第4章 おだやかな世界〈26〉
「……きみのひざ枕じゃかたくて眠っていられないよ」
義足でよろわれたミクリアのひざの上にあおむけで倒れていたオリベがしずかに目を開いた。なんとか回復したらしい。
「へらず口はあと! ヤツはこっちも警戒してるから、最初みたいな奇襲はムリね。どうするオリベ?」
「ひざ枕」と云うワードにいささかほほを赤らめながらも、オリベの冗談に緊張のほぐれたミクリアがいつもの口調でたずねた。
ミクリアのひざの上で上体を起こしたオリベが云った。
「冷気をまとった触手に触れれば一発でアウトか。ミクリア、きみの防御魔法で触手の攻撃を防げるか?」
「直接攻撃の衝撃まで防ぎ切れるかどうかはわからないけど、たぶん」
オリベはミクリアの言葉にうなづくと作戦を告げた。
14
角を折られた凍壊竜エシムギゴルドスは〈巨大氷柱攻撃〉をはなつことができなくなり〈デスパブリザード〉の威力も弱くなっていた。
それでもなおスラエタオナを欠いたレベル50の『深紫の百足団』と老いたシーグルスだけで相手をするには骨が折れる。
エシムギゴルドスの後方上空で触手をさけるように距離をおいていた〈キアトクレドル〉で、オリベが体勢をたてなおすのに気づいた『名無しのパーティー』の4人が『深紫の百足団』たちへ告げた。
「オリベどのがなにか仕掛けるようでござる!」
「スラエタオナさん、ヤツの足元へ牽制を!」
オフィーリアの言葉に間髪入れず反応したスラエタオナの魔装劫焔剣が火焔放射した。
「劫火剣!」
「ほいきた! ヤツの気をそらすだけならヨッシーにもできるのら! ブブゼラドンドンッ!」
ヨッシーが魔装音波砲を吹き鳴らすと、ブイイーッ! と不快な大音量が大気をふるわせた。攻撃力こそないがドラゴンの聴覚を数秒麻痺させる力がある。
頭をふってうめくエシムギゴルドスの背後から、オリベをのせたミクリアの〈キアトクレドル〉がちぎれかけた左腕の皮膜側を通ってエシムギゴルドスの正面へ躍りでた。
左肩の触手が〈キアトクレドル〉の軌道をおって皮膜の下から身体へまきつく。〈キアトクレドル〉はそのままエシムギゴルドスの正面を急上昇した。
「左肩の触手を無効化した! シーグルスさま、ヤツの頭部へ攻撃を! シェナンパさんは右肩の触手を狙撃して!」
オリベの意図を察したムードラが早口でまくしたてた。
シーグルスが〈氷結破斬〉をはなち、シェナンパが両手の魔装美麗短剣銃で〈キアトクレドル〉へななめ上からおそいかかる右の触手を撃ちぬいた。
決して味方をあてにできる状況ではなかったが『名無しのパーティー』の的確な援護にオリベは胸が熱くなるのを感じた。
(……みんな!)
シーグルスの攻撃がエシムギゴルドスの顔面を直撃した。小さくのけぞるエシムギゴルドスの顔前を絶妙のタイミングで通過した〈キアトクレドル〉の頭上でミクリアがさけんだ。
「点火!」
「うおおおっ! 双剣旋風斬ッ!」
〈キアトクレドル〉からエシムギゴルドスへ向かって飛び下りたオリベが回転しながらエシムギゴルドスの巨体を一閃した。
オリベが音もなく着地すると、ガクリとひざを折ったエシムギゴルドスの巨体がまっぷたつに割れてオリベの左右へVの字に倒れた。砂塵が舞い、大地が鮮血で赤く染まっていく。




