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第3章 トルナクロイブ神殿〈10〉

挿絵(By みてみん)


「あちらには祭壇(さいだん)があります」


 地底湖の正面、すなわちパーティーの右手奥に屋根つきの神殿がそびえていた。


「……リャンメンスクナの大広間はあの真上あたりなのかな?」


 オリベがそうひとりごちた瞬間、神殿の天井が大爆発した。


 轟音とともに天井が崩落した。闇の中へひびく戦鬼(プレイヤー)たちの悲鳴とはげしく舞い上がる土煙が飛光石(フライト)の光をかすませる。


「……!?」


 エスメラルダとシェナンパのパーティーが崩落した神殿へ飛光石(フライト)を集めると、天井の穴のはしから幾筋ものロープが投げ下ろされた。


 天井とともに落下してダメージを負ったスラエタオナのパーティーへ向かって『血まみれの犬団〈ブラッドステインドッグス〉』の賊鬼たちがロープ渡下する。


「あかん! 仲間を助けな!」


 魔装銃将シェナンパが神殿へかけだそうとしたところへ、天井からおちてきた巨大なかげがムクリと上体を起こして哄笑(こうしょう)した。闇の中で頭部前後についている4つの目が緑色に光る。


「キャハーーッ!」


「……リャンメンスクナ!」


 二面四臂(よんぴ)の巨人族リャンメンスクナが円月刀を手にした4本の腕をふり上げた。戦鬼(プレイヤー)とみればデタラメに攻撃する危険極まりないトルナクロイブ神殿のラスボスである。


「銃鬼はわいにつづけ! デカブツへ攻撃や! 剣鬼・槍鬼(そうき)は仲間の救出と盗賊団の掃討(そうとう)、魔導師とその警護はバックアップたのんま!」


 二丁の魔装美麗短剣銃(シェヘラザード・ガンナイフ)をリャンメンスクナへぷっぱなしながらシェナンパが一直線にかけだした。銃妃(じゅうひ)オフィーリアたちもシェナンパのあとへつづき、マルコロメオたち剣鬼・槍鬼(そうき)も壁ぎわにそって神殿へかけだす。


『エスメラルダです! こちらへ合流してください! 盗賊団もリャンメンスクナも地下です!』


 法印魔導師エスメラルダがアフマルドのパーティーの魔導師ミランダへテレパシーでSOSをおくると、乳白色にかがやく竜玉の()めこまれたクロイヴェルド・ロッドをかざしてさけんだ。


「ボルボルキガント!」


 クロイヴェルド・ロッドからひろがる光が、この場にいるパーティー全員のLPを回復させた。


 ふつうの魔導師ならひとりずつLP回復の魔法をかけねばならない。法印魔導師ならでの力業(ちからわざ)である。


 天井からおちてきたスラエタオナのパーティーが全回復した。リャンメンスクナを警戒しつつ盗賊団への反撃を開始する。


 MPを消耗した法印魔導師エスメラルダをかばって魔導師ムードラと魔導師ブプルノホテプ、護衛のヨッシーが壁づたいに地底湖ぎりぎりまで後退した。


 唐突にパーティー・メンバーの〈メダリング〉が小さく鳴った。だれかがパーティー解除したアラーム音だ。


 戦場と化した神殿へかけだしたシェナンパたちがふりかえると、魔装銃鬼のハンプティとダンプティがかれらの背中へ発砲した。


 しんがりの戦鬼(プレイヤー)たちがハンプティとダンプティの攻撃をかろうじて防ぐ。ダンプティが口元に下卑(げび)た笑いをうかべて云った。


「だから云ったろ、オリベに草壁。アホさらしていばるなって」


「オリベに草壁って、まさかあんた……!?」


 オフィーリアの〈リアル名〉を口にしたダンプティの口調に『名無しのパーティー』すなわち、成城寺学園1年C組の戦鬼(プレイヤー)たちは彼の正体に気づいた。


 おなじクラスの長宗我部勝家だ。おそらくハンプティも彼のとりまきである瀬崎か行川だ。オリベがそばにいた魔装槍鬼(そうき)マハカンドラをにらみつけた。彼もハンプティたちとおなじ『憂蒼(プルシアンブルー・)薔薇(ローズ)』のメンバーだ。

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