第4章 おだやかな世界〈17〉
魔法でいきなりオリベの開けたドアが荒々しく閉まり、オリベはドアに突き飛ばされて自分の部屋へとうしろ向きに転がった。
「痛ててて……」
オリベがぶつけた頭をさすりながら上体を起こすと、オリベとミクリアの部屋をむすぶドアがしずかに開いた。
両腕を組み、憤怒の形相で宙にうかぶひざから下のないミクリアがオリベを睥睨した
。
「……あれほどの特訓のあとだと云うのに、大胆にも乙女の着がえをのぞくなんて、まだまだ元気があまっているようね、オリベくん」
「ちがう、誤解だ、ミクリア! おれはとなりがきみの部屋だなんて知らなかった……」
そう弁明しながらオリベが不自然に顔をそむけた。
室内がうす冥いためしっかりと見えたわけではないが、オリベの位置からは宙にうかぶミクリアの部屋着の中が下から丸見えとなる。
おくればせながらオリベの挙動に気づいたミクリアがあわてて両手で部屋着の前をおさえてさけんだ。
「バ、バカ、エッチ、変態!」
「な、なにも見てない、見えてないって!」
『ふたりともなに遊んでるの? はやく下りてこないとせっかくのシチュー冷めちゃうわよ?』
ヴホシャがテレパシーでミクリアとオリベに声をかけた。
『わかりました』
『今いきます』
オリベはヴホシャのテレパシーで修羅場の気を殺がれた隙をのがさず話のベクトルをかえた。
「ミクリア、きみの足って一体……?」
まだ耳の赤いミクリアが嘆息するとオリベの問いにこたえた。
「私は生まれつき両足がないの。〈夢顕師〉や〈視想師〉のほとんどが障碍をもって生まれてくる。お母さまも左二の腕から先がない」
オリベがよろいだと思っていたものはふたりの義足と義手であった。
「……もっとも、私たちは魔法で自分の身体やあらゆるものを自在に動かせるから、本当は義手も義足も必要ないんだけど、カタチのあった方が消費するMPもすくなくて済むし、よりこまかい制御がしやすくなるの」
「杖をつかわなくても魔法はつかえるのか?」
「この程度の魔法なら。……ほら、さっさと立ちなさい。下へいくわよ」
「……?」
オリベがすなおにミクリアの指示にしたがうと、宙にういたミクリアがうしろからオリベの両肩へ手をかけた。
「さあ、いって。〈イス〉や義足のない時はこうやってだれかにつかまっている方が楽なの」
「わかっ……」
オリベがうなづきかけたその時、ふたりの身体から一瞬大きな気がわき上がって消えた。うきたったミクリアの長い金髪がふわりと肩へおちる。
「……ミクリア、今のはなんのマネだ?」
着がえをのぞいたオリベにたいするイタズラだと思ったオリベがミクリアにたずねると、
「わ、私はなにもしてない! ……まったく、一体なんだったのかしら?」
ミクリアも頭をふった。ふたりは狐につままれたような気分で首をかしげながら階下へ下りた。




