第3章 トルナクロイブ神殿〈7〉
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第1パーティーが通路の突きあたりにある地下へとつづく階段を下りると、そこから通路が左右二手に分かれていた。
かつてトルナクロイブ神殿を探検したエスメラルダとシェナンパの記憶によると、左手の道の突きあたりを右へ曲がると、その先は崩れていていきどまり。右手の道を突きあたり左へ曲がると神殿の深奥へつづいている。
そこでトルナクロイブ神殿の守護者、いわばボスキャラ二面四臂の巨人族リャンメンスクナとのバトルがくりひろげられる。
エスメラルダがクロイヴェルド・ロッドをかざして周囲を昼間のように煌々(こうこう)と照らしだすと、左手の道の奥にスラエタオナのパーティーと思しき剣鬼の死体が転がっていた。
「左へいったんか?」
シェナンパのつぶやきに『紅蓮の傭兵団』の魔装剣鬼マルコロメオがこたえた。
「よく見てください。身体の下にひきずられた血の跡があります。左へ誘いこむための偽装工作かもしれません」
「あ、ほんまや。……せやったら第2パーティーもよんで左右同時に探索しよか?」
エスメラルダが左へのびる通路へ視線を移して云った。
「そちらの奥はいきどまりだったはずです。私たちが左手の警護をかためながら、第2パーティーを右手の探索へまわす。第3パーティーをここ中央の警護にあたらせた上で、私たちが左を探索すると云うのはどうでしょう?」
「賢明だと思います」
マルコロメオがエスメラルダの瞳を意味ありげにのぞきこんで頭をたれた。
マルコロメオとエスメラルダはムードラ同様、第3パーティーの巻きこまれた爆発トラップが第2パーティーに潜む盗賊団のしわざと気づいていた。軽々(けいけい)に背中をあずけるわけにはいかない。
「なんやようわからんけど、それでええんちゃう?」
シェナンパの言葉にエスメラルダがうなづくと、全パーティーの魔導師に連絡した。
『第2パーティーは階段を下りて右手奥の通路を探索。第3パーティーも階段を下りてその場を警護。第3パーティーの到着と同時に第1パーティーが左手奥の通路を探索します。第4・5パーティーは間隔を維持しつつ階段前で待機』
『第2パーティー、階段を下ります』
『第3パーティー、了解しました』
『第4パーティー、了解』
『第5パーティー、了解です』
エスメラルダの脳裏に各パーティーから了解の返事がとどく。まもなく第2パーティーが階段を下りてきた。
「お~、みんな無事か?」
シェナンパが第2パーティーへ声をかけた。第2パーティーはもともとシェナンパのパーティーである。第2パーティーを率いる魔導師ミハイルが前にでてシェナンパへ目礼した。
「ミハイル、右手奥の通路を頼むわ。左右にいくつか部屋があるはずやけど、とりあえず通路で盗賊団が待ちかまえてないかだけ確認してくれたらええわ」
「部屋の確認はしなくていいんですか?」
「盗賊団の姿がなければ、すぐに後続の第4パーティーをおくります。あなた方のパーティーが通路前方を警戒し、第4パーティーに部屋のチェックをしてもらいましょう」
「わかりました。……それでは第2パーティー、移動開始!」
ミハイルが踵をかえすと、第2パーティーの斥候が通路の角をのぞきこみ、飛光石をチラつかせた。なんの反応もないことを確認すると、第2パーティーが右手通路奥の角を曲がって姿を消した。第3パーティーも階段を下りてきた。




