第1章 ドラグーン・ゲヘナ〈5〉
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織原織部は『ドラグーン・ゲヘナ』へログインし、魔装剣鬼オリベとしてオルムテサミドの宿屋『一本足蛙亭』で目覚めた。
1階のロビーへ下りると、フロントにたたずむ年老いた宿屋の亭主が柔和な笑顔でお決まりの挨拶をかけた。
「おはようございます、オリベさま。今日も狩りの女神ニムンヘグレスさまのご加護がありますように」
「ありがとう」
すでに1階のロビーで待っていた神装槍鬼シンキと魔装銃妃オフィーリアがふたりの会話に気づくと、オリベにむかって小さく手を上げた。
シンキの兜と甲冑が新調されていた。白銀のにぶいかがやきは昨日倒した雷電竜ライカギゲルスのウロコと牙でつくられたものだ。
「オリベ見ろよ。カッコイイだろ?」
「また一段とゴツくなったね」
「錬金術系と毒系の攻撃にはあんまり強くないけど、それ以外はかなりイケるぜ」
テーブルにひじをついて指先を宙にさまよわせていたオフィーリアの服装と装備がかすかに光ると変化した。
オリベやシンキには見えないが〈メモリング〉のコマンド画面を表示して武装のカスタマイズをしていたらしい。
「私も強化完了。どう? キレイでしょう?」
雷電竜のウロコが埋めこまれ、中央にハート紋様の彫りこまれた額あてをしめなおすとオフィーリアが席を立ってくるりとまわった。
しなやかな細身の身体へ吸いつくような白銀の鎧が妙になまめかしかった。身を守る装備だと云うのに二の腕、腹部、ふとももが露出している。
こまかくカットした雷電竜のウロコでつむぎ上げられたミニスカート状の前垂れもなまめかしさを際立たせていた。
「それちょっと無防備すぎないか?」
アバター相手に興奮をかくしきれないシンキにオフィーリアがすげなくこたえた。
「露出している部分も魔法でコーティングされてるんだって」
「……ミニスカートの中も魔法でコーティングされてるの?」
おくれて2階から下りてきた魔導師ムードラがクスクス笑いながらたずねた。
「なっ!? ……もう! この下ネタ王子!」
「お待たせ。オリベ、はやかったね」
オリベと一緒に下校して麒麟寮へ帰ってきた沖田宗巌こと魔導師ムードラがオフィーリアの罵詈をさらりとうけながし、グルガンドルフ・ロッドを小さくかかげてみんなへ挨拶した。
「さっさといくよ!」
ムードラのセクハラ発言にまだほほの赤いオフィーリアが拗ねた瞳で席を立った。いつのまにか赤黒いマントをはおり、背中から魔装美麗剣銃の銃把がのぞく。オリベとシンキも笑いながら席を立つと、
「……オフィーリアが冷たい」
トホホと小さく肩をすくめたムードラも3人のあとへつづいて宿をでた。
城塞都市オルムテサミドはうららかな陽気につつまれていた。中世ヨーロッパを彷彿とさせる木と石と漆喰とレンガでできた街なみはどこかなつかしくおちつく心地がする。
子どもたちが歓声をあげながら石畳の道をかけていった。その光景をオフィーリアがほほ笑みで見おくる。頭の片隅でプログラムだとわかっていても心がなごむ。
「あ、そうだ! ぼく昨日の竜眼と竜玉を城営工房でお金に換えてくるから、みんなは先にいっててくれない?」