第2章 ウラエイモス樹海調査団〈15〉
ムードラのえた情報がすべて真実であったと仮定すると、賊鬼である可能性が高くなるのは『憂蒼の薔薇』の魔装剣鬼アルジャヒムと魔導師ミランダ。『ハッピーホッピー』の魔装銃妃パトリシアである。
(ミランダさんが盗賊団の内通者だとしたら、あんまりそれっぽくて興醒めだよね。これがミステリとかだと一番それっぽくないパトリシアちゃんってことになるんだろうけど……)
失礼なことを考えている自分に微苦笑するムードラへミランダが云った。
「そなた、なにをニヤついておる? よもや、わらわとの淫らな妄想にひたっていたわけではあるまいな?」
「えええっ!? ぼく、そんなエロそうに笑ってました? ちがいます誤解です! エスメラルダさんとならそんな妄想もありですが、ミランダさんとはありえませんって!」
「なっ!? 失敬な!」
「……迷惑なのでやめてください」
ミランダが激高し、エスメラルダがしずかにうつむいた。
「あっはっは。ムードラくんは愉快だなあ。ミランダさんともいいコンビじゃないか」
女魔導師たちの反応をおもしろがって魔導師ブプルノホテプが笑った。
「こやつとコンビ!? かようなエロ魔導師と一緒にするとは侮辱じゃ! そこへなおれ、ブプルノホテプ! わらわがこの場で引導をわたしてくれる!」
「ええっ!? 今度はおれ?」
隊列の中心でギャーギャーとくだらないことをわめいている魔導師たちを戦鬼たちがあきれたようすで見守る。ともすると猜疑心でギクシャクしがちなパーティーの雰囲気がよいかんじでなごんでいた。
「3人とも。いつどこからドラゴンがでてくるともかぎらないんですよ。あんまりはしゃいではいけません」
おだやかな口調で諌めるエスメラルダへ3者3様に頭を垂れた。
「うむ。わらわとしたことが軽率であった」
「ええっ!? おれも?」
「すいませんでした」
(……いろいろ考えてはみたけど、まだこのパーティーに賊鬼がまぎれこんでいると決まったわけじゃないし、これ以上考えてもしかたないか。アフマルドのパーティーと合流したあとでどれだけ向こうの情報がえられるかが鍵だな)
灰色の雲が密度を増し、冥くなりつつある空をながめながら魔導師ムードラは思った。
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ウラエイモス樹海調査団・4日目。
魔装槍将アフマルドと法印魔導師エスメラルダのパーティー総勢49名はとんだ肩透かしを喰った。昨晩の被害者はゼロ。何者かが結界へ触れた形跡すらなかった。
ログオフ後も何人かは不安にかられて、ようすを見にきた者がいた。その中にはへムードラが盗賊団の内通者の容疑者として挙げた『ハッピーホッピー』の魔装銃妃パトリシアもいた。
(パトリシアが盗賊団の一味なら襲撃のないことはわかっているはずだから、あえてようすを見にきたのは偽装工作ともとれるけど、だれに疑われているわけでもないのにそこまでするかな?)
ムードラはひとりごちると大仰に肩をすくめた。盗賊団の情報のやりとりが『ドラグーン・ゲヘナ』の外でおこなわれている以上、どれだけ脳内で詮索しても無意味だ。
2日つづけて犠牲者のでていたアフマルドのパーティーは安堵した。ここでアフマルド以外の犠牲者がひとりでもでていたら、パーティーリーダーとしての沽券にかかわるところだったが、むしろ今回は信用を回復したと云えよう。
アフマルドたちのパーティーが襲撃されなかったことは魔導師を通じて、魔装剣将スラエタオナと魔装銃将シェナンパのパーティーへもつたえられた。もちろん、かれらのパーティーも襲撃されていない。
小雨のぱらつく曇穹の下、すべてのパーティーが最終目的地であるトルナクロイブ神殿へと歩を進めた。
アフマルドとエスメラルダのパーティーは少々隊列がかわり、魔導師を中心に前衛と右翼をアフマルドのパーティー、左翼と後衛をエスメラルダのパーティーがかためる。
左翼についた魔装槍鬼シンキと魔装槍鬼ゲオルギウスが興奮した面もちで前衛を征くアフマルドのうしろ姿を目で追う。
「今日は魔装槍将の戦闘をおがめそうだな。ワクワクするよ」
「うむ。またとない機会である」
「ねえオリベ。どうして盗賊団は昨夜、私たちの寝こみを襲わなかったのかな?」
オリベの左を歩くオフィーリアがたずねた。外側から槍鬼・銃鬼・剣鬼の順に隊列を組んでいるためだ。ちなみにヨッシーは今日もムードラの護衛として魔導師のそばへついている。
「労多く功すくないと踏んだからじゃないかな? 北は峻厳なヴェイネヘール山脈にはばまれて移動が大変だし、ウラエイモス樹海の最西から野営地までマップで4ブロックもあったじゃないか。ぼくらでも1日5ブロックしか進めないのに、盗賊団が4ブロックを往復できるとは思えない」




