第4章 おだやかな世界〈23〉
ドラゴンの群れがウラエイモス樹海調査団を避けるように左右に散開していった。
大きな皮膜を羽ばたかせ、霧消した氷柱のあった場所へ降り立ったのは、体長10m級の巨大な金色のドラゴンだった。
額からのびた長い角は冷気を白くまとっており、肩甲骨からのびた2本の長い触手のようなものが玉虫色のひだをふるわせている。凍壊竜エシムギゴルドス。レベル73。
「〈巨大氷柱攻撃〉……いきなり真打ち登場っつーわけやね」
『深紫の百足団』の魔装銃将シェナンパがひとりごちた。
エシムギゴルドスが碧色の隻眼でしずかにウラエイモス樹海調査団を睥睨した。左目はシンキが命とひきかえにつぶしている。エシムギゴルドスが空へ向かって獅子吼した。
「キハアアアアアアッ! キハアアッ!」
『銃鬼、槍鬼は前衛! 魔導師はバックアップ! 遠距離攻撃のできない剣鬼は最後尾へ!』
法印魔導師エスメラルダが全員へ通達した。
「くるぞ! 全員防御!」
アフマルドがさけぶと同時にエシムギゴルドスの口から白い冷気のかたまりがはきだされた。〈デスパブリザード〉である。致命傷ではないが、レベル35以下の戦鬼たちはLPをかなりけずられた。
「まずは翼をうばうんや! 死角の左肩をつぶすで! ナウ・ロマンティック!」
シェナンパのはなった光の球がエシムギゴルドスの右肩で爆発した。銃鬼・槍鬼も遠距離から左肩へ集中放火する。
「キハアッ!」
たまらず左肩をのけぞらせたエシムギゴルドスが右の皮膜をふるって、冷気のカッターをはなった。防御のおくれた数人の銃鬼・槍鬼の上半身が消し飛んだ。
「劫火剣!」
魔装剣将スラエタオナが第二波攻撃の先陣を切ってエシムギゴルドスの右肩へ火炎放射した。銃鬼・槍鬼もそれにつづく。
「今度は左だ! 激熱突刹槍!」
間髪入れずにアフマルドも攻撃した。しかし、銃鬼・槍鬼との呼吸があわず、魔導師たちの反応もおくれた。
エシムギゴルドスのはなった〈デスパブリザード〉の直撃を喰らったアフマルドと、その周辺にいた銃鬼数名、『紅蓮の傭兵団』の槍鬼たちが氷のチリとなって消えた。
「アフマルド!」
もはや、この時点で最後尾に待機する剣鬼をさしひくと、戦闘可能な戦鬼・魔導師は30名に満たない。戦闘を傍観するしかない剣鬼のイスカリオテやマルコロメオは自らの無力さに歯がみした。
「このままでは味方の損害が多すぎる! どうする、シェナンパ!?」
悲鳴にも似たスラエタオナの言葉にシェナンパが口をゆがめて笑った。
「どうするもこうするも、つづけるしかないやろ。ここでくいとめなアギハベラミドはおじゃんや。……かたまっとったら、みんなやられる! エシムギゴルドスの死角へまわりこみながら散開せえ!」
シェナンパが号令しながらエシムギゴルドスの頭部へ〈ナウ・ロマンティック〉をたたきこんだ。時間かせぎの目くらましだ。
〈ナウ・ロマンティック〉を喰らって大きくのけぞったエシムギゴルドスが顔をもどすと同時に〈デスパブリザード〉で応戦する。しかし、もうそこにウラエイモス樹海調査団の姿はない。
エシムギゴルドスが首を左右にふり、足元で左側へまわりこみながら散開する戦鬼たちの姿をとらえると、身体をひねってふたたび〈デスパブリザード〉をはなった。その直線上にいた数人の銃鬼・槍鬼が犠牲となる。
「とにかく左肩や! 腕が上がらんようなるまで撃ちつづけ!」
銃鬼・槍鬼は散開しながら執拗に左肩を攻撃した。




