第3章 トルナクロイブ神殿〈6〉
パーティーの総力はかならずしも全員のレベル数だけで推し量れるものではないが、すくなくとも『ハッピーホッピー』の総レベル数は『憂蒼の薔薇』やムードラたちのパーティーにおとる。少数に後衛をたくすなら総レベル数の高いパーティーへたくすほうが合理的だ。
「前衛と後衛を入れかえよう。『ハッピーホッピー』と『憂蒼の薔薇』は後衛をたのむ。ただし、ダンプティは前衛左について」
「なんでおれが!?」
ムードラの決定にダンプティが声をあらげた。
「うちのパーティーの銃妃はオフィーリアひとりだから。それにきみがぼくらを盗賊団だと疑うのなら、ぼくらを監視しておくべきだろう?」
一理あるムードラの言葉にダンプティが押しだまる。
「さあ行こう、ブプルノホテプ。モタクサしてるひまはない。先発隊と間が開きすぎても、後続をつかえさせても困る」
ムードラがブプルノホテプをうながして隊列を組みなおさせた。一瞬、ムードラとオリベの視線が交差し、オリベが小さくうなづくと、ダンプティの背後に立った。
シンキとゲオルギウスを先頭にゆっくりと歩きだす。ダンプティを『憂蒼の薔薇』から切りはなして前衛にのこしたのは、ムードラたちが彼を監視するためだ。ある意味、人質でもある。
『憂蒼の薔薇』が盗賊団の内通者だった場合、全員がうしろから襲われる可能性も否定できない。そのためにはかれらが一斉にパーティー登録を削除しなくてはならないが、少数でも戦力は分断しておくにかぎる。
そして今のトラップで3人の犠牲者をだした『ハッピーホッピー』が盗賊団の内通者である可能性は低くなった。
当初、ムードラが予想していたように新参者のパトリシアが盗賊団の内通者であれば、トラップを回避することもできたはずだが、彼女は死んだ。
盗賊団が彼女を捨て駒として利用した可能性もないではないが、だとすれば第3パーティーから盗賊団の内通者はいなくなったことになる。
生きのこった『ハッピーホッピー』のふたり、あるいはどちらかが盗賊団の内通者である可能性も疑いだせばきりがないが、仲間の死に動揺し、悄然とするブプルノホテプとイコリカヤニの姿が演技であるようには思えなかった。
ムードラにはほかにも憂慮することがあった。すなわち、第2パーティーに盗賊団の内通者がひそんでいる公算が大きいと云うことだ。
壁面爆破のトラップが昨夜のうちに仕掛けられたとは考えにくい。時限式ではいいかげんすぎるし、魔法式の起爆装置だったとすれば、ねらうのはアフマルドやエスメラルダなど『深紫の百足団』オリジナルメンバーのいるパーティーであるべきだ。
しかし、おそらく壁面に仕掛けられた爆弾は時限式のものだ。ただし、仕掛けられたのは昨夜ではなく、ついさっきと云うことになる。
昨夜のうちに爆弾が仕掛けられたとすれば、いかに冥いとは云え、そこを通った第1パーティー・第2パーティーに気づかれぬはずがない。
先行するふたつのパーティーが異常を確認しなかったため、ムードラたち第3パーティーは油断した。第2パーティーにひそむ盗賊団の内通者が時限式爆弾を仕掛けたからこそ、後続の第3パーティーへなんとか被害をだすことができたのだ。
パーティー内での同士討ちはできない設定になっているが、対ドラゴン用のトラップ、あるいは地下迷宮で鍵のかかった扉を破壊するための爆発に巻きこまれるのは〈事故〉あつかいとなる。
場合によっては、自分自身の仕掛けた爆弾や地雷の爆発に巻きこまれてLPを削ることすらある。
直接的な攻撃でなければ、おなじパーティー内の仲間を殺傷することも可能であり、魔法式爆弾であれば、もっと多くの犠牲者をだすこともできたはずだ。
ただし、第2パーティーへひそむ盗賊団がこのトラップでEPをゲットすることはできない。あくまで『ウラエイモス樹海調査団』の戦力を殺ぐのがねらいだ。
(……第2パーティーで左翼を最後にわたった戦鬼が盗賊『血まみれの犬団〈ブラッドステインドッグス〉』の内通者か)
ムードラは歯噛みした。そこまで推理できても、第2パーティーへ確認をとることはできない。第2パーティーの魔導師が盗賊団の内通者である可能性も捨てきれないからだ。
(前後に逃げ場のないダンジョンで敵にはさまれているのかもしれないと思うとしんどいね)
前方の闇にチラチラとまたたく飛光石の光をいらだたしげに見つめながら、ムードラは思った。




