第3章 トルナクロイブ神殿〈4〉
後方では第4パーティーも神殿へ入ってきた。しばらくいくと、はるか前方でゴオン! と大きな音がひびいた。
『神殿のトラップです。床の中央がぬけました。私たちに被害はありません。壁の左右にしるしをほどこしておきますから、左右の壁にそってひとりずつ歩いてください』
全員の頭の中にエスメラルダの警告が聞こえた。第2パーティーのあかりが動きをとめると、ふたたびゴオン! と大きな音がひびいた。トラップへさしかかったらしい。光が二手に分かれて壁際を進んでいく。
次はオリベたち第3パーティーの番だった。壁の左右に下向きの矢印が光っていた。その手前に立つと、床が大きな音をたてて開いた。
『ハッピーホッピー』のだれかが飛光石で穴の中を照らすと、穴の底でふたりの賊鬼が串刺しになって絶命していた。スラエタオナのパーティーの犠牲者はいなかった。
「マヌケがおちたか」
『ハッピーホッピー』の魔装槍鬼バルテュスがしずかに侮蔑した。『ハッピーホッピー』と『憂蒼の薔薇』の槍鬼が二手に分かれて壁面にのびるほそい道をわたりだしたところへ、左壁面が閃光につつまれた。耳をつんざく爆発音にパーティーの悲鳴がまじる。
「ぐわあああ!」
「きゃあああ!」
「なんだ、どうした!?」
ブプルノホテプが動揺してさけんだ。闇の中にたちこめる白煙に飛光石の光がさえぎられ、前方のようすをうかがうことができない。
「みんな下がって! おちついて!」
ムードラがうしろを歩くオリベたちの動きを身体でさえぎると、全パーティーの魔導師へ連絡した。
『こちら第3パーティー! 床下のトラップを回避した瞬間、左壁面が爆発! 待機と警戒にあたってほしい!』
「むぅん!」
シンキが神式突刹徽槍を高速回転させながら突きだして白煙を吹き払った。
「みんな大丈夫!?」
闇の中で飛光石がまたたく。爆発のなかった右壁面の奥では、爆発にあわててほそい道をわたりきった『憂蒼の薔薇』の槍鬼マハカンドラが腰をぬかして座りこみ、手前でも銃鬼ハンプティとダンプティが頭をかかえてしゃがみこんでいた。
左の壁面はほそい道ごと爆発で大きくえぐられていた。道をわたる寸前、爆風にあおられて手前へ押しもどされた『ハッピーホッピー』の魔装剣鬼イコリカヤニも呆然とした面もちでなにかをだいたまま座りこんでいた。
自分がなにかをかかえていることに気づいたイコリカヤニが飛光石で手元を照らすと、目に飛びこんできたのは黒い髪だった。
ゴトリとそれがかしぐとイコリカヤニは悲鳴を上げた。彼がかかえていたのは爆発でちぎれ飛んだ銃妃パトリシアの首だった。
「うわああああああっ!」
恐怖にかられて反射的にはなったパトリシアの小さな頭が床下のトラップへ転がりおちた。
「ククルスドアン! バルテュス! パトリシア!」
床下の穴をのぞきこんだブプルノホテプがさけんだ。
「ちくしょう……ちくしょうっ!」
穴のふちにひざまずいたブプルノホテプが拳を床に打ちつけてくやしがった。
「……立てるでござるか?」
ゲオルギウスが手を貸して、まだ呆然としているイコリカヤニを立たせた。
「そっちは大丈夫か?」
右側の壁に立つ『憂蒼の薔薇』の面々にオリベが声をかけると、ダンプティがヘラヘラと笑った。
「……あぶねえ、あぶねえ。あっちわたったら死ぬとこだったぜ」
「こっちは大丈夫なのか?」
「調べてみる。3人とも下がって」
不安げな剣鬼アルジャヒムにオリベがこたえた。『憂蒼の薔薇』の3人がすなおにしたがう。オリベは飛光石で右壁面を照らして爆発物の痕跡をさがしてみたが、なにも見当たらなかった。




