第4章 おだやかな世界〈24〉
ジャブのようにこつこつ当てつづける地道な攻撃にエシムギゴルドスが激怒した。ひだのついた2本の触手と額の長い角が青白く発光する。
「キハアアアアアアッ!」
「あかん!」
ウラエイモス樹海調査団の中心に巨大な氷柱がそびえ立つと5人の戦鬼たちが氷のチリと消えた。
魔導師ブプルノホテプも防御魔法が間にあわず、悲鳴もあげずに死んだ。
この戦いをゲームだと信じこんでいる戦鬼たちも、エシムギゴルドスの圧倒的な力の前に戦意喪失しかけていた。
そんな気配を察したのか、エシムギゴルドスはゆっくりと口を開いて〈デスパブリザード〉の放射準備に入った。
「みなさん、私の元へ集まって!」
エスメラルダが生きのこりを招集した。彼女の防御魔法でなんとかこの一撃をしのぐつもりだ。ムードラ、ミランダ、スパウーザの3魔導師もエスメラルダの防御魔法に同調する。
「キハッ!」
エシムギゴルドスがこれまで以上に強力な〈デスパブリザード〉をはなった。全員がゲームオーバーを覚悟したその時〈デスパブリザード〉が防御魔法へ到達する手前で消失した。
「氷結破斬!」
ウラエイモス樹海調査団の前にあらわれたのは、異様に頭の大きな鳥型の騎獣・ハシリハシビロコウの〈シャクト〉にまたがった青い甲冑の老剣鬼だった。
「魔装剣皇シーグルス!?」
スラエタオナの言葉に全員が目を見張った。
「ここまでようふんばった。なんとかヤツを倒す。儂らに力を貸してくれ」
「……儂ら?」
ムードラが耳を疑うと、エシムギゴルドスのはるか頭上からひとりの戦鬼が舞い下りた。
「シンキの仇っ!」
戦鬼は両手にたずさえた両刃の剣でエシムギゴルドスの額の角をはさみ斬ると、顔を蹴って飛び下りざまエシムギゴルドスの左肩へ斬りかかった。
「双剣旋風斬!」
「キハアアアッ!」
左肩から皮膜のなかばまで深々と斬りさかれたエシムギゴルドスがもんどりうって倒れた。身体から切断された左腕がぶらぶらとゆれている。
「ちょっと、あれって……!?」
耳なじみのある声と剣技に『名無しのパーティー』の4人が息をのんだ。大地に降り立ち、こちらへかけてきたのは、ここにはいないはずの魔装剣鬼だった。
「「「「オリベ!」」」」
「……よかった、みんな無事で」
オリベはそうつぶやくとひざをつき肩で息をした。やはり瞬時の消耗ははげしい。
「おぬし一体……」
ゲオルギウスの言葉をかき消すようにシーグルスが指示した。
「シェナンパとスラエタオナは儂らと攻撃。エスメラルダはみなをつれて後退せよ」
「ですが、防御と治癒は?」
エスメラルダが疑問を口にした。
「防御と治癒は儂ともうひとりの魔導師がおこなうで心配無用じゃ。こやつの技はチャージにいささか時間がかかるので、シェナンパとスラエタオナには攻撃のつなぎを頼む」




