第3章 トルナクロイブ神殿〈1〉
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「……なんだ、これは?」
のこり3つのマーカーを打ちなおし、ウラエイモス樹海のマップデータを更新させたアフマルドとエスメラルダのパーティーがトルナクロイブ神殿へ到着すると、先着しているはずの魔装剣将スラエタオナのパーティーの姿がなかった。
神殿前にのこされていたのは、氷結竜アガイミコルドスや戦鬼たちの乱れた足跡と数人の戦鬼と魔導師の遺体だけだった。
「22分前についたと云う連絡がありましたのに」
スラエタオナのパーティーの魔導師から連絡をうけていたエスメラルダも困惑した。連絡後にEPが加算されたので、スラエタオナのパーティーが氷結竜アガイミコルドスとの戦いに勝利したことは疑いようもない。
しかし、味方にこれだけの犠牲者がでていながら、なんの報告もなく姿を消しているのは不自然だった。
「犠牲者は魔導師が3人に戦鬼がふたり。魔導師の死因は銃創です」
オリベとオフィーリアを護衛に遺体の検分へでていた魔導師ムードラがアフマルドとエスメラルダへ報告した。
槍鬼と銃鬼は周囲の警戒をつづけているが、魔導師を中心に車座となり、今後の作戦会議をおこなっていた。オリベたちもムードラのかたわらへひかえている。
「銃創! ……と云うことは盗賊団に襲われたと云うことか」
「私たちへ連絡させないため、先に魔導師を全員殺したと云うのね」
「ちょ、ちょっと待ってください! 盗賊団はひいたんじゃなかったんですか!?」
ふたりの言葉に魔導師ブプルノホテプが狼狽した。
「昨晩、盗賊団のあらわれなかった理由がこれか。かれらはトルナクロイブ神殿へ先まわりしていたんだ」
オリベのつぶやきにアフマルドたちもうなづいた。
「ひいたと思いこませることで我々を油断させたのだ。寝こみではなく、直接、攻撃をしかけてくるとは……」
アフマルドが自身の読みの甘さに臍を噛んだ。盗賊団は神殿からの帰路の寝こみを襲ってくると踏んでいたのだ。
「盗賊団は神殿へ逃げこみ、スラエタオナたちがそれを追っていったのですね」
エスメラルダがイオニア式の長大な柱でささえられた石造りの神殿へ目を向けた。
神殿の後部は樹海をさえぎるヴェイネヘール山脈の屹立する岩肌へとつながっている。山の奥へつづく地下迷宮の入口である。
アフマルドが〈メモリング〉のコマンド画面を表示して、かつて訪れたことのあるトルナクロイブ神殿の地下迷宮地図をひらいてみたが、ブラックアウトした画面に『NO DETA』の赤い文字が明滅していた。
「くそ! やはり以前のマップは役に立たんか」
マップ画面からアフマルドのパーティーがトルナクロイブ神殿にいることだけはわかるが、神殿のどこにいるかまではわからない。地下迷宮地図は自力で踏破して復元させるしかない。
「おちついてアフマルド。崩れたりしているところがあるだけで、全体のレイアウトがかわっていることはないと思う。中へ入れば思いだせることもあると思うから、慎重に進めばなんとかなるわ」
「うむ。しかし、地下迷宮をどう進む? これだけのパーティーでまとめてかかるわけにはいくまい」
「盗賊団が待ちかまえている可能性もあるぞよ」
魔導師ミランダが楽しそうに目をほそめて云った。
「私たちのパーティーを4つに分けて、1ブロックごとに間隔を空けて進みましょう」
長い隊列を保持するのではなく、分散させて前後に逃げられる空間を確保しておくと云うことだ。




