第4章 おだやかな世界〈14〉
「レベル50以上の『深紫の百足団』とレベル40以上のブレトリク渓谷組がそろえば、レベル73の凍壊竜エシムギゴルドスを倒せる可能性はある。しかし、ブレトリク渓谷組が間にあわねば、凍壊竜エシムギゴルドスを一時しりぞかせることはできても、多くのパーティーが犠牲となるじゃろう」
「そんな……、ほかに打つ手はないんですか!?」
シーグルスがオリベをゆっくりと指さしてふかい声で告げた。
「あるとすれば、おぬしじゃ、オリベどの。おぬしがさいごの切り札となるやもしれぬ」
7
「おれがさいごの切り札……?」
「どう云うことですか、おじいさま!?」
オリベだけではなくミクリアも戸惑っていた。
「おぬしには天空城塞都市パセムで魔導剣鬼となるための特訓をうけてもらう。〈覚醒〉したおぬしが魔導剣鬼となれば、短期間でもレベル70前後、あるいはそれ以上の魔装剣将までレベルアップできるはずじゃ」
「魔導剣鬼? レベル70以上の魔装剣将?」
聞きなれない名称と非現実的なレベルアップの数字になおも困惑するオリベとは裏腹にミクリアが得心した。
「戦鬼がそれぞれの特殊攻撃(必殺技)をはなつ時に用いるのも魔法力(MP)だけど、戦鬼のMP上限値は同レベル魔導師の1/5もない。オリベくんの魔導師特性が開眼すればMP上限値は戦鬼の時より数倍跳ね上がる」
ミクリアの言葉にシーグルスもうなづいた。
「戦鬼の魔法は特殊攻撃時に限定されておるが、本質的に魔法のつかい方を知っておるわけじゃから……」
「ようするに、コツさえつかめば一気に魔導剣鬼としてレベルアップできるってわけですね!」
シーグルスの云わんとするところを察したオリベが右拳で左手のひらをパンとたたいて力強く云った。
「オリベどの。現実を知ったおぬしに、これからも戦鬼としてドラゴンと戦う覚悟はあるか?」
「……正直、こわくなることがあるかもしれません。でも、命を賭けておれたちを守ってくれたシンキのためにも、おれは……おれの仲間を守りたいです」
シーグルスはオリベの決然とした口調にたしかな覚悟を見た。
オリベは自分のためでなく、仲間を守るために戦う覚悟を決めた。それが真の勇者たる証しであることをシーグルスは知っていた。
「ここ天空城塞都市パセムにも特別な地下訓練場がある。〈覚醒〉したおぬしには、いわゆるプレイ時間の上限がないとは云え、事態は切迫しておる。さっそく特訓をはじめよう」
「わかりました」
「オリベくん、がんばって。おじいさまも決してムリはなさらないで」
ミクリアが席を立つふたりに励ましの言葉をかけると、シーグルスがこともなげに云った。
「なにを云うとる。そなたも一緒に決まっておるじゃろうが、ミクリア」
「……はい?」
「そなたは魔導師としてオリベどののバックアップにまわるのじゃ。目下、オリベどのには攻撃魔法しか教える時間がない。レベル68の法橋魔導師が治癒回復および防御にあたるのは当然じゃろう?」
(レベル68ってマジか!?)
オリベがミクリアのレベルの高さに内心おどろいた。法橋魔導師とか〈守護天使〉とか云われても、いまいちピンときていなかったのだ。




