。俺を理解するなんて。
「うちな、家族を殺したの。弱かった自分を粗末に扱った家族を。」
「そんな⋯⋯程度の」
「うん。君の闇に比べたら小さいかもしれない。
あなたのことも理解できていないかもしれない。
でもね、理解してるかしてないとか闇の程度って救うことに関係ないんだよ。」
政宗が泣き崩れた。いつ以来だろうか。
驚愕の理由に涙した政宗は、自分の在り方にか考えることなった。
怠惰だ。嫉妬だ。芥だ。悪だ。
そんなことを言われるのが当たり前だと思って生きていたので、大切なものを忘れていたのだ。
「ありがとう教えてくれて。鈴」
静かにそう囁いた。
──3日後 学園にて
「おはよう。政宗くん。昨日はこなかったけど
大丈夫だった?」
明るく挨拶をしてきたのは、隣のシャルルだった
優しさ。温かさ。
俺はこれに応えなければならない。それは義務とか責任じゃない。
「あぁ!おはよう。」
今までの彼では想像もつかない声量と明るさで。
どこか、感情が欠乏していて、なににも無関心
欲がない。そんなロボットみたいな人間だった。
そんな中、先日の鈴の言動は政宗に新たな考えを芽生えさせたのである。
政宗は大切なものを護りたいと思った。
これは、政宗が『やりたい』事なのだ。
「あなた、その喋り方⋯⋯一体どうしたの?」
期待通りの反応に爽快感を感じる
「なぁシャルル。俺にお前を護らせてくれ」
「あなた。今私の名前を、って護る?なんなの?」
慌て傍目く反応も期待通り
「いいんだ。友達は大切にしなきゃな」
「本当にどうしたの?あなたから出るはずのない言葉が出てくるのに、どこか頼もしいし」
「シャルル。俺はなもう失いたくないんだ。友達を大切な仲間を温かさを」
その言葉で彼女は何かを悟ったようだ、これは能力とかじゃない直感という不確かなものだ
「ええ。わかったわ。じゃあ私を護ってね」
優しく微笑む彼女の笑顔をみて、この気持ちがより一層強いものになった。
「あぁ。佐々木政宗は何があろうと友達を護る。」
「あ、おはよう。シャルルさん政宗くん。」
明るい挨拶を向けてきたのは
俺に新しい生き方を教えてくれた人。
「おはよう。鈴」
「それはそうと、あなた達、決闘はどうなったの?」
シャルルが突拍子なことを聞いてきた。
「もちろん俺が勝ったさ。俺が負けるわけ」
躊躇いはあったが少し嫌味っぽくいってみた
「ほんと完敗だったよ」
標準語も悪くないな。
「それで?そのあと何かあったのかな?君が変わったのも決闘後でしょ。」
シャルルの勘の良さは恐ろしい。
「な、何にもなかったよ」
確かにあのことをここで晒すのは今後の日常生活に大きく影響するに違いない。だが鈴が動揺したせいで
「ほんとかなぁ?怪しいなぁ。読心術使っちゃおっかな」
余計に不審がられた。これは勘のいいシャルルじゃない鈍感な俺にでもわかる。
「ほんとそれだけは勘弁してシャルルさん!」
「えーどうしよっかなぁ」
とはしゃぐ2人をみて
「これを護れることに、感謝をしたいな。」
と感傷に浸る政宗を見て2人が
「ちょっと何?辛気臭いよぉ。」
と鈴が笑ってきた。楽しいな。こんな風に過ごすのは傲慢だろうか。許されていいのだろうか。
心のどかでそう感じていた。
そのせいというのはちょいと業腹だが、政宗の闇は彼をまだ許さなしてはいなかった。
彼に残る負の感情は、政宗に執着しているようなくらいに、これまでの"政宗"は確かに残っているいる。
結末は常に残酷だ。
望まぬ方向に向かったとしても、運命という形のないものの強制力に修正されてしまう。
運命を変える?そんなことは口で言うほど簡単なものではない。だから、こそ彼には闇の政宗が残っている
これが、今できる最大の運命を変える変化である。
──政宗は多重人格者になったのだった




