第3章 トルナクロイブ神殿〈12〉
「あかん! みんな防御や!」
シェナンパのさけびを待つまでもなく、敵味方が戦いをほうりだして防御体勢をとった。
スラエタオナのパーティーと『血まみれの犬団〈ブラッドステインドッグス〉』はすでに上の階でリャンメンスクナのこの体勢を何度か目にしている。
「キャハーッ! キャハーッ! キャハーッ!」
ドンッ! ドンッ! ドンッ! と地面がはげしく波打ち、全員のLPが半減した。
エスメラルダの回復魔法を浴びていたウラエイモス樹海調査団のパーティーはリャンメンスクナのはげしい重力波攻撃に耐えることもできたが、LP回復の充分でなかった『血まみれの犬団〈ブラッドステインドッグス〉』の賊鬼たちがバタバタと倒れた。
リャンメンスクナの攻撃で、その場にいたすべての戦鬼・賊鬼が虚脱感をおぼえて呆然とした。
ダンプティと戦っていたシンキはその隙を見逃さず、渾身の力で神式突刹徽槍を突きだした。
「うおおおおっ、クリムトリス・バグスト!」
「チッ、しまっ……ぐはっ!」
シンキの神式突刹徽槍がダンプティの身体を甲冑の上からふかぶかと刺しつらぬいた。ダンプティは大量に吐血しLPをすべてうしなった。
「……もっぺんイチからやりなおすんだな」
シンキが神式突刹徽槍をダンプティの身体からひきぬくと、ダンプティが無言でくずれおちた。
「やったね。シンキ」
「おみごとです」
「この世に悪のさかえたためしはないのら!」
法印魔導師エスメラルダを守りながら壁際へ待避していた魔導師ムードラと魔導師ブプルノホテプ、護衛のヨッシーがシンキをたたえると、神式突刹徽槍を肩にかついだシンキが無言で胸を張った。
5
「スラエタオナ! デカブツはわいらへまかせて盗賊団をやっちまえ!」
リャンメンスクナの攻撃からわれにかえったシェナンパの言葉に、生きのこった『血まみれの犬団〈ブラッドステインドッグス〉』の賊鬼たちがわれ先にと神殿奥の扉へかけだした。
「すまん! そっちはまかせた! みんなひとりも逃がすな!」
シェナンパとスラエタオナの会話に戦鬼たちも反応し、スラエタオナのパーティーが敗走する『血まみれの犬団〈ブラッドステインドッグス〉』を追い、オリベたちシェナンパのパーティーは、かれらの背を守るべくリャンメンスクナへ向きなおる。
全開攻撃でMPをつかい切った二面四臂の巨人族リャンメンスクナもピタリと動きをとめていた。
「剣鬼は足、槍鬼は頭上の防御、わいらは頭部へ集中砲火や! デカブツが再起するまでになるたけLPけずったり! エスメラルダたちもこっちへ合流しい!」
「おうっ!」
シェナンパの号令にパーティーの戦鬼たちが呼応した刹那、ふたたび地の底から微細なゆれがわき上がってきた。
「なんだ!? 地震か!?」
リャンメンスクナの4つの瞳はかがやきをうしなったままだ。つまり、いまだ再起していない。戦鬼たちがいぶかしんでいると、今度は地底湖の湖面がビリビリと波打ちはじめた。
「まさか、このタイミングで……!?」
戦鬼たちの脳裏をよぎる最悪の災厄が地底湖の奥底からゆっくりとうかびあ上がってきた。
飛光石に茫洋と照らしだされたのは額にイッカクのような長い角をもつ金色の巨大なドラゴンの頭部だった。
前足は有翼竜さながらの大きな皮膜で、肩甲骨あたりからレースのようなひだのついた2本の長いひげ状のものが生えていた。
地底湖から上体をあらわにしたドラゴンの巨躯はレベル45の氷結竜アガイミコルドスを凌駕していた。オリベたちの遭遇したレベル52の雷電竜ライカギゲルスよりも大きい。




