第4章 おだやかな世界〈21〉
「ミクリア。オリベどのの背中に両手をあてて、魔法で手のひらにオリベどのの背中を吸いつけてみよ」
いわば魔法による念力の応用で、オリベの身体へミクリアの魔法をあてると云うことだ。
「オリベどのは昨日の瞑想の要領でミクリアの魔法を意識するのじゃ。おそらく、また一時的ではあれど魔導剣鬼になれるはずじゃ」
「いきます」
ミクリアがオリベの背中に手をあてると、オリベの気が爆発的にふくれ上がった。
「意識せよ、オリベどの。魔導剣鬼たる今の自分を強く意識せよ」
オリベは目をつむると、ミクリアの手のぬくもりと自分の中をかけめぐる猛烈な気に意識を集中させた。
ややあって体外へふくれ上がっていた気がおちついた。しかし、オリベの中では先程とおなじように力がみなぎっていた。
「ミクリア、手をはなしなさい。オリベどのはそのまま集中して魔導剣鬼としての自分を保持するのじゃ」
ミクリアのサポートなしで魔導剣鬼としての状態を保持するオリベだったが、2分ほどで徐々に感覚が弱まっていった。元の剣鬼レベルにもどったオリベが大きく肩で息をついた。
「ふむ。まあ、はじめはこんなものかの? しかし、この特訓が有益であることは実証された。ほれ、ふたりとももう一度じゃ」
「がんばって、オリベくん」
圧倒的に特訓内容のラクになったミクリアがひとごとのようにオリベを鼓舞した。
オリベは微苦笑した。瞑想は初心者にとって想像以上に精神的負荷が高い。オリベとしてはシーグルスと剣をまじえている方が気もち的にははるかにラクだ。
とは云え、ようやく魔導剣鬼へレベルアップする糸口を見つけたのだ。すこしでもはやく魔導剣鬼になって、レベル73凍壊竜エシムギゴルドスの脅威にそなえたかった。
(やるしかない!)
オリベは気をひきしめなおすと瞑想に没入した。
12
午前中の特訓をおえても、目に見える進展はなかった。高レベル魔導師の資質があると云っても、数日で開眼できるほど世の中は甘くない。
地下訓練場に併設された休憩室で昼食をとっていると、3人の頭の中にヴホシャのテレパシーがひびいた。
『大変です! エシムギゴルドスがアギハベラミドへ向かっています! レベル20~40のドラゴンたちも追いたてられるようにアギハベラミドへ向かっていて、オルムテサミドへ避難している一行がドラゴンと戦闘状態に入ったそうです!』
「うぬう、こんなにはやくきやるとは!」
「おじいさま、どうなされます?」
「オリベどのはまだ実戦投入できるレベルではない。儂らとしては、ここで手をこまねいて見ているよりほかな……」
「シーグルスさま、行かせてください!」
オリベの言葉にシーグルスが頭をふった。
「オリベどのの気もちはわかるが、ダメじゃ」
「方法はあります」
「なんじゃと?」
「ミクリアの点火があれば、連続攻撃はムリでも断続的な攻撃をたたきこむことはできます。それにおれたちはひとりじゃない。『深紫の百足団』やほかのみんなと連携すれば勝算は充分にあります」
「たしかに。じゃが断続的と云っても、おぬしの限界がいつくるのかもわからんぞ?」




