第4章 おだやかな世界〈9〉
「ミクリア、おれたちはどこへ向かっているんだ?」
「すぐにつくわ。……初めてのふたり乗りでバランス制御がむずかしいの。ちょっとだまってて」
ミクリアがにべもない返事でオリベの疑問をつっぱねた。この高度から墜落されてもたまらないので、オリベも口をつぐむしかなかった。
(しかし、ミクリアってなんなんだ? 本当に味方なのか?)
魔導師用の浮遊イスと云う乗り物も初見だが、ミクリアのいでたちも少々風変わりだった。
彼女が身にまとっていたのは頭からかぶるタイプの簡素なミニのワンピースだった。
胸の下をリボンでしばっているあたりはオシャレなのかもしれないが、部屋着あるいは寝巻にしか見えない。
そのくせ、ひざ上から爪先までは白銀色にみがき上げられた雷電竜のウロコで優美によろわれていた。足の装甲を留めているガーターベルトがちらりとのぞく太ももにかいま見える。
実用なら上半身にも甲冑を装備すべきだが、そうしていないと云うことは彼女独特の美的感覚にもとづくファッションなのかもしれない。
(うちのパーティーの女子たちが見たらなんて云うかな?)
オリベは脳裏にうかんだ自分の思いに苦笑した。オフィーリアは常識的だが、ニャンニャンコスプレのヨッシーも充分に個性的で参考にはならない。
「ついたわ」
なにもない平野の宙空でミクリアがそう告げると、ふたたび〈イス〉が垂直に上昇しはじめた。オリベが頭上をあおぎ見ると、なにもなかったはずの天空を巨大な影がおおっていた。
(なんだ、これは!?)
ふたりを乗せた〈イス〉が黒い影へ激突しそうに見えたオリベは思わず首をすくめたが、ふたりを乗せた〈イス〉は淡い光につつまれながら人工的な円形のトンネルを上昇した。
垂直のトンネルをぬけると、ほんのりとあかるくひろい空間へでた。屋内だが天井が高く、ぐるりはいくつもの部屋に仕切られている。オリベはミクリアの〈イス〉から下りてぐるりを見わたした。城塞都市でも似たようなところを見た記憶がある。
「ここは……倉庫?」
「ご明察。ここは地上からはこび入れた荷物を整理して保管する倉庫も兼ねているの」
ひとりごちるオリベにミクリアがこたえた。
「あなたの腰の小袋に入った〈リョウカード〉……円形のカードをだしてもらえる?」
云われてみれば、オリベの腰にはふだん気にしたこともない小袋があり、それを指でまさぐると円形のカードと六角形のカードが1枚ずつ入っていた。先刻、かれが倒したカイマンドラゴンへ無意識にかざしたカードである。
「……これは?」
オリベは壁際へ移動するミクリアの〈イス〉と歩調をあわせながら〈リョウカード〉なるものを手わたした。
上下開閉式の大きな木の扉で仕切られた各倉庫の右わきには、さまざまな動物の頭部彫刻がほどこされており、例外なくその額には円形の石板が乗っていた。
ミクリアが牛の頭部彫刻の額の石板へオリベの〈リョウカード〉をかざすと、オリベのメモリングから入金のアラームが鳴った。
つぎにミクリアが自分の手を石板にかざすと手の甲に小さな魔法陣が展開し、彼女のメモリングからも小さな入金のアラームが鳴った。自身のメモリングをタップしたミクリアが小さく肩をすくめて嘆息した。
「カイマンドラゴン5匹って結構な猟果だと思ったけど、たいしたことないのね。焼け焦げた皮は0ギル、焼けた肉も加工肉あつかいでたったの150ギル。まともに値がついたのは竜眼と龍玉だけなんて」
「ちょっと待て、ミクリア。ひょっとして、きみはドラゴン狩りの経験ないのか?」
「な、なに云ってんの!? ……こ、攻撃魔法の実習くらいうけたことあります!」
心なしほほを赤らめて反駁するミクリアの言葉を要約すると、ドラゴン狩りは初体験だったらしい。オリベからあずかった〈リョウカード〉をかえしながら、ミクリアがオリベの顔も見ずに説明した。




