8 人の気持ちなんてわからない
年末にもっと小説を読んでいくので、読んで欲しい方はTwitterでお待ちしております。
──終礼 HR
「──それじゃお前ら、近々新入生歓迎会があるからな。だかその前にテストしっかりやれよ」
担任が生徒たちに向けて大きめの声で、呼びかける。だが、これほど分かりにくい励ましがあるだろうか。
"しっかりって何をすんですか?"
勇敢な1人生徒が佐々木先生に反論した。生徒の名には乃木坂芹南。クラスの中心的な人物。
"芹ちゃん" と称され男女ともに親しまれている生徒だ。
「勉強⋯だろ」
ダメだ先生⋯⋯しっかりしてくれよ。互い稚拙で無様な様子は側から見ればさぞ滑稽だろうな。
「まぁ色々あると思うが気をつけて帰れよ。じゃ号令」
軍人というものは、ほんとどうしようもない。
だが僕にはそんなことを軽く凌駕する程重要な予定が既にあり、その事で頭がいっぱいだった。
"起立"
明瞭な声で代表が号令をかけた。重低音のような始業号令とは対極している。
"気をつけ⋯礼" "さようなら"
毎回感じる。この儀式は果たして必要なのだろうか。
政宗はそんな下らないことを思案しながら、いち早くHRを出て早歩きで教室からすぐ近くのお手洗いに飛び込んだ。
そうして、鏡に映る自分を凝視した。
彼は多重人格になってから表と裏の色が表面的に露顕する様になっていた。
政宗は鏡の前に立ち、綺麗な銀色の前髪を弄る。血に染まる紅の瞳と蒼く澄んだ瞳のオッドアイであり右目に痛々しい切り傷。
彼の容姿は一生徒としてどうなんだろうか。悪目立ちしかしない。
「畜生、前髪が鬱陶しい。」
吐露しつつ弄りながらヘアスタイルを整える。
何にせよ人生初デード、気分が昂ぶるのも無理もない。
「何かヤバいことに巻き込まれないだろうか⋯⋯」
杞憂であってほしいとと思う。
そうして準備の整った政宗は再び教室に足を運び、シャルルを迎えに行った。
僕の席は窓側の最後尾。そうしてシャルルの席は列を挟んで隣でかなり近い。
夕日の差し掛かった他に誰もいない教室に入ると、シャルルはお淑やかにHR日誌を書き綴っていた。飾らない美しさの彼女に一番似合う花は八重桜だろう。
逆に僕の場合はアンスリウムだろうか。以前は感じなかった牴牾しさや何かに悶えるといった感情が湧き上がってくる。
もしかして裏は何か勘違いをしているのでは
そんな憶測が頭を過る。
「シャルル。待たせたな」
教室の入口で声をかけた瞬間、彼女は顔を上げてこちらを振り向いた。彼女はいつもの癖で髪の毛を弄りつつ
「あ、政宗くん。どこ行ってたの?」
僕のことを政宗と呼ぶ女子は少ない、そういった意味でも彼女は特別な存在だ。
「野暮用だよ。そんなことより早く行こう!
遅くなっちゃダメだからな。」
「⋯よかったぁ。心配して損しちゃった。」
心配しててくれたのか悪いことをしてしまったな。
と、罪悪感に駆られながら彼女を待つ。
シャルルは鞄に筆記用具をしまい、取っ手を肩にかけるようにして持ち教室の出入口に駆け足で寄ってきた。
「行きましょ」
「あぁ」
学園の正門を目指し2人は並んで歩いた。
シャルルとの身長差は20センチくらいある。
勿論歩幅が合うはずもなく、時々ペースを上げる彼女。
いざとなると話す事がない。お互い沈黙したまま歩き進める
「⋯⋯⋯ね。こんな事するのも久々ね」
静寂を突き破ったのは僕ではなかった。だが過去の話には疎い表。
「そ、そうだね」
誤魔化すしかない、ここで変わると何もかもぶち壊し兼ねない。
──おい表見栄張ってボロを出しでもしたらその人格消すぞ
内からゾッとするような冷酷で冷たい手で心臓を掴まれるような声が聞こえる。すっかり忘れていた。
いついかなる時も僕の中にいることを。
ならば裏はずっと見ていた筈だ。
──そろそろ外を見ていて人の温かさに気がついたか?
──はっどうだか。人なんて同類の生き物であってそれ以上でもそれ以下でもない。この俺の考えは揺るがないさ。
これでは埒があかない。俺がどうにかするしかない。
「あの時は君、空虚でどこか淋しそうだった」
こ、これなら話を合わせられる。
「そうかぁな?僕その時シャルルに酷い事しなかった」
少し墓穴を掘ってしまったと危惧したが、それよりも大変な出来事が起きてしまう。
「────ッご、ごめんね」
するとシャルル右手で口を押さえて涙を零した。
突然泣き出しのであった。
「どうしたの?何か気に障ること言っちゃったかな?」
当然戸惑う。人の気持ちなんてわからない、わかる筈が無い。これは非常に危険な状況である。
ヤバいこのままだと表に消されてしまう。
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