第2章 ウラエイモス樹海調査団〈14〉
「ねえねえ、パトリシアさんのもともとのパーティーって何人?」
オフィーリアがなんとなく話題をかえた。
「私たち『ハッピーホッピー』は5人です。私と魔導師ブプルノホテプ。彼につく剣鬼イコリカヤニと前衛の槍鬼ククルスドアン、そしてバルテュスです」
「ふうん。……アルジャヒムさんは『紅蓮の傭兵団』じゃないよね?」
シンキの言葉にアルジャヒムがうなづいた。
「おれは『憂蒼の薔薇』。と云っても、参入したのは1週間前。それまでは教団のパーティークエストでレベルアップしてた」
「魔導師ミランダさんのパーティーってことね」
「ああ。のこりは左翼の銃鬼ふたりと後衛の槍鬼。でもミランダが参入したのはこのクエストの前日。おれより新参者。一匹狼の集まりみたいなかんじが気に入ってる」
「パーティーは苦手ですか?」
「あまり得意じゃない。でも今後のレベルアップを考慮すると、戦闘の連携が密な方がいいと思って」
「そうですね」
オフィーリアが同意した。
『ドラグーン・ゲヘナ』の戦闘(狩り)には敵味方のターンがない。
敵の攻撃と味方の攻撃が交互におこなわれるのであれば、攻撃分担などを決める時間的余裕が生じるものの、リアルタイムの戦闘ともなると、パーティー同士の阿吽の呼吸が必要不可欠となる。
オフィーリアたちのパーティーが雨のジギゾコネラ火山でレベル52の雷電竜ライカギゲルスに遭遇した時も、お互いを知りつくしているパーティーの連携がうまくいったからこそ、なんとかドラゴンを倒すことができたのだ。
鬼将や法印魔導師レベルになろうと思ったら、信頼に足る仲間を見つけることも重要となる。
「……へえ、パトリシアちゃんは3日前に『ハッピーホッピー』へ合流されたんですか。『ハッピーホッピー』ってパーティー名もゴキゲンでいいけど『憂蒼の薔薇』も妖艶なミランダさんぽくって似あってますね」
魔導師ムードラが能天気な口調で云った。隊列の中央に固まる魔導師の輪の中でムードラが重々しい空気を払拭すべく、しきりに話しかけていた。
「『憂蒼の薔薇』は、わらわが命名したわけでなない。そもそもは左翼の銃鬼ハンプティとダンプティ、後衛の槍鬼マハカンドラがいたパーティー名じゃ。やんごとなき事情で魔導師がぬけたと云うので急遽加入してやったまでじゃ」
「ミランダさんはやさしいんですね。かれらのレベルって高いんですか?」
「まずまずと云ったところか。レベル32前後じゃ」
「へ~、そうなんですかあ」
軽薄を装いながら感心するムードラは心の中で別なことを考えていた。
(レベル32の戦鬼たちが、レベル26の魔導師をスカウトする? ちょっと格下すぎないか?)
防御あるいは回復魔法で戦鬼を援護する魔導師のレベルは高い方がいい。レベル32の戦鬼であれば、最低でもレベル28以上はほしいところだ。
(いないよりはマシってかんじで、とりあえずスカウトしたってところか)
ムリをしてレベルアップせずに魔導師を育てると云う選択肢もある。獲得したEPはパーティーへ均等に分配されるし、レベルの低い方がすくないEPでレベルアップできるからだ。
(ま、ぼくだってレベルの高い男魔導師か、レベルは低いけど女のコの魔導師どちらとパーティーを組む? って聞かれれば、女のコの魔導師と組むもんな)
ムードラのパーティーも全員たまたまクラスメイトだったと云うだけで、効率重視で集まったものではない。
(ただ、もしもこのパーティーの中に盗賊団の内通者がいるとしたら『ハッピーホッピー』か『憂蒼の薔薇』のどちらかってことになる)
ムードラは自分のパーティーと魔導師エスメラルダ『紅蓮の傭兵団』は最初から除外していた。『紅蓮の傭兵団』が盗賊団であれば、ムードラたちが最初に遭遇したジギゾコネラ火山で襲われているはずだ。
もちろん『紅蓮の傭兵団』の中に盗賊団の内通者がいる可能性もなくはない。だとすれば、盗賊団に獲物として狙われていたのは『紅蓮の傭兵団』と云うことになる。
しかし、獲物としては人数が多すぎる。一般的なパーティーは4~6人。『紅蓮の傭兵団』12人を相手にするなら、盗賊団にはそれ以上の人数が必要となる。
『ドラグーン・ゲヘナ』の世界でレベル30前後はさほどめずらしくない。多勢で4~6人のパーティーを襲うほうが効率もいい。そのため『紅蓮の傭兵団』は除外される。のこるは『ハッピーホッピー』と『憂蒼の薔薇』である。
(盗賊団の内通者がいるとしてもひとりかふたり。パーティー全員が賊鬼である可能性も低い)
ウラエイモス樹海調査団に便乗して鬼将らのEPをうばおうと画策するのであれば、最低でも4人は賊鬼がまぎれているはずだ。
アトランダムに編成された4つのパーティーだが、細かい人数修正でちょろちょろと戦鬼たちの移動があった。その時にうまく4つのパーティーへ賊鬼がまぎれこめる可能性は低い。
万全を期すなら8~10人の内通者がほしいところだ。つまり、賊鬼がひとつのパーティーとしてまとまるのは人員のムダとなる。
魔導師エスメラルダのパーティーは4つのパーティーで構成されているが、ほかのパーティーには、パーティーとしてではなく個人参加している戦鬼もいる。
とくに魔装槍将アフマルドのパーティーへ個人参加している戦鬼は居心地の悪い想いをしているだろう。盗賊団の内通者と疑われやすいからだ。云いかえれば、どこかのパーティーへまぎれている方が疑われにくくなると云うことである。




