第3章 トルナクロイブ神殿〈8〉
「エスメラルダさん!」
前衛をかためるシンキとゲオルギウスの間をぬって、第1パーティーの前へムードラがあらわれた。
「ごめんなさい、みなさん。私がトラップを見ぬけていたら犠牲者はでなかったはずなのに」
エスメラルダが第3パーティーへしおらしく頭を下げた。仲間をうしなった『ハッピーホッピー』のふたりが小さくうなだれた。
「……エスメラルダさんのせいじゃありません。ぼくら全員のミスです。それよりぼくらはなにをすればいいんですか?」
「私たちがこの奥の通路を調べてくるので、階段と第2パーティーが向かった通路を警戒していてほしいの」
「わかりました」
「この奥はガレキでいきどまりになってるはずやから、すぐに第2パーティーを追うことになるわ。ま、きばらんと楽にしとき」
エスメラルダのうしろからシェナンパがムードラたちへ声をかけると、二丁の魔装美麗短剣銃を両手に第1パーティーのわきを走りだした。
「シェナンパさん、勝手しないでください!」
第1パーティーへ配属された『紅蓮の傭兵団』リーダーの魔装剣鬼イスカリオテがとがめると、シェナンパが口をとがらせて拗ねた。
「も~、イスカリオテはおカタイねん。わい強いからええやん」
「強いからちゃんと連携してほしいんです。盗賊団はともかくコードラの群れと遭遇したら、ぼくたちだけでエスメラルダさんをお守りする自信はありません。パーティーの要としてどっしりかまえていてください。斥候はぼくがでます」
イスカリオテのとなりに立つマルコロメオが云った。
「おねがいします」
エスメラルダがシェナンパの反論を待たずに首肯した。
「わいかて活躍したいのに~」
「……なんだか楽しそうなパーティーね」
第1パーティーのやりとりを端で見ていたオフィーリアが小声で微苦笑した。
通路奥から角をのぞきこんだイスカリオテが飛光石をフラッシュさせたが、盗賊団がひそんでいるようすはなかった。イスカリオテの手まねきに第1パーティーが動きだすと、通路の角を曲がったところで息を呑む気配がした。
「なんやこれ? 道の先あるやん!」
通路をふさいでいたはずのガレキが地震で崩れ、その先へいけるようになっていた。黒々とした大きな口がぶきみに開いている。
「どないする、エスメラルダ? 一旦向こうのパーティーと合流しよか?」
「……いいえ。二手に分かれて進むしかないと思います」
この奥に盗賊団がひそんでいて、後方から右手通路を進むパーティーを奇襲する可能性は低い。しかし、ドラゴンのでてくる可能性がある。
「やはり盗賊団とスラエタオナのパーティーは右の通路をいったと見るのが妥当でしょう。アフマルドの第4・5パーティーに第2パーティーを追ってもらい、こちらは私たちと第3パーティーで調査しましょう」
「……そやな」
コードラよりも卑劣な盗賊団『血まみれの犬団〈ブラッドステインドッグス〉』を血祭りに上げたかったシェナンパが不承不承同意した。
『全パーティーへ通達します。以前いきどまりだった左の道のガレキが崩れて奥へ道がのびていました。第1パーティーと第3パーティーでそちらの調査をします。第3パーティーは私たちにつづいてください。第4・5パーティーは階段を下りて右手の道を進み、第2パーティーについてください。おそらく盗賊団とスラエタオナのパーティーはそちらへ向かっています』
そしてエスメラルダは第4・5パーティーの魔導師へだけ云いそえた。
『第2パーティーにはまちがいなく盗賊団の内通者がいます。あなた方のパーティーにも内通者がいないとはかぎりません。充分に警戒するようつたえてください』
『……それは過激な発言よな。はたして、つたえてよいものかどうか?』
アフマルドの第4パーティーに加わった魔導師ミランダが逡巡した。パーティー内に疑心暗鬼が生じれば行動に支障をきたすと考えたからだ。




