第3章 トルナクロイブ神殿〈5〉
「……壁の中に時限爆弾が埋めこまれている可能性はござらんか?」
第2パーティーが気づかなかったのであればその可能性もある。ゲオルギウスの指摘にオフィーリアが魔装美麗剣銃をかまえた。
「オリベ下がって。壁面を撃ってみるわ」
オフィーリアは魔装美麗剣銃で壁面を40cm間隔に上から撃ち下ろしていった。
「……へえ。やるじゃん」
おなじ銃鬼のハンプティとダンプティが小声で感嘆した。自動標準システムのつかえないこの状況下での正確な射撃はほぼマイスタークラスである。隅々まで撃ちつくしたオフィーリアが云った。
「右壁は大丈夫みたいね」
「おつかれちゃん」
ハンプティが心ない口先だけで労をねぎらうと右壁面をつたうほそい道をわたった。ダンプティとアルジャヒムもあとにつづく。
「ぼくたちもいこう」
ムードラが穴のふちへひざをつくブプルノホテプを立たせた。ゲオルギウスにささえられていたイコリカヤニがブプルノホテプへ近づいて頼りない声で云った。
「またあいつらとパーティー組んで、ガンガンレベルアップさせてやろうぜ」
「……うん」
ブプルノホテプが悄然としたようすで小さくうなづいた。
『第3パーティー、トラップをわたります。右の方は通れます』
魔導師ムードラが『憂蒼の薔薇』の面々がほそい道を無事わたりおえたことを確認して全パーティーの魔導師へ通達した。第3パーティーが全員わたりおえてもトラップの蓋は開いたまま閉まらなかった。
3
「なあ、前衛と後衛、入れかえようぜ」
『憂蒼の薔薇』のダンプティが提案した。
「そうだね。さっきのショックもあるだろうし、前衛に戦力を集めておいたほうがいいかも」
ムードラが同意すると、ダンプティがさぐるようにムードラたちのパーティーをねめつけた。
「ひょっとして、おまえら盗賊団とつるんでるんじゃねえだろうな?」
「ちょ……、なに云ってんのよ!」
「ひどい云いがかりなのら!」
オフィーリアとヨッシーがすぐに抗議した。
「あれあれ、図星ぃ? て云うか、おれたちもあぶねえ想いしたのに、おまえらだけピンピンしてるって怪しくねえ?」
「前衛後衛はリーダーのブプルノホテプが決めたんだ。ぼくじゃない。そうだよね、ブプルノホテプ?」
今にもダンプティへつかみかからんばかりの鼻息をもらすオフィーリアの前に身体を入れてムードラが冷静に云った。
「……まあ、たしかに」
「でもおかしくねえ? レベルで云えば、おまえらの『名無しのパーティー』の方が『ハッピーホッピー』よりレベル高いじゃん。ふつう自分たちから前衛買ってでるんじゃねえ?」
ダンプティの尻馬に乗ってハンプティも云った。
「バランスの問題だよ。前衛を入れかえるなら、きみらかぼくらかだったんだ。『ハッピーホッピー』だけに後衛をまかせるよりはいい」
「……おれたちじゃ力不足だって云いたいのかよ」
剣鬼イコリカヤニがうつむいて唇をふるわせた。
「決めたのはブプルノホテプだ。ぼくじゃない」
言外に、文句ならブプルノホテプへ云ってくれ、とムードラがイコリカヤニを冷徹に突きはなした。冷静さを欠く相手に理を説いても馬耳東風である。




