第3章 トルナクロイブ神殿〈13〉
〈メダリング〉でドラゴン・データを照会したムードラが絶望的なさけびを上げた。
「……凍壊竜エシムギゴルドス、レベル73!? こんなのリャンメンスクナと同時に相手できるわけない!」
『ミランダさん、アフマルドへつたえて! 今すぐそこから逃げて! ここのラスボスはレベル73! この状況下じゃ勝ち目はありません!』
法印魔導師エスメラルダがアフマルドのパーティーにいる魔導師ミランダへテレパシーをおくったが、かえってきたのはミランダの泣き言だった。
『おお! エスメラルダさまがおったか。エスメラルダさま、今の話とわらわの潔白をアフマルドさまの魔導師へつたえてくだされ!』
『……はい?』
ミランダのテレパシーにエスメラルダが首をかしげた。
先刻、エスメラルダたちのいる地下空間から離脱した『血まみれの犬団〈ブラッドステインドッグス〉』の魔装銃鬼ハンプティは爆弾で通路を爆破してアフマルドのパーティーを足どめする計画だったらしい。
しかし、ハンプティのあとを追った『紅蓮の傭兵団』の魔装剣鬼イスカリオテがハンプティを殺害し『血まみれの犬団〈ブラッドステインドッグス〉』の陰謀を未然に防ぐことができた。
……ところまではよかったのだが、アフマルドのパーティーへ合流したイスカリオテが思いだしてしまったのだ。魔導師ミランダもハンプティたちとおなじ『憂蒼の薔薇』のメンバーだったことを。
その上、各パーティーの魔導師の数をそろえるため、自らアフマルドのパーティーへ加わった親切心が仇となって、ことさらスパイの嫌疑をかけられていた。
アフマルドのパーティーへまぎれこんだ盗賊団のスパイはミランダ以外のだれかであるはずなのだが、この状況でパーティーを解除して正体を露見してもプラス要素はまるでない。本物のスパイはだんまりを決めこんでいた。
『こちら魔導師ムードラ。アフマルドさんとこの魔導師、聞こえますか?』
エスメラルダとミランダのテレパシーを聞いた魔導師ムードラがあわててテレパシーをおくる。
『こちら魔導師スパウーザ。どうしました?』
『ミランダさんは敵のスパイじゃありません。敵がパーティーを偽装するための数あわせにスカウトされただけです。マヌケだけど悪い人ではありません』
『だれがマヌケじゃ!』
『それより今すぐ地上へ逃げて! レベル73のドラゴンです!』
『レベル73!? わかりました。それでみなさんは!?』
ムードラとサウーザのテレパシーをキャッチしたエスメラルダがさけんだ。
『別の出口があるようなので、そちらへ向かいます!』
『わかりました。ご武運を!』
魔導師たちがあわてて連絡をとりあっている間にも、凍壊竜エシムギゴルドスは不機嫌そうなうなり声をひびかせながら地下空間へ上陸した。それとともにリャンメンスクナの4つの瞳に光がやどる。
「最悪や!」
魔装銃将シェナンパが悪態をついた。
天井の崩落した神殿にいるシェナンパたちは即座に脱出できるが、魔導師たちとシンキは広大な地下空間の際にとりのこされていた。かれらが神殿へ向かうためには凍壊竜エシムギゴルドスの眼前を横切らねばならない。
「オフィーリア!」
すこしはなれたところへかたまる剣鬼・槍鬼組のオリベが銃鬼組のオフィーリアへ声をかけた。オフィーリアはオリベへうなづきかえすとシェナンパへ云った。
「私たちがエスメラルダさんの援護へ向かいます。許可を!」
「わいもいく! ほかのやつらは撤退や! 神殿の奥へ急げ!」
シェナンパの号令に戦鬼たちが動いた。その動きに呼応するかのようにリャンメンスクナが円月刀をもつ4本の腕をふり上げたのだが、リャンメンスクナは凍壊竜エシムギゴルドスの動きを認識していなかった。
「キハアアアアアアッ!」
凍壊竜エシムギゴルドスが甲高い声でさけぶとリャンメンスクナの巨体が凍り、ドンッ! と云う地ひびきとともに細々にくだけちった。
「すげえ……!」
「これがレベル73の力かよ!?」
スラエタオナのパーティーと『血まみれの犬団〈ブラッドステインドッグス〉』シェナンパのパーティーをもってしても手こずっていた相手が秒殺された。




