1 超能力者の佐々木くん
プロローグの続きです。
A.D.2069 3・21
「ここは⋯⋯どこだ」
目を開けるとそこはいつもと違う天井だ。あたりの点滴や心電計を見れば病院と気づくのはそう遅くはなかった。
「俺は確か⋯⋯鉱石発掘のバイトをしていたはず」
記憶が混乱している。
「今日は何日だ⋯」
左側に表示されている電子時計を見ると目を疑った。
「3月21日?あれから2週間が経っているだと⋯⋯え?」
彼はあの事故からずっと寝ていたのだった。
「自己紹介が遅れた、僕は佐々木政宗。
1年前に第1人類移住プロジェクトにより火星に来た1万人の中のひとりの学生だ。」
ん?誰に自己紹介しているのだろうか。そんな事は置いておいておこう。
政宗は何かに気づいたように、パッとかをあげた
「おい。学校を2週間も休んだのか?
いや待てよ19日から春休みだから⋯休んだのは11日だけかって3日も春休みむだにしたぁぁ! 」
膨大な煩悩に塗れた思案が溢れ出てくる。
政宗は14歳の4月から新中学3年生である。
中学生の春休みというものは課題がなく、かつ進級に心踊る日々を過ごせるというかなり貴重な休暇になるに違いない。
それを2日だけ徒労に過ごした事にこれほど嘆く姿は、側から見ればさぞ滑稽な光景だろう。
「あー畜生!しくじったわ」
しかし彼はまだ自らの現状に気づいていない。
あのことを知れば彼も春休みどころではなくなだろう。
「まじで。5日前くらいに戻らないかなぁ」
普通ならば、ただ虚しく後悔している矮小な人と思われらだけなんだが、
グググゥゥゥン
画面が一瞬歪んでいるように見えた。あからさまに怪しい表現だがこれが一番適切だと思う。
「久しぶりに起きたから、目が慣れていないのかな?」
と吐露しながら右手で目を擦る。
さっきまでは聞こえなかった地面に何かし小さなもの落ちるような音が聞こえる⋯⋯
パラパラパラ
不思議に思い政宗はベットから起き上がり、白いカーテンを勢いよく開けて、窓の外を眺めると、
「⋯⋯え?さっきまで雨降ってたかな?
ゲリラ豪雨ってやつかな?」
彼はまだ気づいていない。人類未踏の関門を難無く通過してしまったことに。すると病室の自動ドアが爽快な機械音とともに開くと、白衣を来た中年の男が入ってきた。
「あっようやく目が覚めたんだね」
そいつは、顔の堀がとても深く金髪のオールバックで黒のサングラスをかけていて、「金よこせや」といわれたら言うが儘になってしまうと確信できるほど見た目にインパクトがあった。唯一医者としてわかる部分は白衣と首からぶら下げている聴診器くらいだ。
「あんたほんとうに医者か?」
「いやいや。悪いね見た目がイカツイのは勘弁してくれよ。」
解をはぐらかされた。ハラタツ。
「いやぁでも。随分と長く意識がなかったね」
「まぁ2週間も経ってますしね」
「え?何言ってるのまだあの事故から9日だよ」
「何言ってるんでか?だって今日は3月21日で⋯」
先生の言っていることがとても不可解だった。さっき日時を確認した時はたしかに⋯⋯
「ちゃんと日付を確認したかい?今日は16日だよ」
政宗は電子時計を二度見した。
「あれ?16日だ。いやでも確かにさっきは」
「ずっと寝ていたんだ、日付感覚がズレるなんて無理もないよ」
と先生は俺を憐れみながらもフォローしてくれた。
違う。何かがおかしい⋯⋯
火星にはない突然の雨。さっきとは違う日付。
「⋯⋯もしかしてさっき」
“5日前くらいに戻らないかな”と言ったことことが脳裏を過る。
「もしかして、タイムスリープしたのか?」
よくも考えればよくタイムリープの一言が出てきたものだなと後々この時の俺を過大評価したくなる。
「ちょっと佐々木くん。ヘルスチェックしよか」
頭がおかしいと思われたのか?
それもそうだ、こんなことを考えている自分が一番馬鹿げていると思うからだ。
「わかりました」
納得がいかないが渋々そう答えた。
「じゃあこの体温計を⋯⋯はい。」
先生は体温計を胸ポケットから取り出して、俺に手渡した。
「ありがとござ あっ!」
覚醒したてのせいか、指先にうまく力が入らなかったが咄嗟に手を伸ばした。
どうやら反射神経だけは健全らしい。余裕でキャッチできた。
「あっぶねぇー。落として壊しでもしたら弁償でしたよね?」
返事がない。先生の方を見てみると、まるで人形みたく微動だにしない。
「センセー。マネキンチャレンジやらなくていいっすよ。カメラなんてないっすから」
冗談が通じない、いやそうじゃなくて。
本当に動かない。そういえばさっきから周りがやけにに静かだ静かすぎる。
外を見てみるとさっき降っていた雨が止んでいる。
否。静止している。雨粒ひとつひとつが浮かんでいて、とても神秘的。ってそんな呑気なこと言ってるんじゃあなぁい。
「もしや、俺以外みんな止まってるの?」
体温計を取るだけのはずが時間を止めてしまった。
道理でさっき体温計を落とさずに取れたのか。そもそも、指先の感覚が戻ってないのに反射神経のような脊髄感覚が先に戻るわけないのだ。
さらに1つ問題が発生した。
「まて。どーやって戻すん。」
止めたはいいが時間を再び動かせない。ゲームみたいにメニューが出てくる訳でもない。
もしや、時間を止めた時みたいに意志的なものでどうにかなったりするものなのか?
政宗は過度の静寂さに俺は曾てない恐怖を感じている。
「まぁ色々と試してみようか」
意志的ってどういうのがいいのか見当がつかない。
ここは聞いたことのあるワードで……
「時よ動け!」違う
「俺は死に戻をして!」これは違うな
「常盤台中学!」うん。もうトキしか合ってない。
「くっクソォ。思いつかない。」
よし、もっと真面目に考えようか。もうここは無難に
「時間よ戻れ」
静寂が消え再び騒々しさが戻ってきた。
「どうしたの?佐々木くん。体温測って。」
「えー。単純。もうちょい考えろよ。」
「どうかしたのか?」
先生は今の流れを知らない。動いている先生をみていると先程の徒労を振り返るようで溜息が出てしまう。
「わかってます。」
と言い脇に体温計の先を挟んだ、3秒後合図がなって
測定完了。ハイテクだなぁ
「うん。36・9か大丈夫だな。次は血圧な」
先生はヘルスチェックを続けている。
俺は、確信した。"時間を操れる"ことを。
ヘルスチェックが終わって先生が行ったあと⋯⋯
「もしかして。俺最強なんじゃない?」
「このまま世界征服してやろう。」
だか所詮中学生の考える範囲、厨二病などと罵られるだけで先程より精神的ダメージを被ることが予想がつく。すると…
「はあーい。そこで止めるでーす。」
喋り方の癖が凄い頭の先からつま先まで黒尽くめの男が入ってきた。
まるで、1週間前に日本語を習い始めた外人のようだ。しかし、俺の直感が彼が大音量で危険だと知らせてくる。
「なんだお前!」
少し声を荒だてて警戒心むき出しの俺。初対面の人にいくらなんでも酷いような気がしなくもない。
「わたーしですか?この際そーれはカンケーないです。」
なんでこう俺の周囲の人は聞いてることに答えてくれないだ。あとその喋り方ハラタツ。
「今、あなーたはきづーきましたね。」
「な、何をだよ?」
こいつはまるで何もかも見透かしているような一言を発したため動揺を隠しきれない。
「超能力者になーったことを」
やはり知っていた。だがここはわざと知らないフリをすれば……
「は、は、なんの話か、わ、わかんないな」
もう誰が見ても嘘だと分かる動揺っぷりは、我ながらとても情けない。
「あらそうでーすか。でも構ーいません。」
今の動揺っぷりをみて俺の言葉信じるのかよ、どんだけこの人天然なんだ?。いやこれは天然を超えた何かの領域に入ってそうだな。もう変人っていうことにしておこう。
「は?じゃあ何しに来たんだよ」
「お礼をいいにきたーのです。」
何かボランティアしたかな?いや、覚えがないと言うよりも覚えていない。
そもそも、俺は真の自分さえ良ければそれでいいという人間だ、人のために何かするなんて考えられない。
「あなーたが1週間以上寝てーたので、わたーしたちの研究であなーたの身体を調べ尽くーして、人類が皆超能力者になれるようになりーました。ご協力感謝しーます。」
「え?ぇぇえぇ!うっそー!」
この変人、俺の体を勝手に調べただの滅茶苦茶爆弾発言をしているよな。
自分が特別な人間でなくなり安全が確保されたのだが、なんか虚しいな。
「それーでは、失礼しまーす。」
名刺を置いて風のように無音で立ち去っていった。
「近藤 夢。」
一生忘れないようなインパクトを与える名前だった。
こうして、ここの火星に住んでいる人たちは2070年以内に9割以上が超能力者となったのだった⋯⋯
しかしこの後、超能力者規定法が立案され。
火星国家は超能力者の国になった。
特別扱いされたがった政宗はこの後、地球を含めた世界中に滅茶苦茶注目されるほど特別扱いを受けることになるのだった⋯⋯
まだまだ出ます。