第2章 ウラエイモス樹海調査団〈10〉
「どうやってぼくらの位置を特定するのか? それは簡単だ。マーカーが打ちこまれるのをマップ画面で確認していればいい。そこからつぎのエリアまでの移動時間で距離を概算すれば、おおよその野営地は見当がつく」
「調査団クエスト時間の上限が3時間と決められているから、のこり時間で見当がつけられると云うわけか」
「うん。ぼくらがウラエイモス樹海へ入った頃を見こして、敵も樹海へやってくる。そして樹海の外で夜を待ち、ログオフ後をねらってアフマルドのパーティーを襲ったって考えるのが合理的だ」
「……もっとかんたんな話ですよ」
イスカリオテとマルコロメオのひそひそ話に魔導師ムードラが笑いながら水をさした。
「アフマルドのパーティーに盗賊団のスパイ、いわば〈ひきこみ役〉がいればいいんです」
「しかし、おなじパーティー仲間を殺すことなど……!?」
「スパイはこちらの世界ではなにもしません。ログオフしたあとリアルの世界で盗賊団の仲間へ野営地の位置情報を知らせればいいんです」
「云われてみれば……」
「その手があったか」
魔導師ムードラの言葉にイスカリオテとマルコロメオががっくりと肩をおとした。
「ただ、マルコロメオさんの云うとおり、敵の盗賊団だって神出鬼没ではありません。今頃、樹海の外で野営している可能性は大いにあると思います」
「その根拠は?」
イスカリオテのハテナにマルコロメオがこたえた。
「このフィールドの大物はレベル45の氷結竜アガイミコルドス。ほかの戦鬼の寝こみを襲ってレベルポイントをうばうようなチンケな盗賊団がウラエイモス樹海をウロチョロできるとも思えない」
「云われてみればそうだな」
マルコロメオの正論をムードラが補足した。
「ぼくら以上の大パーティーだとしたら、犠牲者が3人はすくなすぎます。以前、ハッキングやクラッキングにくわしい前衛の槍鬼ミドロガフチに聞いたんですけど、仮にゲルのクラッキングを試みたとしても、最短で1時間はかかるそうです。しかも相当専門的な知識が必要なんだとか」
「と云うと?」
「敵のクラッカーは最高でも3人。だけど、おそらくはひとりってことです。賊鬼魔導師の黒魔法だったとしても、ゲルの結界解除にはかなり時間がかかることはまちがいありません」
「そうだな」
うなづくイスカリオテにマルコロメオが提案した。
「やっぱり、エスメラルダさんの結界魔法があるぼくらのパーティーが、一旦クエストをおいてでも、樹海の外にいる盗賊団をさがしだして殲滅すべきじゃないかな? エスメラルダさんに奏上してこようか?」
『……その必要はありません。あなた方の会話は先ほどから興味ぶかくうかがっておりました』
3人の脳裏にエスメラルダの声がひびいた。
『みなさんのお考えは正鵠を射ていると思います。しかし、剣鬼や槍鬼や魔導師同様、賊鬼にも私たちの知らないSAがあるはずです』
SAとはそれぞれの職種に付与される特殊能力のことだ。剣鬼にはジャンプ力であったり、槍鬼には尋常でない破壊力、魔導師にはテレパシー能力がそなわっているように、賊鬼魔導師独自の特殊能力があると推察される。
(それがゲルの結界を解除する黒魔法だけでなく、私たち戦鬼やドラゴンから気配をかくすSAであれば、無駄足を踏むばかりかいたずらに犠牲者を増やすことにもなりかねません)
「……このクエストが長びけば、それだけ襲われる確率が高まると云うことですね」
『ええ。それに黙っていても敵はかならずあらわれます。野営時の結界を強化すれば問題はありません。その方法は私が考えます』
「さすがはエスメラルダさん。よろしくお願いします」
『がんばります』
3人の脳裏からエスメラルダのテレパシーが消えた。
「ホントすごいな、エスメラルダさんは。きれいでやさしくて頭がよくて。あんな人が彼女だったら最高だよな」
歩きながらうなづくマルコロメオが云った。
「あのさ、イスカリオテ。たぶん今のつぶやきもエスメラルダさんに聞こえてると思うんだけど」
「……あ!」
隊列の前方からクスクスと小さな笑い声がもれた。




