第4章 おだやかな世界〈27〉
「てってれ~!」
「てけてけてけち~ん!」
死闘を生きぬいたウラエイモス樹海調査団の戦鬼や魔導師たちが口々に戦闘終了とEP獲得の効果音(SE)をつぶやきながら勝利の拳を突き上げた。
この世界をゲームと信じているかれらの頭の中では絢爛豪華なファンファーレが鳴りひびいている。
魔導師たちがうつろな瞳で杖をかざすと、エシムギゴルドスの巨大な屍が一瞬で解体されて消えた。ミクリアも一緒にエシムギゴルドスを解体した。
オリベとミクリアのふたりだけでエシムギゴルドスの角、竜眼、竜玉など半分以上の猟果をえた。
「てって……」
グリソードを鞘におさめ、そうつぶやきかけたオリベがエシムギゴルドスの鮮血でぬかるんだ赤い大地へ倒れこんだ。
「オリベ!」
ウラエイモス樹海調査団のみんながオリベの元へかけよった。エシムギゴルドスのかえり血を浴びて赤く染まったオリベの身体をゲオルギウスがあおむけにかかえ起こした。
「オリたん生きてるら!?」
「お見事でござった、オリベどの」
「オリベくん、しっかりして!」
「待ってて。今、回復魔法ボルキガを……」
〈キアトクレドル〉で降りてきたミクリアがムードラの言葉をさえぎった。
「その必要はありません。オリベはじきに回復します」
プレイ上限時間のなくなったオリベに戦闘後の回復魔法は逆効果となる。今はつらくても自然に回復するのを待つ方がよいのだが、その理由をかれらに説明することはできない。
みんなの声にオリベが意識をとりもどした。
「……みんな。たすけてくれてありがとう」
「なに云うとんねん。たすかったのはわいらの方や。ほんまおおきに」
「うむ。しかし、あのすさまじい技は一体?」
スラエタオナの口にした疑問はその場にいる全員の疑問でもあった。シーグルスが歩みでてその疑問にこたえた。
「オリベどのにはレアなSAがあったのじゃよ。そのSAが完全に開花すれば格段にレベルアップできるはずなのじゃが、この能力はついさっき発現したばかりでな。つかいこなすにはまだまだ修練をつまねばならぬ」
「ゲオルギウス、ありがとう。もうひとりで立てるから大丈夫……」
ゲオルギウスにささえられていたオリベはなんとか立ち上がったものの、ふらついてふたたび倒れかけた。ミクリアがあわててその身体をうしろからだきとめる。
「……ところで、オリベくん。たしか、きみの〈リンクス〉は壊れたって云ってたはずだけど、いつの間にそんな美人の魔導師さんとお知りあいになっていたのかな?」
口元をニヤニヤとほころばせながら語るムードラの言葉に、オフィーリアとヨッシーも噛みついた。
「オリたん、浮気したのら!?」
「そう云や、あんた一体だれなの?」
「え? いや、あの、その……」
いきなりオフィーリアの追求をうけ、しどろもどろのミクリアの腕の中でオリベが意識をうしなったふりをした。
「ちょっと、オリベ!? なに死んだふりしてるの、この卑怯者!」




