第3章 トルナクロイブ神殿〈9〉
『第3パーティーが被害をうけたトラップは第2パーティーの内通者によるものです。爆発物などの直接攻撃でなければ、おなじパーティーを殺傷できるとわかった今、そのことをかくしておくほうが危険と判断しました』
『なるほど。たしかにのう』
『そしてこれは第4・5パーティーにいるかもしれない盗賊団への牽制です。おたがいがおたがいを監視しあうことで被害を最小限度にとどめるしかありません』
『あいわかった』
ミランダが了承したことでエスメラルダの警告はアフマルドひきいる第4・5パーティーへつたえられた。
疑心暗鬼の百鬼夜行と化した第2・4・5パーティーとは別の緊張がエスメラルダとシェナンパの第1・3パーティーにはある。
おそらく、この先にあるのは氷結竜アガイミコルドスの巣だ。『ウラエイモス樹海調査団』クエストのラストイベントがひかえているとみてよい。100人のパーティーでもかんたんに攻略できるイベントではないはずだ。
しかし、エスメラルダとシェナンパのひきいる第1・3パーティーは犠牲者がでたこともあり19人しかいない。
全体の1/5を下まわる手勢でラストイベントを攻略できるとも思えない。ラストイベントの存在をぎりぎりで見極めて待避し、攻略法を練る必要があると云うことだ。
穴の先は冥い石段が一直線に地下へとつづいていた。エスメラルダとシェナンパのパーティーが慎重に歩を進めていると、右側の壁面から微細な振動がつたわってきた。
『ミランダじゃ。ラスボスの部屋の扉はロックされておる。中で盗賊団とスラエタオナのパーティーがリャンメンスクナとみつどもえの戦いをくりひろげているようで、こちらからは手がだせぬ』
アフマルドのパーティーから法印魔導師エスメラルダへテレパシーによる現状報告があった。先ほどの振動はかれらの戦闘によるものだ。
『了解です。こちらは地下ふかく下りています。地下に広大な空間があるようです。ついたら連絡いたします』
『あいわかった』
「わざわざ、ラスボス・リャンメンスクナの大広間へスラエタオナのパーティーをひきこんで盗賊団に勝算あるんかいな?」
「壁づたいにならぶ柱のかげはちょっとしたセーフゾーンですからね。そこへ陣どってスラエタオナのパーティーを部屋の中心へ集めてリャンメンスクナに襲わせると云った作戦でしょうか?」
地下神殿の大きな部屋のぐるりには大きな柱がならんでおり、せまい回廊のような隙間のできていることがほとんどだ。
絶対安全とは云えないが、そこへ身をかくして一時的に攻撃を避けたりすることはできる。
「ほんならリャンメンスクナの攻撃をかわしながら、すみっこの陣とり合戦しとるっちゅうわけやね。それでも盗賊団に勝算があるとは思えへんけど……」
エスメラルダの言葉にシェナンパが首をかしげた。お世辞にもスマートな作戦とは云いがたい。
「出口らしきものが見えます!」
飛光石で周囲を照らしながら先頭を歩くマルコロメオの言葉に全員がすこし緊張した。
石段の先はいきどまりで右側に四角く切りとられた出口がある。エスメラルダとシェナンパのパーティーを待っていたのは飛光石では照らし切れないほど黒々とした広大な空間だった。
「ヘタにこっちのラスボス起こしたくないから、あんま前へでるなや。壁ぎわにひろがれひろがれ」
シェナンパの言葉をうけて、パーティーの戦鬼たちが壁ぎわに横へ横へとひろがっていく。
「なんだ、ここは……?」
「地底湖……?」
全員が飛光石をおちこちへ飛ばすと、飛光石の光が左手奥の水面に反射した。天然の広大な地下空間に、
「も~、コードラでてくる気満々やん」
シェナンパのため息まじりのつぶやきに戦鬼たちも微苦笑した。




