第4章 おだやかな世界〈22〉
「ひとあてでもふたあてでも、レベル72の攻撃力がないよりはましです。……ミクリア。おれときてくれるか?」
オリベがシーグルスの言葉もまたずにミクリアへたずねた。ミクリアは小さく肩をすくめて云った。
「十全とは云えない作戦だけど、最悪、オリベくんが役に立たなくても、私の防御魔法でたすけられる戦鬼たちがいるかもしれないし。ここはいくしかないわね」
「……わかった。そなたたちは〈イス〉でアギハベラミドへ向かうがよい。儂も騎獣〈シャクト〉でアギハベラミドへ向かう。そなたたちの盾くらいにはなれるじゃろう」
シーグルスは一足先に天空城塞都市パセムのゲートへ向かい、オリベとミクリアは〈イス〉をとりに家へもどった。
「ミクリア、これをつかいなさい」
ふたりを出迎えたヴホシャはミクリアへ新しい〈イス〉を用意していた。〈イス〉の下部にはそりのような2本のエッジがつき、〈イス〉のまわりには流線型のガードがついていた。うしろにはハンドルのようなとっ手と足をかけるくぼみもある。最初からふたり乗りを想定したデザインである。
「狩猟用浮遊イス〈キアトクレドル〉。あなたたちのために用意しておいたの。ふたりとも気をつけて」
「「はい!」」
ミクリアが右のひじかけに魔導師の杖をさしこむと〈キアトクレドル〉が起動した。オリベがうしろにつかまると〈キアトクレドル〉は音もなく急加速した。
「すごい! はやさがぜんぜんちがう!」
ふたりはあっと云う間にゲートへ到着すると、天空城塞都市パセムから降下した。
13
城塞都市アギハベラミドは有象無象のドラゴン襲来に恐慌をきたしていた。
修復中の城壁の裂け目にはアスタトロス教団の戦鬼や司祭がその内外に二重三重の陣を敷き、ドラゴンの侵入をかろうじて阻止していた。
昨日、合流した『深紫の百足団』率いるウラエイモス樹海調査団は、逆Vの字のワタリドリ陣形でドラゴンの群れを蹴散らしながら、アギハベラミド北北西の平野をウラエイモス樹海へ向かって突き進んでいた。
なるべくアギハベラミドからはなれたところに防衛線を張って凍壊竜エシムギゴルドスを迎撃する作戦である。
『右後方5人ちぎれました!』
『陣形をひきのばすな! 密に接していないと分断されるぞ!』
「円月滅覇斬!」
魔装槍将アフマルドが虹色の衝撃波でドラゴンたちを消し飛ばすが、それでもドラゴンの群れは途切れることなく天と地を埋めつくしていく。
「ラスボス相手の前哨戦にしてはシャレがきつすぎやしない!?」
魔装美麗剣銃で蓮華散弾を撃ちまくるオフィーリアに、せわしなく魔装音波砲を吹きまくるヨッシーもヤケクソ気味にわめいた。
「今日の天気予報にドラゴン注意報とかでてなかったのら!」
「これでは数が多すぎて棘鎖網散華がつかえぬ!」
ゲオルギウスも泣き言を云いながら神式打突重鉄球をふり下ろす。
「こんなの陣形も作戦もあったもんじゃないよ! ぼくが防御魔法に専念するから、みんなはとにかく狩りまくって!」
魔導師ムードラがオリベ不在の『名無しのパーティー』を必死で鼓舞していると、ドンッ! とすさまじい音がして、大気がビリビリとふるえた。あまりの衝撃にすべての時間が一瞬凍りついた気がした。
ウラエイモス樹海調査団の右翼に巨大な氷柱がそびえ立ち、たくさんのドラゴンと数十人の戦鬼たちの命を巻きぞえにして霧のようにはかなく消えていった。さえざえとした冷気が戦鬼たちのほほをなぶる。




