第2章 ウラエイモス樹海調査団〈16〉
「じゃあ、アフマルドのパーティーにのこされていた脅迫文は?」
「そうだな……負け惜しみかな? 思ったほど戦果が上がらなかったから」
「それって男の人の考え方?」
オフィーリアが小さく首をひねった。女性にはわからない感覚だと云いたいらしい。オリベも小さく頭をふった。
「どうかな? 本当はなんのメッセージものこさなかった方がブキミさは増したと思うけど、安っぽい自己顕示欲がでたのかもしれない。姑息な人間のやり口なんてわかりたくもない」
吐き捨てるように語るオリベにオフィーリアが同意した。
「そうだよね。そんなのわからなくていいよね」
「……敵の考えを読むのは戦場の基本だぜ。それができねえってことはアタマで劣るってことじゃないのか? なあ、ダンプティ?」
前を歩く銃鬼がふたりの会話にふりかえって云った。右腕の手甲に大筒が備わっている。『憂蒼の薔薇』のハンプティだ。
「ああ。アタマ悪いってことだな」
左腕の手甲に大筒を備えた銃鬼ダンプティが口元に下卑た笑みをうかべた。
「なに、その云い方?」
気色ばむオフィーリアを挑発するようにハンプティも笑った。
「アホさらしていばんなって云ってんだよ」
「じゃあ、あんたたちは盗賊団のもくろみが読めてるってわけ?」
「当たり前だろ」
「説明してみなよ」
「悪いけど、アホには説明してもわからねえよ」
「……とどのつまりは、あんたたちにもわからないってことでしょ?」
「ちげえって云ってんじゃん」
「口先だけのバカふたりが図に乗ってんじゃないわよ」
「なんだと!?」
「……やめろ、オフィーリア。相手にするだけ時間のムダだ」
小学生の口ゲンカみたいな売り言葉に買い言葉で険悪な空気を急速に醸す3人にオリベが割って入ると、後衛から緊迫した声が上がった。
「5時の方角から飛蛇グイヴェルの群れ! 戦闘態勢!」
パーティー全員が踵をかえすと、かれらの背後から樹海の梢の間を縫うように黒い塊がザアッと音をたてて飛来した。
ワニのような四角い頭部をもつ全長1mほどの太い有翼の蛇である。ドラゴンのなりそこないと思しき異形の群れが、宙をクネクネと這うようにパーティーの頭上へ急襲した。
ふつうなら飛蛇グイヴェルの群れは多くても10匹程度だが、アフマルドとエスメラルダのパーティーへ向かってきたのは100匹をこえていた。後衛の戦鬼の迎撃をかいくぐった飛蛇グイヴェルは前衛の戦鬼にまで牙を剥いた。
「こざかしい!」
魔装槍将アフマルドが頭上で神式突刹徽槍をふりまわしながら吼えた。
「円月滅覇斬!」
神式突刹徽槍の穂先がかがやいてアフマルドの頭上へ光の円が描かれると、虹色の衝撃波が放たれた。樹海がドン! とゆれて、飛蛇グイヴェルの群れが赤い血煙とともにボトボトとおちていった。一瞬でほとんどの飛蛇グイヴェルを狩りつくしていた。
「スゲエ!」
思わずシンキが感嘆の声を上げる。
「まだだ!」
かろうじて生きのびた数匹の飛蛇グイヴェルがパーティーの隊列へ飛びこんだ。
「ぐわっ!」
完全に油断していたダンプティの右肩へ、群れのかえり血を浴びた飛蛇グイヴェルが噛みついた。
思わずのけぞるハンプティの影から躍りでたオリベが魔装斬双覇剣で飛蛇グイヴェルの首を一閃した。
飛蛇グイヴェルの頭部が肩に喰らいついたままのダンプティがうしろへ転び、斬りおとされた長い胴体が顔面へあたったハンプティもぬかるんだ泥の中へひっくりかえった。
ほかの数匹も難なくしとめられ、パーティー全員にEP12ずつ加算された。竜玉123個と竜眼212個もゲットする。
「痛ってえ」
地べたに座りこむダンプティの右肩へ喰らいついた飛蛇グイヴェルの頭部を、オフィーリアが魔装美麗剣銃の切先ではじきおとした。
「……口先だけのとんだヘタレね」
魔装美麗剣銃を肩にかついだオフィーリアが泥まみれの醜態をさらすハンプティとダンプティを嘲笑した。オフィーリアとならんで立つオリベも泥の中へへたりこむふたりを無言で見下していた。
「くそったれ!」
ハンプティが頭部の切断された有翼の蛇身を腹の上から払いのけて悪態をついた。
「ではみんな、先へと進もう!」
アフマルドの号令でふたたびパーティーが動きだした。オリベとオフィーリアはハンプティとダンプティには目もくれず隊列について移動をはじめた。
「……いい気になるなよ」
ダンプティが冥い瞳でオリベとオフィーリアのうしろ姿をにらみつけていた。




