第1章 ドラグーン・ゲヘナ〈8〉
「でしょでしょ? あ、それじゃオリベのカッコイイ名前、私が考えてあげよっか?」
名前をほめられたオフィーリアが小さく手をたたいてよろこんだ。
「えっとね、そうだな……オルレアンルドルスとかは?」
「悪くないけど、なんだかドラゴンっぽくない? それに長くておぼえられそうもないかな」
オフィーリアの即興にオリベが苦笑した。
「お~い、オリベ、オフィーリア!」
魔導師ムードラが下へむけたグルガンドルフ・ロッドの二股部分に足をかけて、宙に低くうかびながら平行移動してきた。
ムードラがグルガンドルフ・ロッドから下りると、教会からシンキと柳生重隆こと神装槍鬼ゲオルギウスがでてきた。
ゲオルギウスは青黒い甲冑に長い角のついた兜をかぶっていた。手にしている武器は長い柄の先に無数の棘角の生えた大きな鉄球がついている。神式打突重鉄球である。
「さあ、オンドロイボナ森の眠り姫・魔装剣妃ヨッシーに、おはようのキスとそれ以上のことをしにいこうか。あ、ちょっとその前に昨日の分け前くばるね。すごい稼ぎになったよ」
ムードラがうれしそうにはしゃぐと、左中指の〈メモリング〉に嵌めこまれた緑色の宝石をタップした。
オリベ、オフィーリア、シンキの〈メモリング〉から入金を知らせる小さなアラームが鳴った。3人も〈メモリング〉をタップしてコマンド画面を表示し、入金額を確認した。
「ね、すごいでしょ? 竜玉が3200万ギル、竜眼がふたつで1000万ギル。ひとり頭、1050万ギルだよ」
「すげえ、おれたちチョ~金もちじゃん!」
「そろそろ騎獣とか買えないかな? 移動が楽になる」
「私、自分用のアパートがほしいな。家具のレイアウトとかも自分の好きなやつにするの。毎回、宿屋って居心地よくないんだよね」
「ううむ。うらやましい」
テンションの上がる4人にゲオルギウスが羨望した。
「ゲオルギウスも今日の狩りで稼げばいい。……とりあえず、お金のつかい道はあとまわしにして、今はヨッシーのところへ急ごう。おれたちがつくより先にヨッシーがログインしてモンスターにかこまれていたら大変だ」
オリベの言葉に一同がうなづいた。
3
オリベたちのパーティーは城塞都市オルムテサミド南門から6人乗りの魔装蟲輿ギザグソクムシをレンタルした。自分用の騎獣をもたない戦鬼やパーティーでの長距離移動には欠かせない乗物である。レンタル料ひとり2500ギル。
ギザグソクムシは体長2mの巨大蟲である。8本足の巨大蟲が、巨大亀ギザアノマロケリスの甲羅でできた宙にうかぶ輿をひいて移動する。
輿の中は立って歩きまわれるほどひろくないが、座っている分には快適だ。魔法で地面からういているので悪路でもゆれることがない。
昨日オリベたちのパーティーがオルムテサミドの北西に位置するジギゾコネラ火山の麓まで移動する時もギザグソクムシの魔装蟲輿をレンタルしている。
オルムテサミドの南西へ位置するオンドロイボナの森までは徒歩15分と云うところだ。通常なら魔装蟲輿をつかうほどの距離ではないが、あと5分でログインするはずの篁芳乃こと魔装剣妃ヨッシーとの約束に間にあわなくなる。
ムードラの操縦であっと云う間にオンドロイボナの森の南東へ魔装蟲輿を横づけすると、パーティーの面々は魔装蟲輿を下りた。ギザグソクムシが8本足をちぢめてうづくまる。
魔装蟲輿にも竜眼、云わば〈セーブポイント〉が埋めこまれているので、待機中にドラゴンやモンスターに襲われることはない。
ただし、野営するプレイヤー同様、もどってみるとモンスターにかこまれていることはある。そう云う時は闘ってモンスターを殲滅しなければならない。